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よろず屋のおっちゃんからクエストを受注した

「おきろー! おきろー! おっきろーっ!!」


 俺はメシュアの声で目を覚ました。

 はっ! と目を見開き壁掛け時計に目をやると、時刻は7時30分だった。少し早い様な気もしたが構わない。遅刻するよりかは全然マシだ。


「おはようメシュア。ありがとう」


「おはよう! きょうも いいてんきだね!」


 メシュアはもう既にやる気一杯といった様子だ。そんなメシュアには申し訳ないが――。


「クローズ!」


 テイマーがクローズと唱えると、サモンされたモンスターは一口サイズのビー玉(正確にはビー玉に似た球体状の何かである)へと変化する。これはテイムする時も同様だ。

 俺が青色のビー玉に触れるとそれは手品のように消えた。これでクローズ完了だ。


「サモン!」


 次に俺はアガドをサモンした。ここ数日あまりサモンしてやれなかったので少し解放してやろうと思ったのだ。


「おはよう、アガド」


「ムム! ナンダカ、ヒサシブリナ カンジダ!」


「そうだねぇ。一週間くらいサモンできてなかったからね。少し話がしたいと思って」


 俺はここ一週間の間に起きたことを一つずつ話していった。クエストでミスをしたこと、そのせいで追放されたこと、五日間歩き続けたこと、そして、メシュアと出会ったこと。


「ナルホド! アタラシイ ナカマガ デキタノカ! ソレハ、オメデタイ!」


 アガドは嬉しそうにくるくると回った。


「ハヤク アイタイ ナ!」


「そうだな。そのためにももっと沢山のクエストをクリアしないと」


 ダブルサモン。テイマーならば誰もが、いつかは使いたいと夢見る高等技術だ。一流のテイマーを名乗る者の中にはトリプルサモンを習得している人もいる。いつかそんな高みへと昇り詰めたいものだ。


「少し散歩しようか。時間はまだあるし」


「ソウダナ、サンセイダ!」


 俺はアガドを連れ、『ぺレスロウレ』の街を歩くことにした。


 この街の造形は少し面白い。実はこの街をずうっと南下していくと、俺が追放された『スラの町』に辿り着くのだが、そのさらに南西にはこの国『アルスハニア』の王城が聳えているのだ。『スラの町』は城下街の隅に位置しているのである。町と言うよりかは村と呼ぶ方が正しいかもしれない。


 そして、この『ぺレスロウレ』の町は城壁街と呼ばれている。ここら一帯のエリアを半円状に取り囲み、『アルスハニア』城を守る城壁のような役割を果たしているのだ。大昔に起きた戦争の名残だが、いつしかこの造形は文化的な価値を有するようになったらしい。


「今では重要文化財に指定されているのさ」


 ……というのは酒場のマスターの言葉だ。


「どうだアガド。気持ち良いだろ」


「アア テンキモイイシ クウキモ スンデイル」


 気持ちよさそうにふわふわと浮かぶアガドを見ていると、なんだか俺まで揺られているような気分になっていた。こんなに心地良い気分はいつぶりだろうか? 思えば、「英雄の誉」の連中はガッデンロスを除くと結構当たり強かったもんなぁ。


 そんなことを思いながら散歩すること約十五分。

 俺の視界がよろず屋を捉えた。ゴブリン討伐に向け鉄の剣と盾を買った場所だ。


「ドウシタンダ?」


 立ち止まった俺にアガドが疑問を投げ掛ける。首を傾げる仕草の代わりに三回、その場でくるくると旋回する。


 俺は迷っていた。

 しばらくはこの『ぺレスロウレ』の街を拠点に活動しようとは思っている。それに伴い、宿屋の連泊サービスも活用することにしたのだが……。


 多分、服、足りないよな。

 

 俺は『スラの町』から実質的には追い出されたも同義だ。

 一日の空き時間があったとはいえ、たったの二十四時間では数年分の荷物を纏めることはできなかった。それに、アイツらのいる場所には居たくなかったし。そんなわけで、私服がほとんどない。


「仕方ないか」


 気が引けるけれど、生活必需品は文字通り必需品なのだ。

 祟らないでくれよ。

 そう思いながら、俺はメシュアのクリスタを少し借りることにした。




「へい、いらっしゃい!」


 よろず屋のおっちゃんは気さくな人だ。朗らかで笑顔満点、器もデカい。このよろず屋では同系統の武器を三つ買うとお得になるらしい。俺がここで鉄系統を二つ買った時には「特別だぜ!」と、その二つも10%オフにしてくれたのだ。


「今日はどんな装備を?」


「それなんですが」


 俺は追放の部分だけを省き端的に事情を説明した。衣服はモンスターに燃やされたという設定だ。


「なるほどなあ。そいつは苦労するだろ。オッケー! 好きなもん持っていきな。上下合わせて三つもありゃ足りるだろ!」


 いくらなんでも心が広すぎる。

 流石に罪悪感が勝る。


「いや、そこまで甘えるわけには」


「もちろんタダじゃねぇ」


「というと?」


「俺の店は夜になると道具屋になる。それは知ってるだろ?」


「それは、まぁ。この前聞きましたから」


「道具屋が表に出てる時、俺は裏の工房で武器や防具を作ってるんだ。弟と一緒にな」


 なんとなく話が読めてきた。

 つまりこれは……。


「へへっ。合点がいったって顔だな!」


「はい。個人クエストですね?」


 個人クエスト。

 ギルドや掲示板を介さず、一対一で依頼の発受注を行うことを差す。国によって定められたルールがあり、その範囲であればどんな依頼を出そうとも受けようとも自由である。


 ゴブリンの討伐はギルド掲示板を介して受注したが、個人間では手続きや書類の記入が必要ない。手っ取り早く小遣いを稼ぐにはもってこいの方法である。


「至急、どうしても欲しい道具があってな。『ゴブリンナイト』って知ってるか?」


 よろず屋のおっちゃんからクエストを受注した俺は、こうして『ゴブリンナイト』討伐へと赴くことになったのだった。そして、俺はそこでメシュアのとんでもない秘密を知ることとなったのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございました!!

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