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なのっ子ヴェロニカ

 その後の経緯を少し語っておこうと思う。

 

 まず結論から言うと、あの二人に言い渡されたのはもちろん極刑であった。しかしただの極刑ではない。普通の死刑であれば、与えられる罰が死を以て完結するので、刑が執行されるまでの期間は基本的には自由である。檻の中で黙っていれば酷い目に遭うことはない。


 だが二人に言い渡されたのは「特別死罪」であった。

 単純に言うならば、死ぬまでの期間を国の奴隷として扱われるのだ。もちろん労働も危険なものを強いられる。この「特別死罪」を受けた人間の中には過労死や事故死した者も少なくないが、国から言わせれば「どうせ死ぬんだからいいだろう」といった感じだ。


 ちなみに、俺の介入がなくとも二人の計画には致命的な欠陥があったため、御用となるのは確定だったらしい。以下は二人の言い分と、それに対する指摘点だ。




「だから、俺たちは幻覚を見せられたんだって!!」


 醜いことに、マッチョスはこの期に及んでもまだ言い訳を続けていた。なんとしてでも罪を逃れようという生き意地汚い魂胆だ。


「なるほどなるほど。そのモンスターは確か『闇の神官』でしたよね?」


「ああ、そうだ。あいつは強かった」


「そうだ! この俺でさえ苦戦を強いられた!!」


 シャルロードもマッチョスの証言に便乗するが、結果としてはこれが仇となる。二人まとめて墓穴を掘ったのだ。


「おかしいですな」


「「は?」」


「あなた方の証言には矛盾が生じています。あなた方は取り残された仲間を救出し『ギガスグランド』を倒すためにあの場所へと向かったのですよね?」


「ああ、そうだが?」


「おかしな点を一つずつ列挙していきましょうか。まずは一つ目。何故回復薬の類を用意していかなかったのですか? 普通、救出に赴くというのなら、回復薬の類はかかせないでしょう」


「そ、れは……」


 狼狽するマッチョスをシャルロードが擁護した。


「いや、それは……、ほら! あれだよ! そこまで重症じゃなかったんだ。確かにダメージは受けてたが、動けない程じゃなかった。だから必要ないと思って……」


 馬鹿丸出しである。実に救いようがない。

 二人は入念に計画を練ってきたが、作戦を思いついた時点で「その結果として得られる利益」に目が眩んでしまていたのだ。


「動けない程じゃない、と。ではなぜ取り残されたのですか? 動けない程じゃないなら、共に帰還し体制を立て直すべきです」


「うぐ……」


 次はマッチョスがシャルロードを庇おうと口を開いたが、ここでもまた墓穴を掘ることになる。


「一応そこに残っててもらったんだよ! 偵察隊と――」


 言い切る前に反論は飛んできた。


「だったらそう説明すればよかったのでは? それに取り残された方が、などと言っていますがね、取り残されている間、彼らはどうやって生活していたと思いますか? 食事、飲み物、生理現象その他もろもろ」


「そ、そりゃぁ、クエスト討伐なんだから色々と準備するだろうが。食料も飲み物も」


 このマッチョスの証言でチェックメイトとなった。というか元からチェックメイトなのだが。


「ほほう。それはおかしいですな。『ギガスグランド』討伐クエストは日帰りの予定だったはずですよ?」


 その通りなのだ。レイドクエストとはいえ戦闘に一日以上かかるケースは稀なのだ。相手が竜族や四聖獣でもない限り、そんな大規模な戦闘にはならない。


「日帰りの予定なのに、まるで洞窟に残ることが決まっていたみたいに、事前に食料を用意して(・・・・・・・・・・)いたのですね(・・・・・・)?」


 もう言い逃れは叶わない。そもそも最初から言い逃れられるはずが無かったのだ。『ぺレスロウレ』の民たちの証言もあるし、他にも不審な点が多い。


「そもそも初日は100名で討伐に向かったのに、次は5名程度で『ギガスグランド』の元へと辿り着いたそうではないですか。100名では攻略できなくとも5名なら攻略できると? そんなレイドクエストは聞いたことがありません」


 その後も裁判での追及は続いた。俺以外にも怪しいと感じていた人間はままいたらしく、そういった人間から寄せられた証言なども元になり、二人は完全に口を閉ざした。

 

 二人は当然死刑。刑の執行日は未定である。


            ☆     ☆     ☆


「私の名前はN・ヴェロニカていうなの! よろしくなの! こう見えて結構強いなの!」


 ゾイドの目の前で、一人の幼女が唐突に自己紹介をはじめた。青と白の入り混じった長髪をポニーテールに結った可愛らしい女の子である。喋り方や仕草からは天真爛漫かつ活発な印象を受ける。


「ん? どうしたなの? なんで黙ってるなの?」


 ヴェロニカは俺の周辺をくるくると回り始めた。「ん? ん?」などと首を傾げながら満面の笑みで見上げてくる。一体何が目的だ、この娘は。


「君の持ってるスライムなの!」


 メシュアのことか。あまり触れられたくない話題である。ただのスライムじゃないってことはバレたくない。そもそもあんなイヤリングサイズの小さな物体を見て「なんだこれ?」と思う者はいても「こいつスライムじゃん!」と思う奴は少ないと思っていたのだが……。


 俺が疑問を口にすると、酒場のマスターは申し訳なさそうに拝むような仕草をした。


「悪いな。俺ぁこの子には逆らえないんだ。色々と借りがあってなあ」


 それは難儀なものだ。だからこんな子供にも酒を振舞っているのか。


「ぷはー! おかわりなの!!」


 マスターは溜息を吐きながら肩をすくめた。ヴェロニカのグラスに酒を注ぐと、申し訳程度に釘を刺した。


「無銭飲食もほどほどに頼みますよ」

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