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誰が人魚を殺したか  作者: 凪子
【序章】
4/213

3

「お取り込み中のところ、すいません」


那智はあくまでも控え目な口調で、


「天上河原さん。今日はすいてるから、もう上がっていいって店長が。それ伝えに来たんだ」


じゃあと言って立ち去ろうとする那智の服の裾を掴み、透子は言い放った。


「行くんなら、この人も一緒に連れていって」


那智はぎょっとしたが、あやうく声には出さなかった。


男性はあからさまに顔をしかめている。


威圧感と敵意を感じ取り、那智は小声で尋ねた。


「彼氏?」


「ううん」


透子は首を振って、


「紹介するね。天上河原真てんじょうがわら・まこと、私の兄です」


那智は「お兄さん」と口の中でつぶやき、軽く会釈えしゃくしてみせたが、真は頭を下げなかった。


突き刺すような眼差しでこちらをにらんでいる。


「こちらは同じ大学の佐倉那智君。恋人同士なの」


その紹介に一番驚いたのは、他ならぬ那智本人だった。


今まで透子と話した機会は数えるほどで、恋人どころか二人きりで会ったこともないのだ。


何故そんな苦しい嘘を?


目で問いかけてみるが、透子の瞳は必死で何かと戦っていて、答える余裕はなさそうだった。


「この人と一秒たりとも離れないって約束したの。だから島に戻れというのなら、佐倉君も一緒に行くわ。ね?」


懇願する眼差しを送られ、ともかく話を合わせようと那智は頷く。


真は不信感がふんだんに盛り込まれた視線で那智を精査する。


その場しのぎのでっち上げに気づいているのは明らかだった。


緊迫した数秒間が過ぎ、やがて真は太い息を吐いた。


「……仕方ないな」


透子がぱっと表情を明るくしたのもつかの間、


「そういうことなら、島に連れてきて紹介しておけ」


予想外の展開だったらしく、透子は「え」と声を上げた。


頬のあたりを強張らせている彼女の肩をたたき、真はさとすように、


「一緒に来てもいいと言ってるんだ」


「そんな。だって」


おろおろと透子は視線を彷徨さまよわせる。


「よそ者は受け入れないんでしょう?」


「事情が違う」


真は目を伏せると、沈痛な声で、


「……母さんが死んだ」


透子は、音のしそうな瞬きをした。



















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