メシュアとの相性は抜群だった
1話飛んでましたすみません!!
どういうことだ!?
俺は混乱する頭で思考を巡らせたが、その思考よりも早く、俺の体は建物の陰へと姿を潜めていた。見つかったら面倒なことになると思ったからだ。
「なんでマッチョスがこんなところに!?」
考えても考えても分からない。
だがあの喧騒の雰囲気から察するに穏やかな感じじゃないのは伝わってくる。マッチョスが大声をがなり上げ、吠えられている相手はぺこぺこと頭を下げているのだ。
「あいつ、ここでもこんな横暴な!」
こうなったら、メシュア様の性能にかけてみるしかないか……。
俺は小声で「サモン」を唱え、メシュアを呼び出した。
「なんだい!? さっそく――」
「しーっ!!」
俺はメシュアの口に右手をぶち込んだ。冷静さを欠いていたのでこうするしかなかったのだ。許し給え我が君よ!
「もがもが? もが?」
「ご、ごめん! 緊急事態だ! 小声で頼む!!」
「わ、わかったよ! それで どうしたんだい?」
俺はひょこっと建物の陰から半身を乗り出した。
視線の先では相も変わらずマッチョスが横暴なふるまいを見せている。うん、実に腹立たしい!
「あいつは俺を追放した「英雄の誉」のリーダーだ」
「なんだって! やろう、ぶっ―自主規制―してやる!!」
そういうことを言うんじゃない!
ま、俺も腹立ってるけどな!
「メシュア! 前やったみたいに分裂できるかい? できるだけ小さくなって欲しいんだけど」
「まあ できるけど」
「その分身体とは意思疎通は図れるのか?」
俺はメシュアを通信機器のように使おうと企んでいたのだ。
なぜマッチョスがここにいるのか? どうしてもその答えが知りたかった。
「いしのそつう? そんなことしなくても いしは きょうゆう してるぜ!」
うむ。
つくづく俺の予想を上回ってくるな。もうスライムを名乗る未知の生物だろ。そうつっこみたいのをぐっとこらえ、俺は満面の笑みで親指を立てた。
「グッジョブ! 完璧だ。 メシュアも憎いだろう? あの筋肉男が」
「もちろん! とりこんでやりたいくらいに にくたらしくおもってるよ!」
「よし! ならば行ってくるんだ! その小さい体なら見つかることはないだろう!」
「がってんしょうち! めしゅあごう はっしんするぜい!」
メシュアは小さく分裂し、マッチョス目掛け発進していった。
車みたいな形状になっていたのを見るに、結構色々なものに擬態できるらしい。
まさか、車を取り込んだのか? はは、そんなわけないよな。そんなわけ……。
「あの岩を取り込めたならいけるよな」
俺はミニメシュアを右耳にあてがった。
イヤリングサイズになったメシュアは親指と人差し指でつまめるくらいのサイズで、状況的に探偵小説の主人公になったかのような錯覚を覚えたくらいだ。
「私は安楽椅子探偵。犯人はあなたです! ドイル・ザ・リッパ―さん!」
そんな適当すぎる妄想が脳内で展開されかけた。
――てめぇ、この俺が誰だか分かってんのか!?――
メシュアを通じマッチョスの声が聞こえてきた。
正直二度と聞きたくない声だけど、それでも聞かずにはいられなかった。
どうしてこんなことになっているのか。そして、どうしてこんな場所にいるのか。それが気になって仕方ない。まさか俺を追いかけてきたのか? そんなことはないと思いたいのだが……。
――俺はあの「英雄の誉」のリーダだぞ!?――
うう、相も変わらず横暴だな。自分が王様かなにかだと思ってんじゃないのか?
――で、でも、「英雄の誉」ったら、最近Bランクのクエストで失敗したんだろ?――
――黙れ! ぶん殴られてえのか! あれはたまたまなんだ! まぐれなんだ!!――
俺は首を傾げた。
Bランクのクエストを失敗しただって? そんなバカなことがあるのか?
だって「英雄の誉」ったらSランクのパーティだぞ!? それにお荷物の俺がいなくなったんだぞ?
……まさか?
そこまで考えて、俺はある一つの可能性に思い至った。
それは俺が最初にテイムしたモンスターのことだ。父の形見であり神属性の超激レアモンスター。その名も『アガド』。アガドの能力は「絶対王者」なのだ。この能力は対敵したモンスターの能力値を大幅にダウンさせるというものだ。
「まさか、アガドがいなくなったせいなのか?」
それだけじゃない。アガドの「絶対王者」は”俺以外”の人間の能力を向上させる効果もあるのだ。「絶対王者」は俺に決定権が委ねられており、この能力を誰に付与するかは俺の意志に依存する。
俺が「A」と「B」に絶対王者を付与させたいと思えばその通りになるし、その逆もまた然りだ。俺は「絶対王者」の付与対象から「英雄の誉」を外していたのだ。追放された、その日のうちに。
「まさか、ね」
「絶対王者」の効果を試す方法はある。
俺がダブルサモンを会得し、「絶対王者」の効果対象をメシュアにしてしまえばいいのだ。これでメシュアがいつも以上の暴れっぷりを見せたなら……。
「クローズ!」
俺は分身を回収させるのも面倒なのでメシュアをクローズした。その後もう一度「サモン」を唱える。
「あれ?」
やはりな。
どんなに分身しようともメシュアはメシュアで一個体だ。
クローズで一気に「元のメシュア」に戻すことができる。
俺とメシュア、そしてアガドか。やりようによってはSランクパーティも作れるかも?
まずは「英雄の誉」で実験してみよう。
成功すれば、俺の父を殺した憲兵の奴らを後悔させてやれるかもしれない。
「なんで くろーず したの?」
「面白いことを思いついたからさ。とりあえず、クエスト受注に向かおう」
メシュアは「やいやい」と湧き上がった。
「つぎは どんなやつが あいてかな!?」
俺は心の中で呟いた。
次は、オークキングさ……!