極光の騎士団VS憲兵2
「つまり、団長は憲兵にスパイを送り込んでいたということですか? 一体どうして? 何のために? いつからですかっ!?」
取り乱した様子でルルが問い詰める。
いくらなんでもこれは問題行動だ。確かにヴェルウォークは団長だが、独断でこんなことをしていたとなれば、それは許されるはずがない。
「まぁまぁ落ち着いてよ。ちゃんと詳しく説明するからさ」
取り乱す隊長たちを何とかたしなめた後、ヴェルウォークは五名にオリジナルブレンドの紅茶をふるまった。紅茶には緊張を解す成分があるらしく、今の状況には最も摘した飲料と言えよう。ちなみにかなりの高級品なので、ヴェルウォークは心の中でぐっと涙をこらえている。
「どうして憲兵にスパイを送り込まねばならなかったのか。今からそれを説明しよう」
そしてヴェルウォークは語りだした。どうしてこんなことをしなければならなかったのか。その理由を。
☆ ☆ ☆
今から十一年前。
ヴェルウォーク・スカイハイムという青年は、極光の騎士団とは別の組織に属していた。そもそも極光の騎士団を立ち上げた人物がヴェルウォーク・スカイハイムなのだから当然ではあるが。
当時の彼は、憲兵に所属していたのだ。
「俺は当時、憲兵に勤めていた。俺はこう見えて頭が固くてねぇ。憲兵と言えば、それはもう素晴らしき正義の執行人だと信じていたんだ。なんの疑いもなく、ただ上官の指示に従い任務を遂行し続けた。それこそが真の正義なんだと信じてね」
しかし、それは全て幻想に過ぎなかった。
若き日のヴェルウォークは、その働きぶりを認められ順調なペースで出世していった。そして突如、暗部に配属されたのだ。
「唐突だったよ。っていうか「暗部」ってなんだよって思ったね。簡単に言えば汚れ仕事専門の部隊さ。俺は正義に忠誠を誓っていたんだが、それを憲兵への忠誠と勘違いした馬鹿な上官が僕の異動を命令したらしい」
とはいえ、すぐに憲兵を抜け出すことはできなかったという。当然だ。暗部という、いわば憲兵の闇の部分。そんな存在を知ってしまった人物が「やめます」だなんて言い出したら、即座に消されてしまうだろう。
当時のヴェルウォークに今ほどの力はない。憲兵とやり合ったとして、勝てる見込みは微塵もなかった。ヴェルウォークは長期的な憲兵解体を計画し、動き出したのだった。
「とまぁこんな感じでね。まさかこんな形で絶好の機会がやってくるとは思わなかったけど、これが悪者の運命だってことなんだろうね。俺の信じた正義の通り。悪は必ず討ち滅ぼされるものなのさっ」
「いや、ちょっと待ってください。なにをそんなキザったらしく話を終わらせようとしてるんですか!! 全然説明になってませんよ!!」
「え? 説明になってないって?」
「そうですよ! 団長の言い分だと、まるで……まるで、極光の騎士団は「憲兵を解体するためだけにつくられた」みたいじゃないですか!!」
ルルは納得できないという様子である、当然だ。自分が正義のために、と入団した組織が実は「憲兵ぶっつぶし隊」でしかなかったなどと言われて、「ああそうなんですね」と受け流せる人物はいないだろう。
しかしヴェルウォークは「いやいやいや」とたしなめる。
「別にこの組織は憲兵だけを目の敵にして作ったわけじゃないよ。それは断言しよう。この組織は純粋なる正義の執行を目的とし、大勢の国民の名誉と魂と財産を何人たりとにも犯させまいと、その活動方針を定めているんだ。それは君も知っているだろう?」
「そ、それは……そう、ですけど……」
「まあまあ、そんなに気負わないでよ。それに、今回の件が憲兵絡みだってことに気付けたのは君のお陰でもあるんだから」
「え? 私のお陰、ですか?」
「そうさ。偶然にも君がゾイド・ペンタークという少年と出会った。その出会いがなければ、彼の過去を通じ、今回の事件に憲兵が絡んでいるだなんていう確証は得られなかっただろうから」
「……過去?」
ティーカップをすっと置き、スノウスは首を傾けた。
「どういうことですか?」
疑問を呈したのはフレンゼである。
「彼の過去は調べました。そのうえで、犯人の手がかりは……つかめなかった。そのはず、では?」
「だから彼を招待したんじゃあないか」
ヴェルウォークは言った。
「夢の世界に、ね!」
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