メシュアが「無限収納」とかいうチート能力を持っていた件(後)
無限収納だって?
文字通りの意味なら、それは事実上ブラックホールと大差ないのだが。いや、放出できるという点を顧みるとホワイトホールも内包していることになる。いくらなんでもチートすぎる!
「それはつまり、いくらでも物を取り込めるってことなのか?」
「そうさ! ぼくはね ぼうけんをゆめみて たくさん きたえたんだ! そしたらね どんなものでも いくらでも しゅうのう できるようになったんだ! だからぼくは ”すごい”すらいむ なんだぜ?」
俺はメシュアの言葉を思い返してみる。
確かに、メシュアは自分のことを「すごいすらいむ」とか「つよいすらいむ」という風に評していたな。でも、この無限収納が本当ならば凄いとか強いとかっていうレベルじゃないんだが?
とりあえず裏を取ろう。メシュアは確かに救世主ではあるが、その知能指数はあくまでもスライムの域を出ないはずだ。良い所を見せたいからといって嘘をつくようには思えない。
「それは確かに凄いな。どれくらい修行したんだ?」
これで十年とか二十年だというなら嘘の可能性が高いが、さて……?
「うーんっとね、かぞえてないから わからないや!」
そりゃそうか。
モンスターには人間と違って「社会」とか「労働」とか、そういう文化がない。つまり「時計」に頼る必要がないし、時間に縛られることもないのだろう。くぅ~、羨ましいぜ!
「とりあえずだ! 服のことは構わない。できるならあの岩をどかしてくれないか?」
「でも ふくがよごれちゃうよ?」
「気にしないでいい」
「そういうことなら……っと!」
そう言ってメシュアは一本道を塞いでいた大岩に体当たりした。
――ずるんっ!
そして大岩は一瞬で飲み込まれ、消えてしまった。岩って飲み物だったっけ?
とにかく、メシュアの言ったことは本当らしい。メシュアは『質量』という概念を無視した存在だということだな。めちゃくちゃだ。
「なんていうかアレだな。メシュアって、本当に凄いんだな」
「あったりまえだの くらっかーだぜ!」
どこで覚えたんだよそんな言葉。
まあいい。せっかく道が開けたんだ。先に進むとしよう。
「行こうか、メシュア」
「おう!」
☆ ☆ ☆
「どりゃあ!!」
ザクッ!!
「グガァアアッ!!」
ゴブリンを背後から貫き、
「ふんっ!」
スパッ!
「ピギャェーー!!」
スライムを両断し、
「へっへっへ! よわすぎるぜ!」
メシュアがトラップとして多くのモンスターの動きを封じ……。
俺たちは淀みなく『ゴブリン林』の奥へと進んでいった。
そして――、
「道が分かれたな。どうする?」
俺たちは三叉路に差し掛かった。
さてと、どこから進もうかな。今回は個人クエストだから焦る必要はない。時間を短縮してもボーナスは得られないからだ。だがあまり時間をかけすぎるのもよくない。明日のクエストに支障が出るしな。
「よしっ! じゃあ、 ぼくが みてくるよ!」
言うのと同時に、メシュアは3匹に分裂したのであった。
……え?
「おい、メシュア、それ」
「へへ! ぼくはね ”すごい” すらいむなのさ! ほかの すらいむにはできない あんなことや こんなことも かんたんに できちゃうのさっ!」
……どうやら俺はヤバイやつをテイムしてしまったのかもしれない。
そんな一抹の不安が脳裏に過った。
もしメシュアの強さが世間に知れた場合どうなるか。想像に難くはなかった。
「メシュア。このクエストが終わったら少し会議しようか」
「かいぎ?」
「ああ。これからのことについて、どうやら俺たちはゆうっくりと話し合わなきゃならないらしい」
もしかしたらしばらくサモンしてやれなくなるかも。最悪の場合だと野生に返さなきゃとか? うう、それはなんとしても避けたい。命の恩人というのもそうだが、俺がメシュアを手放したくないのはそれだけが理由じゃない。
「とりあえず偵察頼むよ!」
「おっけー! いってくるよ!」
俺はもうメシュアを溺愛しているのだ!
だってズルだろ。あんなに可愛い見た目しているのにあんな舌っ足らずな喋り方をしてくるんだぞ? 誰だってペット……じゃなくて、手元に置いておきたくなると思うのだが?
「まずは性能を調べないとな。ぶっ飛びすぎてなきゃいいんだが」
そんな俺の願望は容易に打ち砕かれることになるのだが、この時の俺に、そんなことを知る由はなかった。
というのは誤魔化しでしかないか。
ああ。気づいていたさ。何となくだけど予想はしてたんだ。どーせぶっ飛んでるんだろうなあって。何故かって? それを説明するには、まずは俺の父について説明する必要があるだろう。
俺の父はラック・ペンタークというテイマーだった。50歳を超えてもダブルサモンが使えない低級テイマーで、どこのパーティにいっても門前払いを受けていたらしい。そんな父はいつしか『ファーム』を経営するようになった。
辺境の村で細々と経営されていたファームだが、そのファームの異常性に気付く者は、その村にはいなかった。
やがて国家直属の憲兵がやってきた時、事件は起こる。
「おいおい! こいつら全員、Sランクモンスターじゃねえか!」
そう。俺の父ラック・ペンタークはSランクモンスターを引き寄せやすい体質だったのだ。当然そういうモンスターをテイムするのは骨が折れる。一筋縄ではいかない。だが、父はそんなSランクのモンスターたちを難なくテイムしては手懐けていたのだ。
「こいつらは全員国で預からせてもらう。それからラック・ペンターク。お前を危険人物として逮捕する! 抵抗すれば、家族に危害が及ぶことになるぞ?」
ま、事の顛末はこんな感じだ。
そして、俺はそのラック・ペンタークの息子。
どうやら俺にもその「引き寄せ体質」は機能しているらしかった。
自分にも「引き寄せ体質」が作用しているのでは? そう思い至ったのは5歳の時だ。
父が残した唯一のモンスター『アガド』。俺はアガドをテイムしようと右手を掲げた。結果、アガドは黄金色のビー玉になったのだ。テイム成功である。僅か5歳児が、Sランクモンスターを一瞬で、だ。
俺が『スラの町』なんていう辺鄙な場所に引っ越したのは、国から目を付けられにくいのでは? と考えたからだった。結局追放されてしまったが……。
「おう~い! こっちに ぼろっちいたてものが あったよ!」
戻ってきた3匹のメシュアは1体に融合した。そして、廃図書館の場所を教えてくれた。
「よし、行こう!」
俺は迷いない足取りで、三叉路の真ん中を突き進んでいった。