カルメラVSラウス & ザグラスVSリネット
「ぬっ! もの凄い魔力出力だ!! まさか貴様らの中にこれ程の者がいようとはな。……丁度良い、退屈していたところだ。貴様ももう虫の息だろう。俺はもう貴様に興味はない。早めに決着をつけるとしようか。祈りの十字架――ホイト・カルメラ」
カルメラは息切れも激しく、魔力の残量も僅かだった。触れた物体の質量を自在に変化させてしまう力。その圧倒的な魔法を前に防戦一方だったのだ。
「はー、はっ、はっ……ほんっとに、マジで勘弁して欲しいんですケド。そんなチート魔法で勝てて楽しいワケ?」
カルメラは地に這いつくばっている。身に纏う黒衣の重さを増加させられ、まともに立っていられないのだ。
「俺はただ自分を高めたいだけだ。昇って昇って昇って、やがて遥かなる頂点から全てを見渡したい。それだけが俺の願いであり生きがいなのだ。ゼロスはそんな俺の願いを叶え得る存在だ。だから与している。ただそれだけのことだ。さぁ、終わらせよう」
ラウスはさらなる魔力を以て、カルメラを潰さんと渾身の魔法を解き放つ。
「超重衝!!!!!」
対象の重さを数百倍にまで引き上げる、重力魔法の必殺技の一つ。今までラウスのこの魔法を受け無事だった者は一人もいない――しかし……。
「はー、マジで最悪。まさか私がこんな格好させられるなんて……。チョー恥ずいんだケド」
ラウスは目を見開いた。驚愕の感情である。
何故、俺の背後から奴の声が――?
驚愕により生じた一瞬の隙。それを逃すほどカルメラは甘くない。自身の祈祷魔法の応用によって出現させた十字架の剣で、ラウスを背後から両断した。
「ぐはッ!!」
ぐう! ぎ、ギリギリだった! 魔力による防御が少しでも遅れていれば、今頃俺の胴体は真っ二つ……!!
「貴様、一体どうやって俺の超重衝を!?」
振り返り、ラウスは理解した。
「貴様ッ!! 勝つためにそこまでするか!!」
「は? 勝つためならなんだってする。当たり前じゃん?」
ラウスが触れたのはカルメラの纏う黒衣である。つまり、彼の質量変化の対象もその黒衣のみ。よって、それを脱ぎ捨ててしまえばカルメラは重力の枷から解放されるのである!!
「恥も外聞もかなぐり捨てるか!!」
「その気になれば命だって捨てるケド?」
カルメラはヴェルウォークから渡された魔道具を手に取った。
「これは一時的に魔力を増強させる魔道具。副作用でかなりのダメージを受けるけど、あんたを戦闘不能にできるなら安いモンっしょ」
「なるほど! 先程感じた魔力はその魔道具によるものだったのか!!」
「そゆこと。まさかウチのメンバーが二人もこれに頼ることになるとはね。気に喰わないケド特別に認めてあげる。アンタら、強いよ」
☆ ☆ ☆
「決して振り向いてはいけないわ。ロトは天使に促されるが、ロトの妻は気になって振り返ってしまいました。結果彼女は塩の柱となったのでした、ちゃんちゃん」
リネットがそう言うと、ザグラスの動きが一瞬だけ硬直した。リネットはその隙をついて魔力の衝撃波を解き放った。身動きの取れないザグラスはその攻撃を直に受けて吹き飛んだ。
「そりゃ可哀想なお話だな。ソドムとゴモラだろ? それ、御伽噺のうちに入るのか?」
リネットは振り返る。純粋な超魔力の衝撃波で吹き飛ばした筈の男が何故背後に存在しているのか。リネットには全く理解できなかった。
「ドラぁッ!!!」
ザグラスは魔力の籠った右ストレートでリネットを吹き飛ばした。
ドガッ! グシャッ! べギガガガガガガガガガガッッ!!!!!!!!!!
「…………っ!??」
なにをされたのかしら。速すぎて目で追えないわ。なんらかの魔法じゃない。これは単純な魔力操作による身体機能の上昇!? ははっ、そんなバカな。それじゃあまるで化け物じゃないか。
「どうした? 絵本を読むんじゃないのか?」
「なっ――!?」
戦況は一方的だった。圧倒的な速度とパワーを前に、リネットは全く対応できないでいた。一文を読もうにも、そんな隙すら与えられない。いつしか、上空に顕現させた火球も消滅してしまった。
「あ”、う”~……、わた、しは……ただ、絵本を読むの。だって、それが……それだけが、救い、だから」
リネットの瞳から涙が零れ落ちる。
「僕は! 私は、負けないっ!!」
なんだコイツ! 急に雰囲気が変わった!?
「うふ、ふふふふふ、見せてあげる、あげるわ。僕の魔法の真髄をね。そう、素晴らしいの。絵本の世界は素晴らしい。だからこそ、その素晴らしさは分け与えられるべきだと思うんだ。君も、そう思うでしょう?」
マズい、なにか来る――ッ!!
「させるかぁーーーッ!!!!!」
「あはっ! 時は既に遅しよ!! あなたも招待してあげる。僕と私と絵本の世界に!!!」
極大魔法!! 【惨殺伽噺】!!!!!
ザグラスの目の前に絵本の世界が広がる。辺り一帯は薄暗く、浮雲は貼り付けられたように静止している。緑の丘は丸みを帯び、地平線と空の境目は曖昧だった。
「ここは僕と私の世界。詠唱すら、もはや必要はない。ただ想像するだけで、ただそれだけで、私は物語の世界に浸れるの。ああ――幸せだわ」
リネットは恍惚とした笑みを浮かべた。
「……クソが」
ザグラスは忌々し気に吐き捨てた。
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