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「無限収納」と『溶岩王』

 『溶岩王』は姿勢を崩しながらも、それでも負けじと腕を振り払う。拳撃が直撃しなくとも、溶岩さえ当ててしまえば勝ちだと思っているようだ。確かにそうかもしれない。いかにメシュアが規格外かつ常識外れの強さを持っているとはいえ、種族がスライムである以上水分は多いはずだ。


 もしかしたらこの『熱砂の王山』にいるだけでよっぽど苦しいかもしれない。通常のスライムは炎や雷といった属性攻撃に弱いが、メシュアもその理からは逃れられないのかもしれない。


 ゾイドは不安になり問いかけた。


「メシュア! お前、暑いのは苦手じゃないのか!?」


「にがてだよ!」


 その言葉を聞いて、ゾイドはまっさきに自分の案直さを呪った。確かに「あのメシュアが!?」という驚きの感情はあるが、それ以上に自分のテイマーとしてのいたらなさに怒りを覚えた。


 なにがテイマーだ!

 メシュアが強いからって頼りきって! 慢心して!

 メシュアを一度戻そう。俺の為にこれ以上無理をさせたくない。


 そんなゾイドの心の声を一笑に付すかのように、メシュアは続けた。


「にがて だけど へいきだよ! ぼくの たいないには 『れみあこ(レミア湖)』とおなじくらいの すいぶんが ちょちく されてるからねっ!」


 説明しよう!!

 『レミア湖』とは!


 端的に言うと、とてつもなく巨大な湖である!

 『バルンコッタ王国』と呼ばれる王国に存在する湖で、その集水域面積は200,000㎞²を記録している。水深は600mにも及び、周囲長は7000㎞とされている。一言で言うならば世界一巨大な湖ということだ。説明終わり!


「心配する必要は全くなかったみたいだな」


 ゾイドは真顔で言った。

 

 確かにそうだよなぁ。言われてみればメシュアって「無限収納」を使えるんだもんな。いつも身近にいるから慣れきってしまっていたが、無限というのは文字通りの意味で無限なのだ。つまり、メシュアには容量オーバーという概念が存在しないというわけだな。


「メシュアには『レミア湖』が入ってるなの?」


 ヴェロニカは不思議そうに首を傾げた。ゾイドはヴェロニカに対して「無限収納」の件を説明していない。もちろん分裂できることも説明していないし、物質の性質を自身に作用させることができるというのも説明はしていない。


「そういう認識で間違いないと思うよ。厳密には違うけどね」


 もちろんこのことも秘密だぞ? ゾイドはそう言ってヴェロニカの頭を二回、ぽんぽんと叩いた。ヴェロニカは釈然としない様子ではあったが「分かったなの」と頷いた。ゾイドは始めてヴェロニカと出会った時、わがままで物分かりの悪そうな子という印象を受けたが、どうやらそうでもないらしい。


「おまえの ようがんなんて なんてことないね!」


 メシュアは口から水を吐き出した。ただ吐き出したわけではない。まるでビームを発射するかのようなとてつもない勢いで噴射したのである。


 『溶岩王』の溶岩はたちまち(※)火山岩と化した。火山岩と化す化さない以前にそもそもが水圧に押し負けているのは言うまでもない。メシュアの噴射した水は『溶岩王』を纏うマグマにも直撃し、そのマグマもあっという間に火山岩となる。


 もはや、ここらいったいの環境はアガドの「絶対王者」がなくても涼しく感じる程になっていた。究極の水打ちとでも例えようか。


 ……こんなことなら水量を節約させる必要はなかったかもな。

 メシュアの奴もそんなに水を貯め込んでるっていうなら言ってくれればいいのにな。ゾイドはそう思わずにはいられなかった。




「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


 『溶岩王』はメシュアの水撃を受けてその巨体を空へと舞わせた。通常種の『溶岩王』と比べて五倍ほどの大きさを誇るその巨体はおよそ25m。そんな化け物もメシュアの手にかかればこのざまである。生憎、メシュアに手という部位は存在しないのだが。


「メシュアはいつも想像を超えてくるなぁ。俺も負けないように食らいつかないとな」


 ゾイドが落ち込んでいると勘違いしたのか、ヴェロニカは的外れな励ましを口にした。


「大丈夫なの。あんなのに食らいつける奴なんてそうそういないなの」


「確かにな」


 ゾイドは苦笑を浮かべながら、内心ではヴェロニカの言葉に、踊りだしたくなる程の歓喜を爆発させていた。ヴェロニカの言葉は誰がどう受け取っても最大の賞賛だからだ。


【(※)火山岩:マグマが急激に冷やされることによってできる岩石。】

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