カウント2
俺はメシュアやアガド、それからよろず屋のおっちゃんなどとの会話を通し、結果として一つの案を画策した。それにともない少しだけ不本意な行動も強いられてしまったがそれは仕方ない。全ては二人の悪事を暴くためである。それにマッチョスには大きな借りがあるからな。億倍にして返してやらねば釣りが合わない。
☆ ☆ ☆
作戦決行当日の正午。
俺はメシュアを連れ、『マハの洞窟』へと訪れていた。
ここに生息するモンスターは強力なモンスターばかりだが、今回はさほど心配しなくてもよさそうである。
「もんすたー あまり いないね」
「当然さ。あの二人が先に倒しているからね」
「これも さくせんどおり?」
「ま、大体は」
先に進んだマッチョスとシャルロードはクズではあるが実力は確かだ。今のマッチョスは弱体化したとはいえ、シャルロードの手助けがあるのだから、最低限の働きは可能だろう。
「うまくいくかなあ?」
メシュアは少し心配しているみたいだ。
確かに俺の考えた作戦は危険なものだ。失敗すれば俺とメシュアも酷い目に遭わされるだろう。だが決して成功確率が低いわけではない。それに、万が一の時にはアガドもメシュアも野生に返してしまえばいい。そうすれば罪は俺一人のものになる。
「問題ないさ。俺はメシュアを信頼してるからね。……ここまで一緒に戦ってきてつくづく痛感したけれど、やっぱりメシュアは凄いよ。それに強い。俺というお荷物を抱えながらもBランクのモンスターを倒してきたんだから」
「タークは おにもつじゃないよ! でも ぼくがつよいのは ほんとうのことだけどね!」
相変わらずだな、メシュアは。
少し緊張していたが、それが簡単にほぐれてしまった。もしかしたら俺の緊張を感じ取ってワザとそういうふうに振舞っているのかも?
「ぼーくは すっごい すーらいむだあ~
そーして つっよい すーらいむだあ~」
……気のせいだったようだ。
☆ ☆ ☆
「よし、やるか」
シャルロードはレイピアを抜き、巨大なモンスターへと応対した。そのすぐ隣で、マッチョスも臨戦態勢を取る。先陣を切るのはこの2名で、今の今まで潜伏していた15名がその2人をサポートする役割を担う。
「ささっと倒してぱぱっと帰ろう。『ぺレスロウレ』の連中は英雄の帰還をご所望だからな」
どこか小馬鹿にした様子でシャルロードが言う。マッチョスも「へへへ」といかにも悪役といった笑みを浮かべている。この戦いの後のことを想像しているのだろう。自分が英雄として称え崇められるその様を。
シャルロードは全身に雷を纏い、そして分身した。だが分身したという表現は『ギガスグランド』視点でのことであり、実際にはあまりの移動速度に残像が生じているだけである。
「ふむ、剣撃はほぼノーダメージか」
しかし関係ない。なぜならシャルロードは雷を纏っているからだ。そして『ギガスグランド』の外皮は鋼鉄。雷はよく通る。
「グガガ、ガァ、グオオオオ……ッ!!」
「ははは、効いてるぜ! 流石シャルロードさんだ!」
「は、速い! あの分じゃ一人で倒しちまうんじゃ?」
「さっすが雷帝!!」
「ふん。こいつは一応レイドクエスト推奨だが、その気になれば俺一人で充分さ」
そもそもレイドクエストの発注命令を出したのは俺だしな。
……それにしても人間ってのはすげぇよな。追い詰められた奴は特にそうだ。マッチョスの名は聞いていたが、まさかここまで役に立つとはな。お陰様で奴の弱みを握った状態で英雄扱い。しかも大金まで手に入る!
