【特別死刑囚】
「さあ、出ておいで。私の可愛い奴隷たちよ」
――ここは、憲兵組織が所有する土地の地下に存在する就労施設である。ここにいる人間はみな重大な犯罪を犯した者であり、例外なく【特別死刑】の対象になっている。
【特別死刑】――本来は死刑を以てして贖罪が完了する為、死刑囚には牢獄での平穏な生活が(基本的には)保障される。だが、特別死刑囚はその限りではない。死ぬまでの間、地獄のような重労働を強いられるのだ。
その過程で死に至る者も少なくはない。
どれ程鍛え上げられた人間であろうとも、一日の睡眠時間が二時間にも至らず、かつ、充分な装備を与えられずに不衛生な環境での労働を強いられれば、一ヶ月後にはズタボロだ。
だが、ゼロスはそんな彼らに一つの救いを提案した。
「私の刻印をその身に刻め。さすれば、労働だけは免除してやろう」
特別死刑囚は藁にもすがる思いでゼロスにすり寄った。そこにはマッチョスやシャルロードの姿も拝見された。
「はぁ、はぁ、お、俺が……わるがっだ! も”、ゆる”じでくだばい……ッ!!」
マッチョスは涙を流しながら懇願したという。
もちろん、ゼロスは彼にも救いの刻印を与えた。
「殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ、殺してくれ……」
頭のおかしくなっていたシャルロードも、ゼロスによる救いを受けてから一か月後には、自らの意志で床を這いつくばれる程度には回復したらしい。
「さぁ、私の奴隷たちよ。今こそ飼い主に忠義を示す時だ!!」
フェーズ・ツー。
民間人の次は、無数の犯罪者の解放である――!
「さて。止められるかな? ヴェルウォーク。ヒメト・ヨリシロというカードを切ってしまったお前に、なにが出来るのか見せてくれ」
☆ ☆ ☆
場面は移ろい、合流を果たした騎士団メンバーの様子である。
始めに異変を感じ取ったのはスノウスだ。
「……団長、収容施設の方角からなにか来る」
極光の騎士団サイドで動ける人間はフレンゼ・スノウス・ヴェルウォークのみである。追加戦力のヒメト・ヨリシロとゾイド・ペンターク、この二人は別行動だ。
つまり、集結した戦力は三人。
対する相手の数は――
「……目算二百人以上。――奴らは、【特別死刑囚だ】」
スノウスは氷魔法の応用で自身の瞳に氷の結晶を創造、それは遠眼鏡の役割を果たしていた。
「まさか【特別死刑囚】を解放するとは。ぶっ飛んでるねぇ、憲兵!!」
ヴェルウォークの声には怒りが滲み出ていた。
「もう論理感もクソもねぇな。なんでもござれってことか……下種が!」
フレンゼも怒髪衝天の形相だ。
「殺さない程度に動きを封じる――だが、彼らは【特別死刑】を言い渡されるほどの罪を犯した大罪人であることも事実。最悪の場合は殺めてしまっても構わない。責任は全て俺が取る」
「……それは格好つけすぎ」スノウスが言う。
「俺たちも背負うさ。いや、背負わせてくれよ団長!」
「やれやれ。君たち普段はいがみ合ってるくせして、こういう時だけは可愛らしいとこ見せるんだから。まあ、喧嘩する程なんとやらってやつかな?」
「団長、それだけはねぇ」
「……それはあり得ない」
二人の声が重なった。こんな時だというのに、ヴェルウォークは少しだけ肩の荷が降りたような気がした。
「さて、行こうか。厳しい戦いにはなるだろうけど、死んだら怒るからね?」
☆ ☆ ☆
一方その頃、ゾイドは動けなくなったルルをメシュアの「無限収納」によって収納し、「超回復」で傷を回復させながら、迫りくる【特別死刑囚】の軍団の方角へと飛行していた。
この飛行はメシュアのスキル「浮遊」+「推進力」の合わせ業だ。
「民間人が進軍を始めたと思ったら、今度はなんだ!?」
「あれは とくべつしけいしゅう の ぐんだん だね!」
「【特別死刑囚】!?」
ゾイドの脳裏に二人の男の顔が浮かんだ。
かつて身勝手な理由で街の住民を大量に殺害した大罪人。
「どうやら けんぺいのやつらは とくべつしけいしゅうも りようする つもりらしいね」
「まさかあの二人も解放されてるんじゃないだろうな?」
「さあ、どうだろうね? でも そのかのうせいは じゅうぶん あるとおもうぜ」
「クソがッ!!」
もう二度と顔を見ることは無いだろう。
そう思っていた。そう確信していた。それなのに……。
「どいつもこいつも、揃いも揃ってふざけやがって」
シャルロード、そしてマッチョス!
せめて俺と遭遇しないよう神に祈りを捧げておくことだ。
「次にその顔を見たら、生かしておける自信が無いからな」
ゾイドの瞳に宿るのは怒りを遥かに凌駕した感情。
それは、汚れのない純粋な殺意であった――。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!




