呪われの団長
人体の頭部を模した白く簡素な石像が、中心のレッドカーペットを避けるように、左右等間隔に飾られている。表情のない無機質な彼・彼女達に見つめられながら、ゾイドはルルの後ろに続いていた。
「これからあなたには団長に会って頂きます。ですが、その前にいくつかの注意点を説明させて下さい。これはあなたの命を救う為に必須なことなのです」
ルルは「まずは一つ目」と矢継ぎ早に続けた。
「何を聞かれても決して嘘をつかないこと。団長は何よりも嘘つきを嫌います。もしも嘘をついたら……。一秒と経たずにあなたは口にすることさえ躊躇われるような無残な形状へと変貌を遂げるでしょう」
「なんだか初っ端から物騒だな」
「物騒、ですか……。確かにそうかもしれませんね」
ルルはどこか思うところがあるのか、含みのある様子で俯き地を見つめた。それから「ふぅ」と息を吐き、「とにかく!」と言葉を紡いだ。
「団長の前で嘘をつくこと、これだけは絶対にしてはなりません。いいですねっ!?」
ルルの剣幕に若干気圧されつつも、ゾイドは了承の意を示した。
「次、二つ目です。団長に対しては常に丁寧な口調を心掛けること! 団長は嘘を吐かれるのと同様、無礼な人間が大嫌いなのです。そういう人間を見るとどうしても許せないのだとか」
ゾイドは首意を傾げ「どうしてだ?」と疑問を口にしたが、ルルは「さあ?」と肩を竦めた。
それを見て、ゾイドも同じく肩を竦めて見せた。
「三つ! 正直、これが最も重要です。なにせ、この三つ目の注意事項を破った者は……」
ルルは勿体ぶるように間を開け、ゾイドへと視線を向ける。一体全体なんなんだ? ゾイドは妙な威圧感に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「もしこの三つ目の注意事項を破ったら、その人は生涯団長の奴隷となってしまうのです!」
「よく、意味がわからないんだが? もう少し具体的に説明してくれないか?」
ルルはしばしの逡巡の後、重たげな口をうゆっくりと開いた。
「団長には、コンプレックスがあります」
コンプレックスか。まぁ、それは誰にでもあるだろう。
ゾイドはそう思ったが、そんなゾイドの様子を見てルルは首を横に振った。
「団長のそれは我々が抱えるような類の物とは種類が異なるのです。……今から十年以上も前、団長は任務中に敵の攻撃を受けました。もちろん団長からしてみれば有象無象の攻撃など防ぐまでもありません。団長の戦闘能力を以ってすればその辺の人間など小指で殺せるでしょう」
ゾイドは頭の中で”団長”という人物像を勝手に形成し恐怖に慄いた。
多分オーガとドラゴンを合体させたような奴なのだろうな。そう思うと途端に背筋に寒気が走った。
「それで、その攻撃を受けた団長はどうなったんだ?」
「当然無傷です。……無傷ではあったのですが、その後、団長の体には少しずつ異常が現れ始めたのです。簡単に述べますと、団長は呪われてしまったのです!!」
「呪い?」
ゾイドは呪いという現象を思い浮かべてみたが、魔法との違いが全くわからなかった。
「あまり疑問に思わなかったけど、呪いと魔法って何が違うんだ?」
「確かに、呪いと魔法は非常によく似ています。類似する部分や共通点も数多く存在しているので、凡俗なるあなたからしてみればわからないでしょう」
「凡俗なる……」
「ですが、この二つには明確な違いがあります。魔法というのは聖なる力がもたらす現象なのです。聖なる力といえば大袈裟に聞こえるかもしれませんが、わかり易く例えるなら、魔法は思考世界からエネルギーを抽出している、ということですね」
「イデア?」
「……あなた、本当に何も知らないんですね。まぁ無理に理解しろとも言えませんし、詳しいことは自分で調べてみてください。興味があれば、ね」
「はぁ。して、呪いというのは? 魔法ってのが聖なる力なら、呪いはその逆ってことなのか?」
ルルは「その通りです!」と満面の笑みで人差し指を立てた。普段頭の悪い生徒がたまーに正解を言い当てるのを喜ぶ教師のようである。
「呪いというのは魔法とは真逆の存在。常に現実世界に滞留している負のエネルギーが源なのです。魔法であれば思考の上塗り、概念の書き換えなどによってその作用を消滅させることが可能です。しかし、呪いというのは常にそこにあるもの。故に、思考……イデアの理が作用しないのです」
「ギブアップ!!」
ゾイドは両手を上げガクリと肩を落とした。
「何が何やら全く分からないよ! それに話題が逸れてないか? 俺は三つ目の注意事項とやらの説明を受けていたはずなのに、いつのまに魔法と呪いの授業になったんだ?」
ルルは気恥ずかしそうに目をそらし咳ばらいをした。
「申し訳ありません。私としたことが、いつもの癖でつい……。ですが、初めに疑問を呈したのはあなたですよ?」
「うっ、それは、確かに……」
一瞬流れた気まずい間を搔き消すかのように、ゾイドは三つ目の注意事項とやらの説明を促した。ルルは真剣な表情でゾイドを見つめ、こういった。
「決して団長を子供扱いしないこと。それが三つ目の注意事項です」
「仮に、子ども扱いしてしまったら?」
恐る恐る問いかけるゾイドに、ルルは首元を掻っ切るような仕草で応答した。
「待つのは死、それだけです」
そう言って、苦しみに藻掻く人の真似をしてみせた。
「洒落にならないな」
ゾイドは顔を引きつらせ、困ったような笑みを浮かべた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!
投稿頻度こそは下がってしまいましたが、これからも何卒この作品を読んで頂けると幸いです。
少しでも皆様のお暇を潰せるよう、全力で精進して参りますm(__)m




