オークス平原に来た
「うーん、オークキングですか。ちょっと難しいのでは?」
受け付けのお姉さんは眉を八の字に曲げて唸っていた。どうやら気が乗らないという様子である。まあ、気持ちは分かる。俺が彼女の立場なら同じようにして苦言を呈していただろう。なんせつい最近までゴブリンたちのクエストを受けていた俺である。いきなりオークキングは無理があるだろう。
だが、俺はここが無理のし時だと考えていた。
そりゃゴブリンナイトは怖かったさ。デカく凶暴でサーベルも持っていた。牙も爪も強力で、俺一人だったら間違いなく負けていたと思う。
だからこそ、無理をするならばここなのだ。
この先いつなん時、どのようなハプニングでメシュアの存在が大衆の目に触れるか分からない。最悪の場合、俺も父親のようになるかもしれないのだ。まぁ、メシュアには”弱いスライムのフリ”をしてもらうことも可能だが。
でも、アガドはそうもいかないだろう。
一応は、「Sランクのモンスターなのに弱い」という証言は得られる。「英雄の誉」とかいうパーティが最高にして最強のアリバイになってくれるだろう。だが、不測の事態ってのは俺が予測できないからこそ「不測の事態」なのである。
なんらかのイレギュラーが差し挟まってくる余地は十二分にありえるのだ。
だから、俺は少し焦っていた。今のうちにダブルサモンを習得してしまおう、と。
「大丈夫ですよ。頼もしいSランクの方が同行して下さりますから」
嘘ではない。アガドはれっきとしたSランクモンスターである。非戦闘型ではあるけれど。
「そうですか? まあ、それならいいんですけど」
こうして俺はBランククエスト、オークキングの討伐依頼を請け負ったのだった。
☆ ☆ ☆
オークというモンスターは獣人族のモンスターである。ゴブリンのようなオーガ族とは違い知能指数もまあまあ高い。そんなオークの中でも一際強いと言われているのがオークキングである。深緑の肉体とキッとした切れ長の目つきが特徴的なモンスターだ。
オーク? はん、どうせ豚だろ? と侮ってはならない。
こう見えても彼らの体脂肪率は滅茶苦茶に低いのだ。肉体のほとんどが筋肉で作られており、運動神経はかなり高い。オークたちはまさにタンカーとでも呼ぶに等しい存在なのだ! 体当たりでコンクリ壁をも粉砕できる程なのである!
「ま、俺も無策じゃないけどね」
俺はメシュアを連れ『ケモノ一本道』を歩いていた。
この道をまっすぐに進むと牧歌的な平原が見えてくるという。その名も『オークス平原』! オークやケンタウロスなどの獣人モンスターが数多く生息しているという。
この『オークス平原』では数十年にも及ぶ領土争いが繰り広げられ、敗れたケンタウロスはオークたちに追い出されたらしい。故に、この『オークス平原』ではケンタウロスというモンスターはレアな存在とされているのだ。
「とっておきの さくが あるのかい?」
メシュアの問いに、俺は無言で頷いた。
相手はオークキング。普通に戦えば一方的に惨殺されて終わりだ。だが、俺にはメシュアがいる。そしてメシュアはあの”大岩”を取り込んでいるのである。
ユニークゴブリンを倒した時と同じ要領で大岩を落としたらどうなるか?
考えるまでも無い。いくらオークキングとはいえぺしゃんこだ。
「メシュアが鍵さ」
「え? ぼくが?」
「そう。なんたって君は」
俺が言うよりも早くに、メシュアは誇らしげに言って見せた。
ぴょんぴょんと飛び跳ねるのは喜びの感情を表しているらしい、と最近気づいた。
「ぼくは ”すごい” すらいむだからね!」
☆ ☆ ☆
「グゥオオオオオオオオオオオッ!!」
うう、なんという威圧感! ただのオークでさえこの剣幕!
だとしたらオークキングは一体!?
ええい! 考えるな! 今は目の前の敵を倒すんだ!
「メシュア! あれをやるぞっ!!」
「がってんでいっ!!」
俺はメシュアを分裂させた。小さく分裂したメシュアの1匹1匹が、とある物体を取り込んでいる。
「くらえ! メシュア散弾!!」
それは散弾銃である!
その散弾銃を一気にメシュアが発砲する!
ゼリー状のメシュアにはノーダメージだが、オークはその限りではない。
散弾の威力で飛び散ったメシュアは――、
「クローズ! サモン!!」
クローズで瞬く間に元通りだ。
これぞ最強の連係プレイである!
俺たちはこんな調子で次から次へとオークを倒していった。稀にケンタウロスも現れたが、奴らも難なく撃破していった。そしてついに――!
「ヨクモ、オイラノ ナカマタチヲ!!」
決戦! オークキングの開戦だ!