カルメラVSラウス
ラウス・デュークスは感嘆の溜息を漏らした。魔道具を使用したとはいえ、そして一時的とはいえ、これ程までの魔力を出力できる相手と対峙するのは初めてのことだった。
ラウスは感涙の念と畏敬の念を抱き、そして同時に「絶対に勝利してみせる」という強い意志を心の奥深くに刻んだ。
「もはや敵味方など関係ない。純粋なる一魔法使いとして俺はお前を尊敬する。だが、だからこそ俺はお前を越えなければならないッ!! 俺は昇る! 昇り詰める!! 遥かなる頂へと!!!」
「暑苦し! そーゆーのはオトモダチとやってれば?」
カルメラは両手を絡め、天へと祈りを捧げた。すると十字架の剣は独りでに動き出す。縦横無尽に空を裂き、その衝撃波は大地と空を繋ぐほどの巨大さを有していた。
「これは……」
避けられん……! ならばッ!!!
ラウスは自身の体を魔力で強化、その後、超重衝を自身に付与し、超巨大な衝撃波を受け止めた。
「う”、う”う”う”う”う”う”……お”お”お”お”お”お”あ”あ”ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!
大地は抉れ、ラウスの素足は剥き出しになり、衝撃波を受け止める腕の筋肉はところどころがはじけ飛んだ。右手の指が三本圧し折れ、左手の小指が切断された。受け止めきれなかった威力は胸部から腹部にかけ、線状の傷跡を遺した。
「ぐぬ、ぐぐ……くっ、ふは、ふはっ! フハハハハッ!! 素晴らしい威力だ!! とてつもない威力、まごうことなく俺が今まで受けた攻撃の中で最強の一撃であった!!」
ラウスは鼻血を拭い、ニヤリと笑った。
「だが!!! 俺はこの一撃を受け止めた!! とてつもない程のダメージを負ったことは事実だそれは認めよう! だがしかし、俺はまだ戦えるぞ! ホイト・カルメラ!!」
「タフすぎでしょ、アンタ」
「次は俺の番だ!!」
ラウスは先ほどの衝撃波によって飛び交った瓦礫をはるか上空へと巻き上げた。巻き上げられた瓦礫はラウスの魔力によってその質量を数十~数百倍に増加させ、カルメラの脳天を目掛けて急速に落下する。
「さあ避けてみるがいい! 降り注ぐ小石の雨、その一粒一粒が鎧竜・ゴルドールの強靭な鎧を粉々に粉砕する程の破壊力を有しているッ!! わずか一粒でも衝突すればその人体箇所は容赦なく破壊されるだろうっ!!!」
ラウスの言葉に間違いはない。彼の放った魔法の破壊力は防御力特化の竜の鱗をも粉砕する。彼の魔法ならば、あの『アダマイトス』にすら傷を付けられるだろう。だが、彼は知らなかった。ホイト・カルメラの魔法の、その本質を。
「祈りというのは、誰に捧げるものか――」
カルメラの声に変化が生じた。
まるで何者かが憑依したかのような異質かつ荘厳な雰囲気。今のカルメラからはそんなオーラのようなものがひしひしと解き放たれていた。
「祈りとは、その場凌ぎの行為ではない――」
……なんだ? 奴の雰囲気が変わった? なんなんだこの禍々しいオーラは!! 当てられるだけで全身が泡立つかのような……これは、この感情は……まさか、まさかまさかまさか!!
「この俺が、恐怖しているッ!?」
強さを求め数十年。何度も何度も何度も何度も何度も、それはもう数えきれない程の戦闘経験を重ねてきた。遥かなる高みへ。強さの頂点へ。ラウス・デュークスはただひたすらに、それだけを願い求めて戦ってきた。そしてその闘いの日々の中で恐怖を感じたことは、一度もなかった。
「恐怖だと? この、この……俺が? 認めん、認めんぞ!! 俺はそんな感情、断じて認めないッ!!」
降り注ぐ瓦礫の雨。同時に、ラウスは帯刀していた剣を抜き、その質量をゼロにしてカルメラ目掛け放り投げた。
「仮に瓦礫を避けたとて、この剣は避けられまいッ!!」
重さの無い剣が魔力によって強化された肉体から放たれる。その最高速度は亜音速にも到達する程であった。だが――。
ズシャァアッ!!
「……がッ、は!」
……何故だ。何故、俺が貫かれる。
「祈りとは、日々の感謝の積み重ね。我が魔法はそれを魔力へと還元する。「ありがとう」という純真無垢な感情こそが、我が力となる――」
魔力風――。魔力を解き放つことによって生じる風圧。
数十年単位で積み重ねられた感謝の念は、魔道具の効果によって数十倍にも膨れ上がった。それだけではない。彼女の祈りの力は、自身に害をなす存在にのみ牙を剥く性質を有する。つまり、彼女の攻撃によって民間人が傷つくことはないのだ。
「たかが魔力風で、俺の剣を押し返したというのか。そんな、そんな……バカなことが」
俺は、ひたむきに強さを追い求めた。幼少の頃より必死の思いで努力を重ねてきた。何度も血反吐を吐き、何度も死にかけた。魔力強化なんぞに頼らずとも戦えるようにと、日常生活でも自分に何十倍もの重力を付与して生活してきた。俺は、誰よりも努力してきたんだ――。
「そんな俺がッ! ぐギギギギギギギギ、このっ、俺、が……!!!!!」
ラウスは渾身の力で無理やり剣を引き抜いた。腹部からは大量の血が噴水のように溢れ出したが、痛みはあまり感じなかった。アドレナリンが過剰分泌されているせいだ。
「この俺が、負けていい筈がッないのだああああああああーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
カルメラは満身創痍のラウスに容赦なく畳み掛ける。次にラウスを襲うのは、彼自身が巻き上げた瓦礫の雨である。
「そっくりそのまま汝に返そう。自ら撒いた種だ、自らで対処せよ」
「上等だァああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
引き抜いた剣を猛スピードで振るいながら、とてつもない破壊力の瓦礫を弾いていくラウス。しかし、どれ程剣の質量を落とそうとも、どれ程身体能力を魔力で強化しようとも、いずれ限界が訪れる。
「がっ!?」
始めに右腕が消し飛ぶ。弾丸が如くの瓦礫の雨は容赦なくラウスに降り注いだ。左腕が折れ右膝が砕かれた。そのまま倒れたかけた拍子に、トドメの一撃がラウスの左側頭部を完全に破壊したのであった。
「……はー、マジ疲れた。もう、無理」
カルメラはガクリと倒れ、意識を失う。
まさか民間人が自分たちに牙を剥こうとしているとは、この時のカルメラには知る由もなかった。
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