「絶対王者」と溶岩王
モンスターには通常種とユニーク種が存在する。そして通常種のモンスターよりもユニーク種のモンスターの方が強く危険である。性格も凶暴かつ残忍なものになるとされているが、その分、数は少ない。
「『溶岩王』のユニークが潜んでいるっていうのは聞いていたけど、まさか火口から出てくるとは思わなかったよ!」
個体こそ違えど、ゾイドにとって『溶岩王』というモンスターはやはり憎むべき存在である。ゾイドは『溶岩王』のユニークをここで撃破し、過去の屈辱への手向けにしようと考えた。
テイムしたらさぞかし役に立ってくれるだろう。だが、ダブルサモンを長時間発動したうえに、今さっき『幼火竜』のテイムを成功させたばかりである。流石にあれだけのモンスターをテイムするだけの余力は、今のゾイドには残されてはいなかった。
「メシュア、戦えるか!?」
メシュアは間髪入れずに「もちろん!!」と応じ、既に臨戦態勢を取っている。やはりメシュアは好戦的な性格らしい。強そうなモンスターを見ると戦いたくてうずうずするのだろう。もしかしたら、メシュアがこんなに強くて凄いスライムになったのにはそういう性格的な要因が関係しているのかもしれない。
思えば、スライムというモンスターはあまり戦闘を好む傾向にないモンスターだ。アガドのように非戦闘型ではないが、決して好戦的ではない。メシュアはそういう意味でも特殊だな。
「ぼくはね ちょうど べびー・どらごんだけじゃ ものたりないと おもってたところなんだ! ここいらで もうひとあばれ させてもらうぜいっ!!」
ユニーク種の『溶岩王』を睨みつけるメシュアからは凄まじい闘気を感じて取れる。やる気満々を限界突破しているとでも言えばいいだろうか? アガドは神属性の超激レアモンスターだが、メシュアも神属性として扱っても遜色はなさそうである。思えば、俺が救世主から取った名前も神様っぽいかもしれない。
「ォォォオオオオオオオオッッ!!!」
『溶岩王』はドロドロとした巨腕をめいっぱいに広げて咆哮した。飛び散った青色の溶岩は、もう既に十分熱せられた砂漠地帯をさらに焼いてゆく。万が一あの溶岩に触れたなら、その箇所はただの火傷では済まなさそうである。
ユニーク種ということは、その体温も通常の『溶岩王』よりも高いだろうと考えられる。現に、俺たちと『溶岩王』との距離は目測で200m程は離れているのだが、それでも、まるで暖炉の目の前にいるような感覚である。
「アガド! 「絶対王者」の効力、もっと強くできるか?」
「カノウダガ コウカノ ヒリツハ ヤハリ ホノオガニガテナ ヴェロニカ二 カタムクゾ!」
……やっぱり置いてきた方が良かったかもしれない、なんてことを今更言っても仕方ないか。まだ出会ってそんなに長くないが、俺はなんとなくヴェロニカに仲間意識のようなものを抱いてしまっている。結果としてこういう状況になっているのなら、俺にはヴェロニカを守る義務があるだろう。
俺はヴェロニカよりも年上だし、このクエストに同行させると、最終的にそう判断を下したのは俺だからな。
「分かった。それで構わない。ま、そこまで時間はかからないとは思うけどな」
確かに相手はあの憎き『溶岩王』だ。しかもユニーク種ときている。青色に光る溶岩の化身は一筋縄では倒せない。あのシャルロードの実力を以てしてもソロでは討伐できないだろう。
だがゾイドの判断ではシャルロードがもしも二人いたなら倒せるだろうという計算であった。ゾイドがそう思ったのは、ユニーク種ではないにせよ一度『溶岩王』を間近で見たからだった。
シャルロード二人分で圧倒できる程度ならメシュアの足元にも及ばないさ。それに、今のメシュアはただのメシュアじゃない。完全とはいえなくともアガドの「絶対王者」の加護を受けているのだ。
「ムム! ヨウヤク イイカンジニ ナッテキタゾ!!」
アガドは嬉しそうに叫んだ。
ヴェロニカとメシュアにエネルギーを割いていたため、『溶岩王』へのデバフ効力が弱まっていたらしい。だが出力を上げたことにより、その効き目も高まったようだ。
「オオオオオオオ オオ グゴォオオオオオオオオオオオオオッッ!!?」
『溶岩王』は僅かによろめき、火口の縁部分に肘をついた。見た感じだと、力が抜けていっているように見える。もちろん弱体化されているのはパワーだけではないだろう。防御力や素早さといった能力も著しく低下しているはずだ。
「ははは、凄いじゃないか、これが「絶対王者」の効果かっ!」
Sランクモンスターである『溶岩王』を圧倒する程の能力。しかもこの『溶岩王』はただの『溶岩王』ではないのだ。
ゾイドはあらためてアガドの強さを再認識した。やっぱりアガドは無能じゃなかった! そう思うともう一度マッチョスに復讐してやったような、そんな気分になった。




