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「何しに来たの」
壁際に立って腕を組み、透子は剣呑な表情で問いただした。
「何回も電話した。それにメールも」
男性は溜息まじりに、
「携帯見てなかったろ」
「お互いさまでしょ」
取り澄ました彼女の顔から足先まで、男性はじろりと眺め下ろす。
どこか憮然とした様子に、透子は眉を寄せた。
「何?」
男性は透子の膝丈スカートを指さし、
「短すぎるんじゃないか」
「わざわざそんなこと言いに来たの?だったら帰って」
両手で男性の胸あたりを押しやると、彼はその手を掴んで言った。
「島に帰る」
島という単語に、透子のまぶたが引きつった。
「今晩の船を予約してある。お前も一緒だ、透子」
「いきなり、何で……」
茫然と言った語尾が掠れてわななく。彼はそれには答えず、透子の手を引いた。
「行くぞ」
「ちょっと待って。私まだバイト中だよ」
「帰らせてもらえ」
「できるわけないでしょ、そんな勝手なこと」
離してよ、と透子は腕を振りほどこうと大きく振った。
それがまともに顔面に当たりそうになって、那智は身をのけぞらせた。
予期せぬ闖入者に、二人の動きが硬直する。