極光の騎士団VS憲兵
時は少し遡り、ゾイド・ペンターク入眠から十日後。
極光の騎士団の作戦室に、六人の人間が集まった。
円卓を囲む五人、その一人一人に、ヴェルウォーク・スカイハイムは視線を向けた。
白銀の髪が特徴的な、凛とした瞳の少女。極光騎士団のナンバー2にして、通称白極の騎士――ルル・メリー。
百獣の王を彷彿とさせる逆立った金髪の目立つ、筋肉質な大男。通称ライオキングス――ギルフォードレイ・ザグラス。
病的なまでに白い肌と、病的なまでに透明な青髪。女性のような顔立ちをした美青年。通称クラシカル・シルバー――フューゲル・スノウス。
対照的に、燃え盛るような紅蓮の髪を携えた大髭の熱血漢。通称ブレイズナックル――フレンゼ・ウェルファイア。
白を基調とした修道服に身を包んだ黒髪無表情のクール美少女。通称祈りの十字架――ホイト・カルメラ。
それぞれが数百~数千の団員たちを束ねる実力者で、隊長という名誉ある役職を与えられている。彼らはヴェルウォークから強い信頼を得ており、それ故にこの作戦会議に呼ばれたのだ。
「……眠い」
まだ会議は始まっていない。そもそも、ヴェルウォークは一言も発していない。つまり、この会議の第一声が「……眠い」である。声の主はスノウスだ。彼はマイペースな性格で協調性が無い。そして、空気を読むのが得意ではないのだ。
「寝たら殴ってでも起こしてやる。安心しろ」
返したのはフレンゼだ。フレンゼは常にやる気と気迫がマックスで、少し暑苦しい。スノウスとは真逆の性格と言えよう。当然、仲も悪い……というよりかは、フレンゼが一方的にスノウスを嫌っているといった感じだ。
「……殴ったら、凍らす」
「ほお、やってみろよ。できるもんならな」
「おいおい、お前らは喧嘩しに来たのか? これから大事な会議って時に、ガキじゃねぇんだから。少しは自分の立場ってもんを自覚した方がいいんじゃないか?」
ライオキングス・ザグラスが二人をたしなめる。彼は面倒見が良く性格もまっすぐだ。他の隊に所属する団員達からの信頼も厚く、戦闘能力だけでみるならヴェルウォークの次に強い。
「ザグラスさんの言う通りです。フレンゼさん、着席してください」
ルルは真顔で言った。昔は顔を真っ赤にして怒りを顕わにしていたのだが、彼女は聡明な人間だ。彼らに何を言っても無駄だと理解するのにそう時間はかからなかった。それに、一々自分が文句をつけなくても、団長が口を開けば彼らは勝手に黙るのだ。
「うんうん、みんな元気がいいねぇ。久しぶりに顔を合わせるものだから燥いじゃって、かわいいなあ。気持ちは分るけど、これから大事な会議を始めなきゃならないからね。戯れはこの辺にしとこうね」
ヴェルウォークは少しの空白を開けてから本題に移った。
「今日の議題はずばり『ゾイド・ペンターク』についてだ。みんなも知っての通り、彼は『アダマイトス討伐』のレイドクエストに参加した人間の中で唯一の生きのこり。非常に重要な人物だ」
「ゾイド・ペンターク!! 知ってるぜっ! 遠征組の生き残りだろ!?」
フレンゼは興奮した様子で叫んだ。
「極光の騎士団は総力を挙げて、今回の事件を引き起こした人物を見つけ出そうと情報の収集に務めた。しかし、得られた情報は何もなし……」
「悲しみ」
カルメラがぼそりと呟いた。
「そうだねぇ、悲しいねぇ。でも、もっと悲しいのはここからさ。俺たちは国のために一生懸命戦ってきた。時には死人を出しながらも、外国との交渉を有利に進めるために武力を行使してきた。だが、今は違う。今やこの国を攻めようなんて愚図はいないし、モンスターの討伐は冒険者たちが率先して行っている」
「存続が危ぶまれていると?」
ザグラスの問いにヴェルウォークはうんうんと頷く。
「だって、今の俺たちがやってることって憲兵の連中と大差ないからね。俺たちを無駄飯喰らいとののしる連中も少なくはない。周辺国との友好条約は誰の努力のおかげか。そんなことも忘れてね」
「……ひどい」
「だが、ここで面白いニュースが飛び込んできた」
「面白いニュース、ですか?」
ルルが首を傾げた。ヴェルウォークはドッキリの仕掛け人のような心情で満面の笑みを浮かべ、そして衝撃の言葉を口にした。
「今回の事件の犯人は憲兵でーすっ!」
その場にいたヴェルウォーク以外の全員が、驚きの表情を浮かべたまま言葉を失った。当然である。
「今、なんと言いましたか?」
ルルは自身の耳を疑った。
「そんなバカな!!」
思わず立ち上がったのはフレンゼだ。
「マジヤバ!」
流石のクール美少女カルメラも、この時ばかりは冷静さを失った。
「……」
スノウスは何を言えばいいのかわからず困惑した様子である。
「団長、お言葉ですが、証拠はあるんですか? いや、もちろん団長を疑うって訳ではないんだが、なんというか、今のは余りにもショッキングすぎるというか……」
ザグラスは後頭部を掻きながら疑問を口にした。内心では、「もう少し段階を踏んで話してくれたらいいのに」とは思いつつも、それを口にすることはなかった。普段なら一から順序立てて説明する人がそうはしなかった。つまり、それ程の緊急事態なのだと理解したからだ。
「証拠というか、まあ、みんなには言ってなかったけどさ。憲兵にはいるからねぇ」
「いるって、なにがです?」
ルルの問いかけに、ヴェルウォークは心底楽しそうに答えた。
「なにがって……。そりゃぁ、極光の騎士団の団員が、だけど?」
再度、ヴェルウォーク以外の全員が、雷に撃たれたかのような衝撃を受け言葉を失った。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!
面白い、続きが気になる、期待できそうと感じて頂けた方には是非↓の☆☆☆☆☆で応援していただきたいです。☆1つでも大感激です!! また、ブックマークや感想など頂けるとよりモチベの向上などに繋がり、大変うれしいです。なにとぞ応援よろしくお願いします!!




