極光の騎士団VS憲兵3
「だから招待したって……」
ルルは彼の言葉を頭の中で整理した。”だから”といからには、団長が夢の世界にゾイド・ペンタークという少年を誘ったのには思惑があったということだ。
つまりだ。あんな回りくどい覚悟の問い詰め方をする必要なんてなかったということにはならないか。それに、団長はこう言ったのだ。
『そうさ。偶然にも君がゾイド・ペンタークという少年と出会った。その出会いがなければ、彼の過去を通じ、今回の事件に憲兵が絡んでいるだなんていう確証は得られなかっただろうから』と。
それは言い換えるとこういうことになる。
団長の魔法によって眠りに就いたものは、その記憶を覗かれる……。
それに気付いた時、ルルは発狂しそうになった。というか、していた。
「うああああああああっ!!」
突如叫びだしたルルに呼応し、「うおわああああああ!!」とフレンゼも叫んだ。反射的に「……うるさい」とスノウスが呈した苦言も、二人の耳に届くことはなかった。
「なんだよいきなり、ビックリするじゃねぇか!」
フレンゼは怒りを顕わにしながらそう言ったが、そんな彼の怒りの度合いを現在進行形で遥かに上回っているのがルルである、彼女は知らされていなかったのだ。記憶を覗かれるなどということは。
「団長、私、今すっごく怒ってます。正直……」
ルルは震える握りこぶしを眼前に掲げながら、燃えるような赤い表情で言った。
「今すぐにでもあなたを殴りたい!」
「え? なんで?」
ヴェルウォークのこの反応が火に油を注ぐ形となった。
「ふ……ふ……」
「ふ……?」
ヴェルウォークが無邪気に首を傾げる。一見するとただの子供。純真無垢な好少年。そんなヴェルウォークの容姿が今回ばかりはマイナスに作用した。さも「何が原因で怒っているのか心当たりなんてありませんよ」みたいな表情が、ルルの怒りをさらに増幅させたのだ。
「ふざけるなぁあああっ!!!」
「うわああああああああ!!」
かくして、会議は滅茶苦茶になった。フレンゼはルルの怒りに当てられ咆哮、スノウスは困惑のあまり泣き出し、カルメラは耳を塞ぎながら妄想の世界へと耽った。二人をなんとか執り成そうとしていたのはたったの一人。ザグラスだけであった――。
☆ ☆ ☆
誤解がとける頃には、ザグラスの体力は限界を迎えかけていた。戦闘能力だけならばヴェルウォークに次ぐザグラスだが、基礎的な体力ではルルに劣っているのだ。その挙句、ルルの怒りの理由にピンと来た団長が彼女を囃し立てるものだから、それはもう修羅場であった。
「はあ、はあ……。団長、この功績は忘れないで下さいよ。この私ギルフォードレイ・ザグラスは臨時の給金を求めます!! いいですね!?」
「はあ~、しょーがないなあ、もう。ザグラスったら我儘なんだから」
こんのクソガキ!!
思いはしても口にはしない。ザグラスは大人なのだ。
「いやぁ、それにしてもビックリしたよ。まさかルルの口から「ふざけるな」なんて言葉を耳にする日が来るだなんてねぇ。いやあ、なんというか、君も成長したんだね。団長として喜ばしい限りだよ」
「うう……それはその、申し訳、ありません……」
ルルは立つ瀬なしといった様子で俯いている。とはいえ、この件に関してはヴェルウォークに全面的な非があり、そのことを隊長たちも理解している。ルルがここまで落ち込む必要はないのだ。
「だって、夢の世界に入ったら記憶を覗けるみたいな、そんな言い方するから」
「それは俺の言い方が悪かったよ。まあ、簡単に言うならそういうことになるんだけどね。でも俺の魔法だってそこまで万能じゃないさ」
ヴェルウォークの魔法は対象のイデアに依存する。故に、対象のイデアを覗くことも可能である。イデアというのは以前にも説明のあった通り思考世界のことである。なので、思考世界を通じ対象の記憶を覗き見ることも不可能ではない。――理論上は。
だが、ルルを眠りの世界へと誘った当時のヴェルウォークには、それを実際にやってのける程の技量はなかったのだ。だからこそ彼はより多くの人間を眠りの世界へと誘った。
もちろんその根底にあるのは正義の心だ。でなければ対象に覚悟を問いかけたりはしない。しかし、全てが純然たる善意からの行いであるかと問われれば、ヴェルウォークはいいえと答える。
「魔法は使えば使うほど研鑽されより上位の次元へと昇華されてゆく。簡単に言うならば、俺は自分の魔法を鍛えていたってことなのさ」
使えば使うほど強化されてゆく。それはモンスターのスキルにも言えることである。人が筋力を付けるために腕立て伏せをするように、より早く刀を振るために素振りをするように。それと同じことを、ヴェルウォークは人助けを介して行っていたのであった。
「誤解がとけたところで作戦会議に戻るとしよう。こう見えて俺は結構焦ってるしね。いいかい、俺たちがまず最初にやらなければならい事、それはたった一つ」
ヴェルウォークは真剣な眼差しで言った。
「それは、眠りの間の……死守だ!!」
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