表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/83

カウント1

 ………………あれ?

 死んでない、のか?


 マッチョスは固く閉じた両目を開ける。

 確かに『ギガスグランド』の拳は振り下ろされていた。その拳は圧倒的な破壊力を以てして、マッチョスの目の前に巨大なクレーターを作っていたのである!


「はっ、はっ……、危ない所だった……。アンタが助けてくれたのか?」


 マッチョスの目の前には一人の青年の姿があった。背丈は170センチ程で、見た感じでは非力そうだ。黒髪は風に揺れ、ふいに覗く首筋には一つのほくろがある。


 あれ、こいつ……どこかで見たような?


「死にたくないですか?」


 ゾイドは言った。その声色は平淡で、どこか冷酷かつ薄情な印象を与える。だが、今のマッチョスには関係のないことだ。助かる見込みがあるのなら、それに縋る以外に道はない。例え自分を助けてくれた相手が弱そうだったとしても。


「あ、ああ。頼むよ! へへ、金ならいくらでもあるんだ! 金なら! 俺ぁ結構良いとこの出なんだぜ? それに、少し前だが、臨時収入も入ったしな! 300万クリスタ!! へへ、すげえだろ!?」


 それは俺の金だ!!

 ゾイドは叫びだしたい衝動を必死に押さえつけた。そしてメシュアに「やれ」と命令を下す。


「いよーうし! いっくぜぇ!!」


 メシュアは二つに分裂し、シャルロードの動きを完全に封じた。自身の粘着性を利用しシャルロードを岩壁に固定したのである。


「なっ、何をする!!」


「へへ ちょいと ここで だまってておくれよ」


「これであなたを助けられるのは俺だけになりましたね」


「何が目的だ!?」


 二人が話している間にも『ギガスグランド』は攻撃の構えに入っている。早くしなければもう一度、あの渾身の一振りが二人に襲い掛かってくるだろう。そうなれば二人ともただでは済まない。


「目的は一つ。全てを話してください。今すぐに、この場所で。それを約束できるのならば、俺はあなたを助けることができます」


「なんのはなし――」


「いいんですか? もう、攻撃が来ますよ?」


 それを聞いていたシャルロードが「ふざけるな!!」と怒鳴り散らした。


「喋ったら殺す!! 殺してやるぞ、マッチョス!!」


 ぐう!

 ど、どうすりゃいいんだ!?

 どうすれば……!!


 そんな思考は一瞬で恐怖に上塗りされ消え果てる。

 気づけば、マッチョスは「すべてを話す!!」と断言していた。


「よし!!メシュア、頼む!!」


 『ギガスグランド』の攻撃はもう目前にまで迫っている。とてもじゃないが避けられない。マッチョスがそう思ったのも束の間。




 ゾイドとマッチョスの二人は全く見知らぬ空間にいた。

 その空間は無限かとも思える程に広大で果てしなく、縁すらも観測することは叶わなかった。そして、ただただひたすらに、真っ白であった。


「こ、ここは……?」


 ……予定通り、上手くいったみたいだな。

 表ではメシュアが『ギガスグランド』の攻撃を避け奮闘しているだろう。その間に全てを吐かせよう。その後のことはどうとでもなる。


「さて、マッチョスさん。約束です。全てを話してください」


「……はは、ははは、はっはっはっは! 誰かと思えば、まさかお前だったとは!!」


 命が助かり冷静になったマッチョスは、その頭ですぐに損得勘定を始めた。どうすれば自分に一番被害が少なく済むのか考えているのである。状況次第では喜んでシャルロードを売り飛ばす腹積もりだ。


「どういう訳だか知らねぇが、まさかお前に助けられるとはな。……ここがどこだかは分からねぇが、俺はお前の言うことを聞いてやるつもりはないぜ」


 やっぱりな。

 こうくるのは予想していた通りだ。


「そうですか。でもいいんですか? そしたらマッチョスさんは助かりませんが? 俺はあなたをずうっとこの場所に閉じ込めて、自分だけ出ることもできる」


「だろうな。だったらどうすればいいか? 簡単だ。お前をボコボコにしちまえばいいんだよ。あの時みたいにな!! なにを思いあがってるのか知らねぇが、てめぇなんざ俺の拳で――」


 一撃だ、そう言いかけたマッチョスの拳は、振り上げた状態で静止された。


「にしても、たいしたタフネスだ。足、折れてるんじゃないですか?」


「どうなってやがる……。このベタベタな感じ、まさか!?」


 メシュアは自分の中の様子を常時好きな風にできる。いわばこの空間の支配者なのだ。マッチョスがゾイドに攻撃することは無限の時が経とうとも不可能である。少なくともこの空間では。


「よっと!」


 ゾイドはなんでもない風を装いながらマッチョスの目の前へと歩いていき、そして、マッチョスの折れた足を蹴飛ばした。一瞬の静寂の後、割れそうな程の絶叫が響き渡った。


「立場を弁えろよ、マッチョス。お前はもう俺には勝てない。どう足掻こうともな。あの時とはなにもかもが違うんだ。さあどうする? 全てを話すというならばお前をここから解放し命も保証してやるが?」


「……ちくしょう!!」


 マッチョスは観念し、全てを語り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