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マッチョスの陰謀

「まずは、謝罪させて頂きたい!!」


 一夜明け、翌日の噴水広場での光景である。簡易台の上に立つ人間の姿を一目見て、俺は事の顛末を理解した。簡易台の上に立っていたのは、もうお分かりだろうが、マッチョスである。


「俺は皆さんに謝罪しなければならない!!」


 多くの人間を集ったかと思えば、マッチョスは何度も何度も頭を下げて謝罪しているではないか。まぁいろいろと問題を起こしていたようなので当然だ。当然だが……。


「なるほどね。そういう感じか」


 俺は建物の影に隠れながらその光景を黙って見ていた。

 観衆からは怒声や小石などが飛び交ったが、マッチョスは甘んじてそれを受けていた。

 当然である。これは全てマッチョスの作戦なのだから。


 俺は昨夜マスターとの会話を終えた後、メシュアをクローズして一個体に戻し話し合った。その結果様々な事が見えてきた。


「金は強しってことか」


 俺は窓枠に両肘を乗せ、夜星を見上げながらそう呟いた。

 星々は中々に奇麗であったが、それとは対照的に、今この街で起きようとしていることは薄汚い陰謀である。もちろん金ががっつりと絡んでいる。


 この案を持ちかけたのはマッチョスで間違いない。Bランクのクエストを失敗してしまったマッチョスは考えたはずだ。どうしたら挽回できるだろうか? どうすればこの失敗を無かったことに出来るだろうか? と。その結果がこれだ。マッチョスは騒ぎを起こしていたが、それは表向きのことでしかない。


 騒ぎを起こすことで、ある行為を隠していたのだ。

 その行為とは買収である。

 この街には数多くの酒場があるが、そういった夜の店には色々な噂が飛び込んでくるものだ。もちろん裏世界と密接に関わっている店も少なくはない。


 俺はメシュアに「なるべく怪しげな酒場に目をつけてくれ」と指示を下していた。酒が入り、周りには身内だけ。手元には大量の金。驕らない人間などいないだろう。


「へっへ、最高の商売だぜ! マッチョスの野郎、マジで最高だ!」


「これでしばらくは美味い酒飲み放題ってな!」


「「はっはっはっはっは!!」」


 まあ、こんな感じの言葉があちらこちらから聞こえてきたという訳だな。

 

 俺が目にしたあの騒ぎも演技だ。マッチョスはブチ切れるフリをしながら(もしかしたら演じているうちに本当にブチ切れていたかもしれないが)交渉を進めていたのである。


「俺と組もう。良い思いができるぞ?」


 類は友を呼ぶと言うが、マッチョスはそれに加えて「悪そうな人間」を見つけるのも上手いのだろう。なんとなくだがそんな気がする。とにもかくにも、マッチョスはこのようにして少しずつ準備を進めてきたという訳だ。


 全ては今日、この舞台を作り出すためである。

 非常に残念で無念だが、おそらくシャルロードもグルだ。今のマッチョスに彼を出し抜くだけの知能も実力も無いだろうから。


「俺はとあるパーティのリーダーを務めているマッチョスという者だ。皆さんも聞いたことくらいはあると思う。「英雄の誉」というパーティを」


 観衆は「英雄の誉」という言葉を聞き少しざわついた。活動の拠点こそ辺鄙な場所だが噂は聞いたことがあるのだろう。


 あのSランクのパーティか?

 そういえば、最近クエストを失敗したって聞いたが?

 ははあ、どうりで見覚えあると思ったら


 ざわめく彼らの中には既に買収されていながらすっとぼけている人間もいるのだろう。この先の展開もなんとなくではあるが察しが付く。


「だが、俺は気付いた!! こんなことをしたって失敗は消えないと! 失敗したのなら、どこかでもう一度成功するしかないと! それを、俺はシャルロードさんから教わった!!」


 はあん。実に用意周到と言うか何というか、あのマッチョスにしては頭を使ったもんだな。脳みそまで筋肉で埋め尽くされてんのか? そう思うことも少なくはなかったが、どうやらそうでもなかったらしい。


「頼む!! 俺に挽回するチャンスをくれ!! かならず『ギガスグランド』を討伐し、取り残された仲間たちも助けて出して見せる!!」


「しかたねぇな」


 観衆の中の一人がそう呟く。もちろん買収された人間、つまりはサクラだろう。実にくだらない猿芝居である。


「失敗は誰にでもある。そうじゃねえのか? 俺はこいつがこれからどう立ち直っていくのか、見届けてみたいけどな」


「俺も。確かに横暴な振る舞いが目立っていたが、なんだかんだで暴力を振るったりはしてなかったしな」


「少しくらい名誉挽回のチャンスやってもいいと思うぜ」


「私もそう思うわ! ここまで反省してるんですもの。みんなで見守りましょう? それに、彼はSランクパーティのリーダなんでしょう?」


「そう、かもしれないな……」


「まあ、実力はあるみたいだし? 反省してるならいんじゃね?」


 茶番だ。茶番ではあるが、実に用意周到だ。

 まるで、普段素行の悪い人間が少し良いことをすると極端に褒められる、みたいな感じになってしまっている。こういう空気を作り出すのもマッチョスの作戦だったのだろう。


 そうとなれば、俺のやることは決まっている。

 こんなクソみたいな策略を成功させてやるほど俺はお人好しじゃない。俺が今手放しで信用できる人間はそれほど多くないが、それでもこの策を潰すことは不可能じゃないだろう。


 全ての陰謀を大衆の下に晒し上げ、二人まとめて叩き潰してやる!

 なんせ70人もの人間を殺したんだ。十二分に、万死に値するだろう。

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