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追放された

「ひい! 誰か助けてっ!!」


 時は五日前に遡る。

 この日、俺はSランクパーティ「英雄(えいゆう)(ほまれ)」の一員として、とあるクエストの攻略に挑んでいた。内容は『溶岩王』の討伐だ。『溶岩王』は最近発見されたばかりのモンスターで、討伐者がまだいなかった。


「よし! 今日は俺たちでこいつを撃破するぞ!」


 リーダーのマッチョスが自慢のポージングで筋肉を強調しながら指示を出し、すぐさまパーティは『溶岩王』の出る『マグマ山道』へと出発した。


 俺はいつもみたいにアガドをサモンしながら、メンバーの最後尾を歩いていた。

 テイマーは後衛職だから前衛には出られないのだ。


「暑いけど頑張ろうな、アガド!」


 アガドは金色の球体モンスターだ。

 属性は神で、つまり、超激レアモンスターである。

 今は亡き父の形見だ。


「オイ ナニカクルゾ!」


 アガドが警告した瞬間にそれはやってきた。

 超巨大な溶岩モンスター。その名も『溶岩王』である。


「出やがったな!!」


 耐熱装備に全身を包んだマッチョスがいの一番に駆けだした。

 他のメンバーのルディルとラハイ、そしてガッデンロスも駆けだす。

 あっという間に俺は一人きりになってしまった。


「オトモガ イルゾ!!」


 アガドが言ったのと同時に、俺は死にかけていた。

 なんと、『溶岩王』は手下である『ヘルフレイヤ―』を俺に向けて放っていたのだ!!


「ひい! 誰か助けてっ!!」


 俺は死を覚悟しながらも、せめてアガドだけは守ってみせるという意思のもと、アガドを抱きかかえる形で(うずくま)り、両目をギュッと閉じた。


 その結果、俺を助けたガッデンロスが火傷を負ってしまったのだ。

 クエストはクリアできたが、ガッデンロスは大やけどにより一週間の安静を言い渡された。




「ゾイド、お前はクビだ」


「えっ」


「「えっ」じゃねーよ、このヒョロガリ野郎!!」


 マッチョスは凄く怒っていた。鋼鉄を誇る肉体で、全力で威嚇してくる。

 黒い肌とは対照的な真っ白い歯を剥き出しにしながら、今にも襲い掛かってきそうな剣幕だ。

 それでも俺は納得できなかった。


 確かに俺の失態でガッデンロスは怪我をしてしまった。それは申し訳ないと思っている。だが、ガッデンロスは「気にスンナ! 仲間ダロ!」と笑ってくれたのだ。それに、俺の『アガド』が必要だと言ってくれたのは他の誰でもないマッチョスなのだ!


「あ? あー、あれな。神属性とかいうから何かの役に立つかもって思ったんだよ! でも蓋を開けてみりゃキーキー喚くだけでクソの役にも立たねぇじゃねぇかよ!!」


 なんだって!?

 『アガド』が役立たずだと!?


「こ、この! もう一回言ってみろ! この! この!!」


 俺は怒りに任せ攻撃を繰り出したが、全然効いていない。涼しい顔でいなされ、手痛い反撃を食らってしまった。


「うっげぇえ……ッ!!」


 俺はみっともなくゲロを吐いて地面をのたうち回った。そんな俺にマッチョスとルディル、それからラハイの三人による追撃が加えられる。挙句の果てには――。


「おお、お前意外と貯め込んでたんだなぁ! 役立たずだと思ったがたまには使えるじゃねぇか。こいつぁ手切れ金としてもらってやるよ!!」


 貯金まで盗まれてしまった。合計300万クリスタ。俺が五年かけて必死に貯めたお金だ。


「お前は今日をもってクビだ! このパーティから追放する!! 二度とそのもやし面見せんじゃねえぞ!!」


 ドガッ!!!


 最後の蹴りを受けて俺は完全に気を失ってしまった。

 それからはまさに地獄だった。


 手持ちはたったの100クリスタ。

 追放された俺に仕事はなく、治療も受けられない。

 この町はもうだめだな。そう思った。どこに言ってもマッチョスの口添えによって門前払いされてしまうのだ。なけなしの100クリスタでせめて飲み物を買おうと思ったが、それもできなかった。


 歩いた。

 ただひたすらに歩いた。記憶は途切れ途切れ。歩いてきた道なんて覚えていない。

 そんなこんなでふと気が付いた時には『モルの平原』にいたというわけだ。


            ☆     ☆     ☆


「なんてやつらだ!! ひどすぎる!!」


 怒っているのはスライムのメシュアである。

 俺にとっては紛れもなく救世主なので『メシア』から取ってこの名前を付けた。

 最初は「おおげさだよ」とか言っていたけれど、すぐに気に入ってくれた。


「あいよ、大ジョッキに魔物用のドリンクだ」


「ありがとうございます」


 俺は久しぶりのビールに「くぅう!」と唸った。

 実にうまい! 最高だ!!


 さて、ここで疑問に思った方もいるだろう。

 お前金なかったんじゃないのかよ? と。

 その通り。俺には金がない。だが、メシュアにはあったのだ。


            ☆     ☆     ☆


 あれから少し経つ頃には、俺たちはすっかり意気投合し仲良くなっていた。

 俺はスライムに『メシュア』という名を与え、メシュアは俺のことを『ターク』と呼んだ。

 ゾイド・ペンタークのタークだ。


「でも、これからどうしよっかなあ」


 俺は途方に暮れていた。

 当然だ。洗濯に洗体はできた。飲食もある程度は困らないだろうと思われる。

 でも、それだけでは生活が安定しない。クリスタもたったの100。これでは生きていけない。


 そんな俺の嘆きを聞いたメシュアは、


「まかせなさい!!」


 いきなりジャンプしたかと思うと、ジャラジャラと何かをばらまき始めたのである。

 水色の結晶石。それは紛れもなくクリスタであった。しかも、大量の。


「うわあああああ!! こ、これこれこ、これ全部!!」


「そうさ くりすた だよ!」


 俺は夢見心地でクリスタにダイブした。

 めっちゃ痛かった。


「ばかだな、きみは」


 ざっと見積もって1000万クリスタはくだらない。

 一体どこでこんなに?


「いっただろう? ぼくは ぼうけんを ゆめみてたんだぜ?

 いけるばしょは ぜんぶ いったんだ。 ゆめなかば ちからつきたひとも いたよ。

 そういうひとを おはかに いれるかわりに くりすたを はいしゃくしてたのさ」


 「すべてはこのひのために」、とメシュアは結んだ。

 やってることは人としてなら悪かもしれないが、メシュアはモンスターだ。それにお墓を作って埋葬までしてやったというのだから、まあ、そこまで責める必要はないだろう。でも……。


「俺との旅ではそういうことするなよ? 人に攻撃するのも禁止だ。約束できるか?」


「もちろん! きみがいうなら ぼくはそれにしたがうよ!」


 それからメシュアは嬉しそうな表情で、どこか誇らしげにこう言った。


「なんたってぼくは きみに ”ていむ” された すごいすらいむ だからね!!」

ここまで読んで頂きありがとうございました!!

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