幼火竜討伐クエスト(2)
やがてゾイド一行は『熱砂の王山』の麓近くへとやってきた。この時点でゾイドたちの体感温度は60度近くを記録していた。耐熱装備に身を包みメシュアの”恵みの雨”を受けた状態でこれなのだから、実際の温度はさらに高い。
さらにヴェロニカにいたっては唯一の苦手属性が炎なので、その影響はことさら大きいと予想が付く。辛そうなヴェロニカの姿を見ていると、さしものゾイドも申し訳ないような気分になってきた。やはり来させるべきではなかったんじゃないか? 必然的にそのような罪悪感が湧いてくる。
「問題ないなの。連れていけってお願いしたのは私なの。タークは気にしなくていいなの!」
ヴェロニカは精一杯強がった。
だが、やはりゾイドには心苦しいものがあった。だから、ヴェロニカには聞こえない程度の声量で「ヴェロニカに多く水をやるように」と指示を出した。他の誰でもないゾイドの指示だ。メシュアには従わない理由が無かった。
やがて、ゾイドの視界に『幼火竜』の燃え盛る尻尾が映った。『幼火竜』の群れは『熱砂の王山』の火口周辺を旋回している。時々「ギャ―ーーーーーーッス!!」と甲高い雄叫びを上げている。
「あれが『幼火竜』か。見た感じはあまり怖そうに見えないけれど、あれでもB+の強さを持っているのか……」
ゾイドはオークキングとの戦いを思い浮かべた。
奴との戦いの時、ゾイドは鎧の上からさらにメシュアを纏っていたが、それでもダメージは免れなかった。
「気を引き締めていこう!」
ゾイドは自分に言い聞かせるようにそう言った。
「グャァーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!」
『幼火竜』の群れのうちの一匹が、雄叫びと共に火炎放射を放った。これは敵や獲物を見つけた時の合図である。この火炎放射により、『幼火竜』の群れは一斉に臨戦態勢を取る。
視界に映るモノはすべて獲物。だから容赦なく喰らう。『幼火竜』の行為にはなんら悪意も含まれてはいない。ただ、それが自然の摂理であるというそれだけのことである。故にその逆もまた然りだ。
ゾイドたちが『幼火竜』たちに牙を向けるのもまた、人類が生き延びるための手段の一つに過ぎないのだ。残酷だが、生きるというのはそういうことである。だが、ゾイドにはこの場の『幼火竜』を殲滅してしまうつもりなど、毛頭もなかった。
「この中の一匹はテイムして帰りたいと思っているんだ。協力頼むよ、メシュア! アガド!」
「りょうかい!」
「マカセロ!」
ダブルサモンによって召喚されたアガドとメシュア。初めての共同戦闘である。ゾイドはアガドの「絶対王者」の対象をメシュアに指定した。念のためヴェロニカもその対象に入れおく。すると早速、その効力は現れたようだった。
「あれ? なんだか、急に涼しくなったなの!!」
なんと、唯一の弱点属性である炎を前にしておきながら、ヴェロニカが「涼しい」と言う言葉を口に出したのである。「ほんとうだ! ぼくも すずしく かんじるよ!」。メシュアも同様の反応を示した。
「まさか、環境適応能力まであったのか?」
ゾイドはかつての『マグマ山道』でのことを思い出す。
確かに『マグマ山道』はこの『熱砂の王山』ほど過酷な環境ではなかった。だが、それでもモンスターは強力だった。いくら耐熱装備を身に着けているとはいえ、そんなモンスターの攻撃を受けて怪我程度で済む訳が無かったのだ。
「ガッデンロスが全治一週間程度で済んだのも、「絶対王者」のおかげだったのか!?」
そう思うと、ゾイドは途端に自分のことが誇らしく思えてきた。
なんせ自分が追放された時、マッチョスはアガドのことを「役にも立たない」と断言したのだ。ゾイドはその台詞に我を忘れ怒り狂ったが、それが正しかったと、今この瞬間に証明されたのだ。
やっぱり俺は間違ってなかった! 的外れで馬鹿なのはマッチョスの方だったのだ!
「ギャアアアァァーーーーースッ!!」
ゾイド一行を目掛け、『幼火竜』の群れが急降下してくる。
「来るぞっ! 構えろ!!」
ゾイドの指示を受けアガドとメシュアは臨戦態勢を取った。
『幼火竜』の群れVSゾイド一行の戦いの火蓋は切られた。
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