「やっぱやめらんねぇなあ!! モンスター討伐はよ! 最高だぜ!! ヒャッハーッ!!!」
「出た! 雷神化だ!!」
「すげえ! なんつー圧だよ!!」
あまりにも一方的である。マッチョスや有象無象に活躍の場はなさそうである。
「グガ、ガガガ、ギギギギギッ!!」
シャルロードの雷神化で一方的に蹂躙される『ギガスグランド』は、それでも負けじと攻撃を放とうとする。だが、両者の間には圧倒的な速度の差がある。特に『ギガスグランド』のような石人族のモンスターは遅いことで知られているので、その差は一層に顕著である。
もう勝敗は決した。誰もがそのように思った。
「これで終わりだッ!」
シャルロードは必勝の一撃を与えんと『ギガスグランド』に突撃した。
だが――。
「な、なんだこれは!?」
途端にシャルロードの機動力が著しい低下をみせた。マッチョスや他の連中はその光景に驚きを隠せずにいたが、一番衝撃を受けていたのはシャルロードである。
ドゴオッ!!
「ぐうっ!?」
生じた隙を逃すほど『ギガスグランド』は優しくない。直撃とまではいかなかったが、『ギガスグランド』の振り下ろした拳は十分、シャルロードに大ダメージをもたらした。
「クソ! どうなってやがる! なんだこの青色の物体は!?」
くそ、くそ!
身動きがとれん! 妙にベタベタしやがるから、思うように攻撃もできない!
「チクショウがっ!!」
マッチョスが怒りを顕わにしながらシャルロードの元へと駆けつけた。
「なんなんだ、その気色悪いのは!?」
「知るかっ! とりあえず俺は一旦後ろに引く。こいつをどうにかしないことにはまともに戦えんからな。お前もSランクの端くれなら、少しくらい時間を稼いでみろ」
「なっ! なんだとぉ!? もういっぺん言ってみろ! 誰が端くれだ!!」
「黙れ」
シャルロードはものすごい剣幕でマッチョスを睨みつけた。
「立場を弁えろよ、三下。お前の未来は全て俺の掌の上にあるんだ。俺は今すぐ話を無かったことにしたっていいんだぜ? 今のお前と違い、俺には権力があるからな」
「グ……。 く、くそう! 仕方ねぇ、やってやるよ」
「最初からそう言えばいいんだよ」
「てめえら、俺の足引っ張るんじゃねえぞ!!」
マッチョスは前に出ようとはしなかった。他の15人で肉の壁を作り、少しずつ『ギガスグランド』の足元へと近づいていく。
……それにしてもでけぇな、コイツ。
行けるか、俺のパワーで。いや、行くしかねえ! コイツを派手にひっくり返し、後は頭部を集中攻撃!! これしか勝ち目はねえ!!
「なんでもいい! 奴の体勢を崩すんだ!! 頭部に集中攻撃し、一瞬で息の根を止めてやる!! ぅぅううおおおおおおおおっ!!!」
マッチョスの指示を受け、シャルロードを除くこの場の全員が『ギガスグランド』の足元を目掛けて突進した。そして、その全員が『ギガスグランド』の拳一振りで吹き飛ばされてしまった。
「うぐおおおおお、ぐ、ぐわああああっ!!」
「「「うわああああああああああ!!」」」
「「「ぎゃああああああああっっ!!」」」
「「「ぐわああああああああああ!!」」」
当たり所が悪かったのか、この中で最もダメージを受けたのはマッチョスであった。「何をしている! 早く立て!」というシャルロードの叫びも無意味である。
「足が、折れやがった!! くそが!!」
毒づくマッチョスの全身を黒い影が覆い尽くした。
マッチョスは恐る恐る頭上を見上げた。
「あ……、ああ、あ、ああああああああ!!」
『ギガスグランド』は今にも攻撃を繰り出そうとしている。
巨大な右拳を振り上げ、目の前で怯える蟻同然の存在を、叩き潰さんとして!
「はっ、はっ、はっ……ひぃいいいいいいいいいいっっ!! だだ、だ、だああ、だれか!! か、かあ! だ、だれか、助けっ、たすけてくれええええええええええええっ!!」
そんなマッチョスの叫びを『ギガスグランド』が「はいそうですか。では助けてあげますよ」と聞き入れてくれるわけもなく……。
巨大な右拳は、容赦なくマッチョス目掛け振り下ろされたのだった。




