ダブルサモンを発動した
「分かったなの! そういうことなら許してやるなの!」
メシュアの説明を聞いたヴェロニカは仕方ないな、といった様子で腕を組んでいる。
一応は許しを得られたみたいだ。だがそんなことよりも、ゾイドにはどうしても釈然としないことがある。あまりにも普通に”それ”が行われているものだから最初は違和感を抱かなかったのだが、よくよく考えると、今のこの状況は超絶的に異常である。
「あのさ、ヴェロニカ。もう一つ聞いてもいいか?」
「なんなの?」
「お前、なんでメシュアの言葉が理解できるんだ?」
表面上では平静を装うゾイドだが、内心では腰を抜かしそうになる程驚いている。ヴェロニカのやっていることは”テイマー”という職業のアイデンティティを充分に破壊し得る行為なのだ。
「それはねぇ……」
ヴェロニカは一度言葉を区切り、勿体つけるように人差し指を立てウインクした。
「ひ・み・つ・なの!」
「秘密って言われても……。まぁ、無理に教えろとは言わないけど、やっぱり気になるよ」
「私は特別なの! 教えてあげられることはそれだけなの。それ以上のことは話せないないなの。タークがメシュアのことを話せないのと同じことなの!」
「なるほど。そういうことなら無理には聞かないよ」
どうやらそれ相応の理由があるらしい。特別、というのが具体的にどういう風に特別なのかは分からないが、多分、ヴェロニカの強さにも関係しているのだろうな。あまり詮索するのも気が引けるので、邪推はこの辺でやめておこう。
「それで きょうは どうするんだい?」
メシュアの言葉からは「クエストに行きたい」という感情が汲み取れた。しかしゾイドには、今日というこの日にクエストを受けるつもりはなかった。何故なら今日は記念日となるからだ。
ゾイドはマッチョスとシャルロードの陰謀を暴いた際に『ギガスグランド』を討伐した。それによって急激な成長を遂げていたのである。ゾイドは感覚的に理解した。「これはできるぞ!」と。
「今日はメシュアに会わせたいモンスターがいるんだ。俺が初めてテイムしたモンスターなんだぜ?」
「ほんとに!? やったあ!!」
メシュアは嬉しそうに飛び跳ねた。それからジャンプを繰り返し、まるで跳弾のように壁から壁、床から天井へと縦横無尽に駆け回った。
「やったやったやったあ~~~! ぼくにも おともだちが できるんだ!!」
まだ紹介もしていないのにこの騒ぎようである。実にかわいらしいな。
「タークはダブルサモンが使えるなの?」
「正確には使えるようになった、だけどね。悪いけど少しだけ集中させてくれ」
☆ ☆ ☆
ゾイドは瞳を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。静寂に包まれた室内に、柔らかな息使いの音だけが強調されている。ゾイドの意識は頭のてっぺんからつま先まで流れている。その意識の波を少しずつ指先のみに集中させ、
「……サモン」
ゾイドは静かに詠唱を口にした。極限にまで研ぎ澄まされた集中力は凄まじく、ゾイドの手の平の間で穏やかかつ緩やかな旋風が巻き起こった。その風は金色の輝きを放ち、そしてついに――
「ムム! ヨバレテ トビデテ ナントヤラ!」
ダブルサモン、成功である。
「はぁ、はぁ……。で……できた!」
ゾイドの息は乱れていた。相当なエネルギーを消耗したのだろう。確かにこのダブルサモンは”テイマー”という職業の間では高等技術の一つとして数えられている。個人差こそあれど、やはりスタミナの消費は激しい。
「ムムム!? モシカシテ コノモンスターガ?」
「わあ! この きんぴかの もんすたーが ぼくの おともだち!!」
アガドとメシュアの初対面である。
「ダブルサモン成功なの! おめでとうなの!!」
「ああ、ありがとう」
ゾイドはアガドにはメシュアを、メシュアにはアガドを紹介した。
なんとなく想像できていたことではあるが、メシュアは嬉しさのあまりハイテンションになっている様子だった。この感じだとまるで親子みたいだ。もちろんアガドが父でメシュアが子である。
「やっと会わせてやれたな。テイマーとしてこんなに嬉しいことはないよ」
ゾイドは心の中で父のことを思う。
生涯ダブルサモンを扱えなかった父、ラック・ペンターク。
この光景を父にも見せてやりたかったな。
ゾイドはそう思わずにはいられなかった。
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