表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/83

極光の騎士団VS憲兵5

「中々に思い切りのいい作戦だな。だが浅はか極まりないのもまた事実」


 ホロスは部下を集い、指示を下した。


「極光の連中はこれで自分たちが優位になったと、そう思っている事だろう。だが見てみるといい。あきらかに一ヵ所だけ無事な箇所がある。つまりあの場所こそが例の眠りの間だということになる。どんな手を用いても構わない。そこにいるであろうゾイド・ペンタークを必ず生け捕りにせよ!!」


「「はっ!!!」」


 確かにヴェルウォークの策は現状では最善手であった。権力的にも情報的にも不利である以上、相手の虚を突き、自身の慣れ親しんだ地で戦う方が勝率は高い。だが、その策が裏目となり、ゾイドの居場所がバレてしまったのである。


「我々は真面目にやりあうつもりなんぞ最初からない。ゾイド・ペンタークを回収してしまえば、それだけで勝利なのだからな」


「ホロス様、足止め部隊の準備が整いました」


「そうか。では、参るとしよう」


 数では憲兵が圧倒的に勝っている。

 騎士団を貶めるための情報操作も現在進行中。

 そして、騎士団の主戦力六名を足止めする為の少数精部隊の準備も整った。


「あとはもう、消化試合だ」


          ☆     ☆     ☆


「団長、憲兵の動きに異常は見られません。全て、こちらが予想(・・)した通りに展開しています」


 ルルの言葉を受け、ヴェルウォークはうんうんと頷いた。


「ま、そりゃあそうなるよねえ。俺が敵でも「あとは消化試合だ」って思うもの」


「こっからは俺たちの腕の見せ所だな」


 ザグラスが言った。


「ま、なんとかなるっしょ。ウチらさいつよだし」


「……ヨリシロには負ける」


 スノウスが言うと、ザグラスがため息混じりに、吐き捨てるように言った。


「あのな、アイツは次元が違うんだよ。勝つとか負けるとか、そういうレベルの話じゃないんだ」


 そんなザグラスを煽るようにフレンゼが鼻で笑う。


「ビビってんのか?」


 フレンゼにはやや子供っぽい所がある。ちょっとでも弱みっぽい部分をみつけると、イタズラ心でつい突いてみたくなるのだ。だが対照的にザグラスは人格者である。


「お前の性格だ。今更とやかく言うつもりはないが、時と場合を選ぶべきだと、俺はそう思うぜ?」


「……ふふ、同感」


 たしなめられたフレンゼの様がおかしく感じられて、スノウスからはつい、柄にもなく笑みがこぼれた。


「な、なに笑ってやがる、てめえ!」


 フレンゼは常日頃からやる気のない(ように見える)スノウスのことが嫌いなので、反射的に大声を張り上げた。


 そんな風景を目に、ヴェルウォークはニコニコとした表情を浮かべていた。


「うんうん、やっぱり集団に必要なのは仲の良さだよねぇ。絆なき所に力なしってね」


 そんなことを言うヴェルウォークに、ルルは呆れた様子でぴしゃりと言った。


「前々から思ってたんですけど、団長、それって自分に無理やり言い聞かせてます?」


 ヴェルウォークは何も言わなかった。


          ☆     ☆     ☆


「ここが眠りの間か。くっくっく、俺が一番最初にゾイドを捕まえてやるぜ!! 一番手柄を上げて、ホロスさんに認めてもらうんだ!!」


「いいや、ゾイドを連れ出すのはこの私だ。手柄は渡さんぞ!」


「キヒヒヒ、馬鹿どもが。俺よりもはるかに劣る劣等共がなにをほざいてやがる!! ホロス様の右腕になるのはこの俺様なんだよぉぉおおッ!!」


 憲兵の連中が次から次へと眠りの間へとなだれ込む。目的は当然ゾイド・ペンタークだ。


 ホロスは五人の精鋭部隊を引き連れながら、飛龍の背に乗っていた。空から戦況を俯瞰するのは指揮官の役割を担う上でもっとも重要だからだ。故に、ホロスは気付いた。


「……どういうことだ」


 全く同じ疑問を、精鋭部隊の連中も抱いていた。


 一人はサーベルト・ソキル。無数の刀類を無尽蔵に生み出す魔法の使い手である。彼の魔法によって生み出された武器は決して欠けず、そして錆びない。


 一人はヒナ・エルドール。限りなく呪術に近い性質を持つ特異な魔法の使い手だ。死者の魂を魔法で生み出した形に引き込み、自由自在に操れる。その気になれば一人で一軍団を形成することすら可能だと言われている。


 一人はラウス・デュークス。触れたものの質量を自由自在に変化させる魔法の使い手だ。彼の手にかかれば、石ころ一つも砲丸の如く破壊力と化す。


 一人はリネット・ハウウェルパーカー。御伽噺の具現化という謎の魔法の使い手だ。彼女の魔法を実際に目にした人物は今のところホロスとゼロスしかいないという。


 一人はエドワード・ペトリツィア。全てを塵埃へと、灰へと、無へと還元する。ありとあらゆる全てを焼き尽くす黒き炎の魔法使いだ。


 彼らは一様に、同種の疑念を抱いていた。


「ガードが緩すぎやしないかい?」


 ソキルが口にした次の瞬間であった。


 彼らの視線の先で、再度、巨大な爆撃が引き起こされた。その際、ホロスは確かに見た。時限式の魔法陣が展開され【眠りの間】全体を覆い尽くしたのを。あまりにも悍ましく異様なその光景に、ホロスはギリッ、と歯を食いしばった。


「おいおいおいおいおーい」エドワードが口を開いた。「俺ァよ、たった今たしかに見たぜ、転移魔法陣の発動痕をよ。まさかとは思うが、これってよ、つまりはそういうことなのか? そんなことできる奴がいるってんなら結構想定外なんだが?」


「しかし、それ以外に説明はつきませんので」


 ヒナが確信めいた口調で言った。


「まさかな」ホロスが言った。「まさか、【眠りの間】そのものを空間ごと別の場所に転移していたとは……」


 ヴェルウォークの作戦を実行に移した際、唯一無傷な場所こそが【眠りの間】であるとバレてしまう。それはすなわち「ここにゾイド・ペンターク君がいますよ」と公言するようなものである。


 逆に言えば、相手にそう思わせることができたのであれば、その【眠りの間】であると思われる場所そのものを、超巨大な爆撃兵器へと変貌させることが可能になる。


 ではどうすればそんなことが出来るのか。答えは明白だ。建物の外観はそのままに、内部の【眠りの間】だけを別座標へと移動させてしまえばいいのである。


 言うは易し。簡単な作業ではなかった。だが、ヴェルウォークたちはそれを見事に成功させたのだ。作戦を成功へと導いたのは、それぞれの魔力操作精度の高さ、そして甚大な知識量であった。この作戦は極光の騎士団の面々でなければ成功させることは出来なかっただろう。


「さて、と」ヴェルウォークは不敵に笑う。「ここから先は、ずっと俺たちのターンだ……!」

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

この辺からじわじわインフレします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