頑張ろうな!!
「お前を追放した次の日、俺たちはS難度のクエストを受注した。いつもの通り楽に攻略できるハズだったんだ。だが、俺たちは討伐対象に到達することすらできなかった」
なるほど。その経験が今回の作戦にも盛り込まれているのか。確かに下手な芝居を打つよりも一度経験したことの方が白々しい印象を与えずに済むだろう。『ぺレスロウレ』の住民の大多数がこの一件を疑いすらしなかったのはそういう背景があるのかもしれない。俺だって道具屋のおばさんの話が無ければ核心には迫れなかっただろう。
「どういうわけだか知らねぇが、道中のモンスターに攻撃が通らなくてな。倒すのに苦戦を強いられちまったんだ」
「攻撃が通用しない、ねぇ。ま、アガドの『絶対王者』は解いたからなぁ」
「え? なんだって?」
「いや、なんでもない。……続けてくれ」
「あ、ああ」
その後もマッチョスは様々な事を語った。パーティの活動が休止になった事、他のメンバーと争いになった事、酒を飲んで暴れ回った事、そして、酒場で裏の人間と繋がった事。
「ま、こういう世界だからな。俺だって真っ白潔白ですってわけじゃなかったさ。ただ、そういう付き合いは浅く広くって決めてたんだ。だが、俺はどうしても挽回したかった。自分の立ち上げた『英雄の誉』が失墜していくのを黙って見てることができなかったんだ。そこで奴らを頼り、俺の計画を手伝ってくれそうな人間を紹介してもらったんだ。まさかシャルロードを紹介されるとは思わなかったけどな」
「それで70人も殺したってのか!! そんなことのために、なんの罪もない人たちを!!」
「仕方ねぇだろうがッ!! 俺にはこれしかねぇんだよ!! 俺はこの『英雄の誉』があったからこそここまで昇り詰めてこれたんだ!! もちろん超絶有名大人気ってわけにはいかなかった。この世界はそんなに温くねぇ。でも、『英雄の誉』にはそうなり得るポテンシャルはあったんだ!!!」
「くだらねぇ」
ゾイドは吐き捨てた。マッチョスの言い分は一笑に付す価値すら皆無である。利己的で自分勝手で他人のことを全く考えていない。
「くだらないだと!? 貴様っ――ぐはっ!!」
起き上がろうとしたマッチョスの顔面に、ゾイドは容赦なく蹴りを入れた。それから二発三発と攻撃を繰り返していく。
ドガ!! バキ!! グシャッ!!
「あが……がはっ、も、もう、やべで」
「はぁ。お前、とことんクソだな。きっとお前に殺された人たちも同じように思ったことだろうよ。ん? それに関してはどう思うんだ? 答えてみろよ」
「……ごべ、なさ、い」
「ふざけた野郎だな。まぁいい。お前を殺すことはできないからな」
この男には「死んだほうが良かった」と思いたくなるほどの苦痛を与えねばならない。もちろんシャルロードにもだ。殺してしまっては意味がない。
「メシュア、もういいぞ!」
ゾイドはメシュアに作戦の成功を告げた。他の誰でもない本人の口を割らせたのだ。これ以上の大成功はない。今頃『ぺレスロウレ』の街では大きな騒ぎになっているだろう。
ゾイドは三日間の準備期間で街の人々にあるものを渡していた。
それは一粒サイズの青いなにかである。ゼリー状で柔らかい。
「これを貰って欲しいんです。三日後、必ず耳に着けてください。お願いします!!」
ゾイドは頭を下げて、多くの人間の元を訪ねた。もちろんそんな得体の知れない物体を手渡されて「ありがたく頂きます」なんて人間はいない。そこでよろず屋のおっちゃんと酒場のマスターの出番である。
「怪しいもんじゃねえんだ。頼む、人助けだと思ってよ! 俺の店のもんだって安くしてやるからよ……な、いいだろ?」
「代わりと言っちゃなんだが、今日の酒は安くしとくよ。一杯目はタダでいい」
二人の言葉があればこそ、今のこの状況が出来上がったのである。
「さて、あいつを倒さねぇとな。……メシュア!!」
「いわれなくても わかってるさ!」
メシュアは事前に示し合わせていた通り、『ギガスグランド』へと突撃した。
目指す部位は口である。
「グオオオオ オオオオオオオオオオッ!!」
『ギガスグランド』は激しい雄叫びを上げ両腕を地面に叩きつけた。とてつもない地響きが辺り一帯を襲い、多くの瓦礫や石礫が飛び交った。
「クソ! なんて威力だ!!」
「やーい! この のうきんやろう! これでも うけてみろ!!」
周りからすればスライムが「ピーキーピーキー」鳴いているようにしか聞こえないだろう。もちろん『ギガスグランド』にとってもそうだ。鬱陶しいことこの上ないだろう。そんなスライムが口元に突撃してきたら――
「グオオオオオオオオオオッッ!!!!」
バクンッ!!
