1
――赤玉は緒さへ光れど白玉の君が装し貴くありけり
【序章】
その本屋は大学の敷地内、講堂から正門までの道のりにあって、ラーメン屋やカレー屋や食堂が派手な看板を掲げてひしめく中に身をひそめるようにして建っていた。
書店でもなければブックセンターでもなく、小さな町の本屋という感じだった。
講義で使う教科書は生協で売っているし、駅前には四階建ての立派な大型書店があったから、その本屋を訪れるのはもっぱら暇を持て余した学生や雨宿りのサラリーマンや、パックされていない雑誌を気兼ねなく立ち読みしたい客だった。
だから彼が本屋を訪れたとき、那智はすぐに気づいて目を上げた。
九月も下旬に差しかかった日の真昼時、水のような風と黄金の陽のかけらが自動ドアの合間をぬって流れ込み、小さなあくびを一つ噛み殺したところだった。
背が高く、精悍な顔立ちをした男性だった。
若いが、学生には見えない。
迷いのない足どりで入店すると、鋭い目つきで店内を一瞥し、那智のいるレジカウンターまでやってきた。
「天上河原透子をお願いしたいのですが」
那智が目をしばたかせていると、そこへ棚整理をしていた本人が戻ってきて、男性客を見るなりさっと青ざめた。
そして一言も言わず彼の腕を取ると、猛烈な勢いで店のバックヤードに連れていった。