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ドワーフの弟

 その日の夜のうちに『アダマイトス』討伐のレイドクエストは発令された。それに伴い多くの人間が戦闘に向けて準備を開始する。俺が感じた静けさとはうって変わり、時刻は深夜帯であるというのにも関わらず一気に人並みと喧騒で溢れかえった。


 よくないことの前触れだったとしても、あんな風に静かであるよりかは、こういう風に活気があふれている方が『ぺレスロウレ』の街にはお似合いだ。


 俺はよろず屋のおっちゃんとともに『ザーヤの酒場』を出た。そのまま今は道具屋として経営されている夜の店舗へと赴いた。俺以外にも数人の人間がよろず屋のおっちゃんに率いられ、道具屋の奥にある工房へと足を踏み入れた。


「こいつが俺の弟だ! ドワーフ族のライセルってんだ」


 驚いた。

 どうやら、よろず屋のおっちゃんの弟はあの数少ないドワーフ族だったらしい。ドワーフ族というのはみんな見かけが似通っていることで有名だ。ギョロギョロとしたまん丸い目玉とでかでかとした鷲鼻。そして立派に蓄えられた口髭に、100㎝くらいしかない背丈。


「おお、兄貴! 帰ってきたのか!!」


「ああ。今回はこんなにお客さんを引き連れてきちまったぜ。これで俺たちも大金持ちだな!」


「兄貴、そりゃぁ商品を買ってもらえたらの話だろうが! うっげっげっげ!」


 この特徴的な笑い声。間違いなくドワーフ族だ。

 俺は幼少の頃一度だけドワーフに遭遇したことがある。家の近所の森を散歩している時に、「ウワワ~ッ!?」という叫び声が聞こえてきたかと思うと、それは上から降ってきたのだった。


「お父さん、僕ね、ドワーフ族を見たよ!」


 そういうと父は嬉しそうに「そいつはラッキーだったな!」と笑っていた。俺はその時の父の説明を受け、ドワーフという種族はあまり数が多くないということを知ったのだ。


「んで、調子はどうだ?」


 よろず屋のおっちゃんはドワーフ族の弟に問いかけた。

 『アダマイトス』の件を考えるに、『マハの黒鉄』を使った装備を製作中なのだろう。

 熱せられた『マハの黒鉄』は赤く光っていた。


「まあまあってとこだな。なんせ『マハの黒鉄』は貴重だからな。必然的に扱いは丁重にならざるを得ねぇよ。下手打って純度が下がっちまったり欠けちまったら最悪だからな」


「そうだよなぁ。まあ、お前のペースでいいから、お前の中で「よし来たッ!」ってのが出来上がるまでじっくり武器造りに励んでてくれ。俺は接客の仕事があるからな。深夜の特別営業よ!」




「弟さんがドワーフ族だったとは驚きです」


 俺が言うとよろず屋のおっちゃんは頭を掻くような仕草をして弁明した。


「いやあ、別に隠そうって思ってたわけじゃないんだぜ? でもよ、やっぱドワーフ族ってのは珍しいからな。見世物みたいにされるのが嫌だったんだよ。店員と客っていう立場の関係からか、たま~に変な奴がくるんだよ。「俺は客だ、ここにドワーフ族がいると聞いた、見せてみろ」なんてことを宣うお馬鹿さんがな」


「それは大変でしたね。さぞ嫌な思いをされたでしょう」


「今となっては昔の話だ。そんなことよりアンタも武器を選びな。クリスタ不足ってんならツケにしといてやるさ。この緊急事態だからな」


「分かりました。ありがとうございます!」


 俺はよろず屋のおっちゃんに促され、武器を選ぶ人々の中に混じっていった。間隔的に聞こえてくる鉄を打つ音が、交わされる雑談の隙間に響いていた。

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