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束の間の日常

ここまで読んで頂きありがとうございます!

面白かったら☆5を入れてくれると嬉しいです!つまらなかったら☆1でも感激でございます!ブックマークや感想などもお待ちしております。なにとぞ応援よろしくです!!

 『ぺレスロウレ』の街へと戻ってきた俺たちは、まっさきに宿屋で休むことにした。ヴェロニカは観戦に徹していたのでその限りではないが、俺はというと、それはもう酷く疲労していた。


 長時間に及ぶダブルサモンや『幼火竜(ベビー・ドラゴン)』のテイムもそうだが、あの『熱砂の王山』という場所の苛烈極まる環境は、やはり肉体に堪えるものがある。それに俺は元々スタミナの高い人間ではない。数㎞~数十㎞という道のりを往復するだけでも体力が削られるのだ。ヴェロニカは平然としていたが……。


「とりあえずヴェロニカは『ザーヤの酒場』に行っててくれ。俺も仮眠を取ったらすぐに合流するよ」


「分かったなの! 待ってるなの!」




 クエストから戻った俺たちを酒場のマスターと道具屋のおばさんが出迎えてくれた。少しのイレギュラー要素はあったものの、無事A難度のクエストを攻略した俺たちに、彼らは「よくやった!」と言葉をかけてくれた。


「タークは凄いなの! ダブルサモンを使えるなの!」


 ヴェロニカの言葉にマスターとおばさんは沸いた。街行く人々も「おや、ゾイドさんではありませんか!」などと騒ぎを聞きつけ、結果、今日の夜に祝い事を催す運びとなったのだ。題して「ダブルサモン習得おめでとうの会」である。実に直球だが、正直めちゃくちゃ嬉しかった。


 俺はベッドに横たわる前、無理を承知したうえで、この日最後のサモンを詠唱した。呼び出すモンスターは『幼火竜(ベビー・ドラゴン)』だ。顔合わせを済ませておこうと思ったのだ。


「やあ、『幼火竜(ベビー・ドラゴン)』。調子はどうだい?」


「……ここは、どこですか? 我は『熱砂の王山』にいたはずです。そこであなたたちと死闘を繰り広げていたはず」


「ああ。そして君たちは負けた。俺はテイマーという役職についていてね。モンスターに向かってテイムと唱えると、そのモンスターを使役できるんだ。……思い出したかな?」


「なるほど。我はあなた方との死闘に敗れたと。同胞を守れなかったと」


 出だしはあまりよくないな。この『幼火竜(ベビー・ドラゴン)』はあれだけ一方的に攻撃を受けたというのにもかかわらず、最後の瞬間まで闘志を燃やし続けていた。その意志の強さは仲間を思えばこそだったのかもしれない。だとしたら、今は自責の念のような感情に襲われていると考えられる。


 俺は励ましになるかどうかは分からないが、言葉をかけた。


「君は悪くないさ。もちろん俺たちもね。世界っていうのは厳しい。いつだって競争の繰り返しさ。生存競争に負ければ死ぬし、領土戦争に負ければ立つ地を剥奪される。これはただの世界の意志。自分を責めるなんてことはしてはいけないよ」


「……お言葉感謝します。我は、これからどうすればいいのでしょうか?」


「敵対した俺が言うのもおかしな話だけれど、生きていけばいいんじゃないかな? もちろん俺に心を開けって言ったって、すぐには難しいかもしれないけどさ。でも少しずつ一緒にいる時間を積み重ねていって、その時間の中で、君は仲間たちのことを忘れないであげればいいと思うよ」


 俺なりに考えて出した言葉だったが、はたして『幼火竜(ベビー・ドラゴン)』の心には届いてくれるだろうか? 少しの沈黙の後、『幼火竜(ベビー・ドラゴン)』が口を開いた。


「少し、一匹にしてもらえますか? 落ち着いた場所で考えをまとめたいのです」


「ああ、分かったよ。それじゃ、おやすみ」


 俺がクローズと唱えると、『幼火竜(ベビー・ドラゴン)』は赤色のビー玉となって消えた。消える間際、かすかに「おやすみなさい」という返事が聞こえたような気がした。


            ☆     ☆     ☆


「今日の分はツケで良い! もちろん利息だって取らないさ。思いっきり飲み明かそうぜ、野郎ども! なんたって我が『ぺレスロウレ』の英雄・ゾイドが『ダブルサモン』を習得したんだからなぁ!!」


 珍しくマスターのテンションが高い。

 マスターの「今日の分はツケで良い」という言葉に、店内の人間が「いよ! 太っ腹!」と湧いたが、この客はおそらく、既に酔っているのだろう。ツケと無料は別物だぞ? そんな助言を呈すものはいなかった。飲みに飲み明かした後の彼の反応も、それはそれでまた一興だからだ。


「「「乾杯!!」」」


 ゾイドやヴェロニカ、マスターに、よろず屋のおっちゃんもいる。ゾイドはダブルサモンでメシュアとアガドも呼び出し、魔物用のドリンクをふるまってやった。アガドは初めて口にする味に困惑する様子を見せながらも「オイシイ オイシイ!」と、嬉しさを表現するかのように回転していた。

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