閑話2 【王室の約定】
これは現在から凡そ三千年ほど前に勃発したとされる『真なる王の消滅』の記録の一端である。
現在では作品名はおろか、その内容すらほとんど読み取れなくなっている。黒焦げた表紙に水没によって文字が滲んでしまったページなど。合わせると、内容の八割ほどが失われてしまっている。
ただ、唯一読み取れる箇所の一文と、この書物の酷い有り様とが相まって、この本はこのように呼ばれている。
――【消滅の書】、と。
かつて、アルスハニア王国は魔力の都と呼び親まれていた。他の国と違い、大気中に含まれる魔力の量が多く良質なものだったのだ。
王都を流れる川は純度が高く、まるでクリスタルのような輝きを放っていた。王は国民を、国民は王を敬い良好な関係が構築されていった。
王と国民は長きに渡り幸福な王国を築き上げた。
誰もが信じて疑わなかった。この国は永遠に幸福なのだと。
しかし、そんな王と国民の間に突如として亀裂が生じる。
「有事の際に備え、魔力兵器に魔力を充填しなければならない。諸君らには満月の夜に一度、国に魔力を供給してもらう運びとなった。これは義務であり、断った場合には相応の処刑がなされることになる。私にそんな非情な真似はさせないでくれ」
王の命により、魔力徴収制度が設けられたのだ。
「アルスハニア王、お疲れ様でございました。お食事の用意ができておりまする故、お召し上がりくださいませ」
「……下がって良い」
「はっ!」
アルスハニア王は何故魔力徴収制度を設立したのか。当時、誰もが疑問を抱いた。
この国には潤沢な魔力が大気中に溢れている。わざわざ国民から魔力を徴収しなくても、魔力量は十分に足りている筈ではないのか?
まさか、王は国民から力を奪い、自分の言い成りにさせようと目論んでいるのではないか? 我々を支配して私腹を肥やそうと企んでいるのではないか?
国民の誰もが、アルスハニア王に懐疑的な眼差しを向けるようになった。
そんなある日のことである。
なんと、このアルスハニアという一強の王国に敵国が攻め入ったという報が飛び交ったのである! 多くの国民は誰しもが驚いたが、アルスハニア王はその限りではなかった。
「お主の予言は正しかったようだな。まさかあの弱小国家がここまで力をつけていたとは。だが、この国にはあの魔力兵器がある。お主のお陰で私はこの国を守ることが出来る。感謝するぞ、●●●●●」
「感謝には及びませんとも。私はあなたに忠誠を誓った。あなたに尽くすのは当然のことでございます」
「敵国を迎え撃つ。そのための布陣は既に完成しているな?」
「はい。敵国は我々が真っ向勝負に出ると考え、武神・ライトニングを先陣に配置しています」
「指揮の全権はお主にある。わが国民を脅かす愚者共を徹底的に蹂躙せよ!!」
「お任せ下さい、アルスハニア王」
そう言って、●●●●●はほくそ笑んだ。
☆ ☆ ☆
結論から言うと、この戦争は●●●●●が仕組んだものであった。そもそも敵国などは攻めてきていない。攻めてきたのは、王に不信感を感じていたアルスハニアの国民だったのだ!
●●●●●は王に仕える傍らで国民を焚き付けたのだ。もちろん魔力徴収制度実装の裏にもこの●●●●●が絡んでいた。
「敵国に妙な動きがみられました。有事の際に備えをしておいた方が得策かと」
●●●●●は予言師だった。過去、数多くの予言を的中させアルスハニアの繁栄を大きく手伝ったとされている。故に、アルスハニア王からの信頼は厚かった。
全ては●●●●●の策謀であった。
その目的は【王室の約定】の効果を無効化し、自身が王の座に座ること。そして【王室の約定】を悪用し世界を支配することにあった。
悲鳴が飛ぶ。血飛沫が街を染め上げる。土煙が上がり、炎が舞った。
アルスハニアの国は瞬く間に崩壊へと向かっていった。
「何故だ。何故敵国はこれ程までの力を? ●●●●●はなにをしている!? 何故魔力兵器を使わない!! なにが……なにがどうなっておるのだッ!!!」
「私なら、ここに」
サスッ――。
痺れを切らした王は、【王室】を飛び出した。
国民を守らねばならない、その一心だった。だが、それこそが●●●●●の目的だったのだ。
「……貴様、な、ぜ?」
アルスハニア王の背後から、●●●●●による一突き。
刃はみぞおちを貫通し、アルスハニア王は膝から崩れ落ち、血を吐いた。
「がぶっ!? な、ど、どうして――」
「【王室の約定】……王と定められた人物が王室に居る限り、何人たりとも手出しはできない。実に厄介な魔法だ。だから、私は考えた。どうすればあなたが王室から出てくれるのかを」
語り掛けながら、●●●●●は何度も何度もアルスハニア王を刺した。
「が! がは、ぐ、うおお、き、貴様……おの、れ……ぐふ」
「さて、邪魔者は消えた。これで私が王となる」
その筈だった。だが次の瞬間、●●●●●の目の前からは王室への扉が消えていた。●●●●●は困惑した。
馬鹿な――!?
何が起きた!! なぜ王室への扉が!!
【王室の約定】は、王が死ぬと解除される。効果を引き継ぐためには、次の人物が玉座に座らなければならない。
アルスハニア王は自身の身に何かあった時のことを考え保険をかけていたのだ。
「……小賢しい真似を。まぁいいでしょう。いつか必ず消えた王室を見つけ出し、この私が【王室の約定】の効果を得る。そのあとはいくらでもやりようがあるからね」
死体と化したアルスハニア王に唾を吐きかけ、●●●●●は姿を消した。
――座する主を失った玉座は、未だにこの国のどこかで次の主人を待ち続けている……。
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