『絶亡の神父』を倒した
『絶亡の神父』は魔法攻撃を多用したが、そのほとんどはメシュアが食べてしまった。食べているという表現は正しくないが、俺目線ではそうとしか見えなかったのだから仕方ない。
「へへ! こんなの なんてことないね!!」
俺はメシュアが『絶亡の神父』の攻撃魔法を無力化している隙に距離を詰め攻撃を仕掛けようと思ったが、その度に魔法攻撃を放たれ牽制されていた。
メシュアは間違いなくよくやってくれている。悔しいが、俺は足手まといになっている。それでも辛抱強く待つしかない。奴に狙いを悟られないために。
本当なら俺の剣撃で倒せるのが一番いい。メシュアの負担も少ないしな。だがそれは難しいだろうと思われた。やはり、俺にはまだ実力が足りない。
そこで俺は本体のメシュア(97%くらい)とミニメシュア(3%くらい)とを分裂させていたのだ。そしてミニメシュア(3%くらい)を常時俺の耳たぶに貼り付けておくことにしたのである。
たったこれだけのことで俺とメシュアはいつでも意思の疎通が可能となる。どんなに分裂しようともメシュアはメシュアだ。
「いいかメシュア。 メシュアは奴の魔法攻撃を無力化するんだ! その間俺は奴に接近して攻撃を試みる。……でも、きっとうまくいかないだろう」
「ええ!? うまくいかないのに こうげきするの!?」
「ああ。 できるだけ時間を稼ぎたい」
「なんだかわからないけれど りょうかいしたぜいっ!」
こうして『絶亡の神父』戦における俺とメシュアの役割が決定した。メシュアは相手の無力化、俺はダメもとで攻撃。その目的は時間稼ぎである。俺は『絶亡の神父』の魔力切れを狙うことにしたのだ。魔法が使えなくなれば、後は俺とメシュアで容易く倒せるだろう。
「ゥウオオオ!! ニクイ ニクイ ニクタラシィッ!!」
『絶亡の神父』は広範囲魔法を繰り出した。メシュアが吸収しきれない程の魔法でゴリ押しするつもりなのだろう。だが、これは逆にチャンスでもある。これだけの大規模な魔法を使うとなれば、相当の魔力を消費するはずだからだ。
「メシュア!! やれるか!?」
「だれに いってんでい! ぼくは ”すごい” すらいむだぜっ!?」
問題なしか。流石だな。
「任せるぞ!」
「おうっ!」
俺は防御をメシュアに一任し、流れ弾ならぬ流れ魔法に備え身を伏せた。メシュアが取りこぼした分の魔法でも、俺に直撃すれば大ダメージは免れないからだ。
「ウオオオ オオオオオオオオッ!!」
「へへっ ひっしに いかくしたって こわくないもんね!」
さっきはあんなに怖がっていたじゃないか! そう言いたくもなったが、それはお互い様だ。こういう時は黙っておくのが一番だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!
極大な魔力の塊はフロア一帯を激しく揺らしながらメシュアに迫ってゆく。
俺は流石に心配になった。確かにメシュアはあの大岩でさえも丸呑みしてしまう程だ。でも、流石にあれは……。
ガブンッ!!
どうやら杞憂だったようだ。
メシュアはなんでもないぜ、とでも言いたげにその魔法をぺろりと平らげてしまったのだった。たったの一口で。
「ごちそうさん!」
流石の『絶亡の神父』も驚きの表情を浮かべている、ように見える。骸骨だから表情は分からないが、魔法を放った時の姿勢のまま固まっているのだ。
「とりあえずっと」
俺が目の前に立つと『絶亡の神父』は「ウワッ!」と声を上げた。俺の接近に気付かなかったらしい。というか、以外と人間らしい驚き方するんだな。
ザシュッ!!
ズバアッ!!!
「グガァ! ……ア!? ガガ!」
『絶亡の神父』は終始距離を取り魔法攻撃に徹していた。そのことからも予測がついていたが、やはり物理的な攻撃には弱いらしい。俺程度の攻撃力でも難なく倒すことができてしまった。
「メシュア、ありがとう! 助かったよ」
「へへん とうぜんさ! ぼくはすごいからね! もちろん タークも!」
「そうだな」
とは言いつつも、俺はどうしても自分が凄いとは思えない。
現状、メシュアに頼りっぱなしだからだ。
もっと修行を積まなければな。
早くダブルサモンを習得して、少しでもメシュアの足を引っ張らずに済むよう精進しよう。
そんな俺の決意は、多分、メシュアには伝わってないだろうな。
「やっぱり おばけなんて いなかった!」
メシュアは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。




