ゾイド、夢世界の民になる5
テイマーという職業は他の職業と比べると、やや不遇である。
通常、冒険者パーティでは前衛と後衛とに分かれるのが良いとされている。前衛というのは、剣士や戦士など、戦闘能力の高い人物が担うことが多い。
対して、後衛に位置するのは、前衛をサポートする職業になる。魔法で身体能力を強化したり防御力を高めたり、負傷箇所を回復するのが主な仕事だ。無論、パーティによっては編成が異なる場合もある。
最強の一角を担うパーティ【叡智の神域】では、魔法使いが前衛に出ている。とはいえ、【叡智の神域】のメンバーは普通の魔法使いとは異なり強さの基準も常軌を逸しているので、あまり当てにはならないが。
不遇職に寄っているテイマーの基本的な仕事は、モンスターを駆使した前衛のサポートである。モンスターはスキルという特殊な能力を有しているので、この能力でパーティメンバーを強化したり、大量の道具を携帯したりといったことが可能となるのだ。
そして、テイマーにはテイマーにしかない魅力がある。
それが、心通わせたモンスターとの会話である。
モンスターと人間は本来、意思の疎通が不可能だ。
だが、テイマーだけは例外なのである。テイマーだけはモンスターとの意思疎通が可能なのだ。
「あの時、確かに俺はオークキングの言葉を聞いた」
「ゼッタイニ ユルサナァァァアアアアアイイッッッ!!!!!」
オークキングは、仲間を倒され、憤慨した。無論、この時のゾイドはオークキングをテイムしてなどいない。つまり、意思の疎通を図ることは不可能な状況であった。それなのに、ゾイドは実際にオークキングの怒りを耳にした。
これが意味するのは一つ。
それは、野生だと思っていたオークキングが、既に何者かにテイムされていたということだ。これもテイマーの有する能力の一つである。自身がテイムしていなくても、既に何者かにテイムされているモンスターとなら、意思の疎通を図ることが可能なのだ。
「だから、犯人は一気に絞られてくる」
ゾイドは確信めいた表情で言った。
「あの時の俺は、そこまで目立つような行動はしていなかった。マッチョスに追放されもうだめかと思ったが、お前と出逢って、ようやく希望が見えてきた時だった。そんな道端の小石ほどの価値もない俺に、あの段階で注目していた人間なんているはずがない」
いるとすれば、それは……。
「何らかの事情で、俺を監視していた人物だ」
「なんらかの じじょう?」
メシュアは頭上にクエスチョンマークを浮かべた。ゾイドのいう何らかの事情とやらに全く思い当たる節が無いのだ。
「タークは だれかに うらまれてるの?」
「さぁ。どうだろうね。少なくとも恨まれるようなことをした覚えはないけど」
ゾイドは思考を纏めにかかった。
あの段階での俺に注目する必要のあった人物。……メシュアの能力に関しては公にはしていない。赤の他人が見れば、俺は弱小モンスターであるスライムをテイムしているだけのただの雑魚。
だが、そうは思わない奴がいた。そんな奴がいるとすれば、それはもう、俺には一つの答えしか思いつかない。そもそも俺が辺鄙な村で冒険者をやっていたのは奴らこそが原因だからだ。
「多分、憲兵だ」
「けんぺい?」
メシュアは憲兵という言葉を初めて聞いたらしい。ゾイドはかいつまんで憲兵という存在について説明した。
「えー? なんだか、ふしぎだなぁ。 はなしをきくかぎり けんぺいっていうのは まるでせいぎのみかたじゃないか。 それなのに、どうして タークを 狙うんだい?」
「それが分かれば苦労はしないよ。でも……」
そうは言いつつも、ゾイドには思い当たる節が全くないというわけでもなかった。
「でも?」
「……もしかしたら、原因はアガドにあるのかもしれない」
ゾイドは浮かない顔をしながら、そう言った。
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