「かかった!!」
まさかここまで上手くいくとは!!
ゾイドが願っていた通り、『ギガスグランド』は目の前のメシュアを一口で丸呑みにしてしまったのである。
「おい、食われちまったじゃねぇか!! そもそもスライムって、何考えてんだてめえ!!」
マッチョスは怒りを顕わにするがゾイドは聞く耳を持とうとすらしなかった。こんなゴミ野郎に構ってやる時間はないのである。
「メシュア、今だ!」
ゾイドが指示を出すと、メシュアは了解の意を表明する代わりに、あるものを解放した。
それは、魔法だ。
『絶亡の神父』戦の時にメシュアが食べてしまった、あの超巨大な攻撃魔法である。そんなものが内側で解放されたとなれば――
「ガガガガガガ ガガ!? ギググググガガガ!! ガガガガガガ!!?? グ、グギャギャギャギャアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
あんな魔法を内側から受けたとなればひとたまりもないだろう。自慢の外皮もこうなっては少しの役にも立ってはくれない。
「アガ、ガガ……」
ドシィインッ!!
流石の『ギガスグランド』も、この一撃には耐え切れなかったようだ。
「クローズ!!」
爆発と同時に飛び散ってしまったメシュアはこれで元通り。ひとまず、クエスト完了だな!
最初は不安だったが、上手くいったようだ!
「メシュア。あの二人を吸収してくれ。そのまま身動きを封じて、憲兵の連中に突き出してやる」
「がってんでい!!」
二人は必死に抵抗したが、メシュアの前では無意味に終わった。
☆ ☆ ☆
街に戻った俺は多くの人間から賞賛を浴びたが喜ぶのは後回しである。俺はメシュアに二人を解放するように命令した。
「よっと」
メシュアから出てきた二人はスライムの粘着性で両手両足を拘束されている。身動きは取れないだろう。
二人を解放した途端、当たり前ではあるが大騒ぎが引き起こされた。
「このクズどもが!!」
「死んで詫びろ!! 今すぐ死ね!!」
「ゴミ野郎!!」
「お前らはクズだ!! 人でなしだっ!!」
「そうだ、討伐クエストを出そう!! モンスター名は『マッチョス』と『シャルロード』だ!」
「なぁあにが英雄だよこのボケカス!! 目玉と金○の位置入れ替えてやる!!」
「二人の口を便所にしよう。そして天然記念物として飾ろう」
「そいつは名案だ! 素晴らしい!」
散々な言われようである。だがそれも当然。二人はそれほどまでのことをしでかしたのだ。極刑は確定。檻の中でも人間扱いはしてもらえないだろう。完全に自業自得である。
俺は憲兵が来る前にマッチョスに言っておきたいことがあった。
項垂れるマッチョスを見下す形で、俺は口を開いた。
「これからお前は散々な目に遭うだろう。『ギガスグランド』に殺されておけば良かった、そんな風に思うこともあるかもしれない。檻の中では虫のように扱われ、他の咎人からもゴミ扱いされるだろうな。でも、それでもめげるんじゃないぞ」
「……え?」
俺はマッチョスの両肩に手を置いて、まるで決闘の敗北者を励ますような笑顔で言った。
「これからはただただ惨めに、ゴミのように虫のように生きていけ。死でさえもお前にはもったいない贅沢品だ。俺のことを思い出すたびに悶絶しながら、苛立ちながら、それでも精一杯、刑が執行されるその時まで息をしててくれ。お前の刑の執行当日、俺は最ッ高に美味い酒を飲みながら最上級の夜を過ごすだろう。悔しいねぇ、腹立たしいねぇ。それでもお前は何もできやしない――これから色々と大変だと思うけど……頑張ろうな!!」
ゾイドの満面の笑顔を彩るかのように、マッチョスの絶望に満ちた雄叫びが、噴水広場一帯に響き渡った。
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俺だけ【攻略本】が読める件~最弱と嘲笑われた俺は【攻略本】スキルで最強のダンジョン探索者へと成り上がる~
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