スライムをテイムした
間違って消してしまったので、1話から再投稿します。
もう、ここまでか……。
所持金は100クリスタ。装備品はズタボロ。所持モンスターは『アガド』一匹だけ。
ここ五日間、飲まず食わずで歩き続けてきたこの俺ゾイド・ペンタークであったが、どうやらその人生に――
「ピキャー―ッ!!」
スライムが現れた。
青いゼリー状のかわいらしいモンスターだ。
まさか、スライムに殺されるとは。
ドサッ
俺は倒れた。
もうテイムするだけの余力もない。
戦闘も苦手だし、『アガド』は非戦闘モンスターだ。
「もうどうでもいいや」
ここは『モルの平原』と呼ばれるエリアで、出現モンスターは強くてもEランク。
こんな場所で死んだとなれば、笑い者(orお笑い草)だろうな。
俺を追放したパーティの奴らも涙を流しながら笑い転げることだろう。
「ピッキャーーーッ!!」
俺はぐっと目を閉じた。
覚悟を決め、死を受け入れる。
………………………………あれ?
死んでない。生きている。っていうか、口の中に何かが。
これは、水?
ゴクリ。
俺は口の中に突如現れた水を飲んだ。
うまい。死ぬほどうまい。少しだけ体力が回復したような気がする。
「ピキャア!!」
まさかこのスライムが?
はは、いくらなんでもそれはない。モンスターが人間を助けるだなんて、そんなバカな事。
と思っていたけれど……。
また口の中に何かが放り込まれた。
今度は肉だ!!
「うおおおおおおおっっ!!!」
俺はその肉を骨もろともかみ砕いた。
うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまーーーい!!!
「まさか君が助けてくれたのかっ!?」
「ピキャッ!」
多分、「うん」と言っているのだろう。もしくは「そうだよ」とか。なんとなくだが、肯定の意であるように感じられる。
「まさかスライムに助けられるだなんて」
説明しよう!
スライムとは!
青色の体をしたゼリー状のモンスターで、超絶弱い。こいつに殺されたとかいう奴がいたら俺でも爆笑するレベル。体内にある程度道具や食料をストックできるらしい。今回はその一部を分けてくれたのだろう。正直言って奇跡である。
「ピキャキャッキャッ!!」
なにやら飛び跳ねている。
それから、ぷい、と俺に背を向けてどこかへと向かっていく。
もしかしたら「ついてこい」と言っているのかもしれない。
「待ってくれ~」
俺はそんな希望的観測に従い救世主の後を追いかけていった。
そしてそれは大正解だった。
「これは、湖!」
なんと、そこにはオアシスが存在していたのである!
俺はボロボロになった装備品を全部放り投げ、考えもなしにその湖に飛び込んだ。
自分が金槌であるということを思い出したのは、水面が俺の眼前1㎝くらいに迫ってからだった。
「うおわああああああああああッ!!!」
かくして、俺はスライムに二回も命を救われてしまった。
「ピキャーーーーッ!!!!」
せっかく たすけてやったのに ばかかおまえは!!
そんな風に言われている気がする。
言葉は分からなくとも目つきで怒っているのは伝わる。
俺は素直に謝罪した。それから、放っておいた装備品を洗うことにした。
俺がバシャバシャと汚れを落としていると、後ろで何かが爆ぜる音がした。
振り返った俺の視線に、炎が揺らめいた。
「まさか、乾かすための?」
「ピキャッ!!」
このスライム、都会出身なのだろうか?
俺は火種を見てそう思った。落ち葉や枝などはどこでも手に入るが、その中心部に二本だけマッチ棒が落ちているのだ。もしかしたら誰かに使役されているのか?
……試してみよう。
俺はしがないテイマーだが、スライムくらいなら難なくテイムできる。
もしもこのスライムが既に使役されているならばテイムは失敗するが……。
「テイム!!」
俺が右手をスライムに向けると、スライムは青いビー玉になった。
テイム成功である。
ということは!!
「サモン!!」
俺は満面の笑みでスライムを召喚した。
テイマーの素晴らしいところ。それはテイムしたモンスターと会話ができるようになるということだ。
「うわわっ!」
ビー玉はぐにゃぐにゃとうねり、スライムに戻った。
「あれ? いったいなにが?」
「ああ、我が君よ!」
俺は猛ダッシュでスライムに抱きついた。
そんで頬擦りした。
「我が君よぉおおおおお!! メシアよおおお!! このご恩は一生忘れません!!」
「わわ! はなしてよぅ! くすぐったいよ」
「うわ! ご、ごめんなさい」
「ふう」
スライムは溜息をついて、それからぷるぷると体を震わせた。水を弾く犬みたいだ。
「ぼくはすらいむ。もしかしてきみ、ぼくのことを”ていむ”したの!?」
何故か目をキラキラと光らせながら、スライムがそんなことを聞いてきた。
「うん。もしも嫌なら野生に返せるけど」
「まさか!」
スライムはそう言って首を振った。
首はないけど、多分そんな感じの動作だ。
「ぼくはね、ただできみを たすけたわけじゃない。きみをみて、もしかしたら ”ていまー” かなっておもったんだ」
「それはどうして?」
「きみからもんすたーのにおいがしたのさ」
ああ、アガドのことか。
なるほど。モンスター同士ならそういうのが分かっても確かに不思議じゃない。
「それで、俺にわざとテイムされたのか?」
「そうさ! ぼくはね、ぼうけんがすきなんだ! いつかたびにでたい。そうおもって いきてきた。でもげんじつは ひじょうさ。もんすたーは たびにでられないんだ。とくていの すみかから でられないようになってるんだよ。ある ほうほうをのぞいてね」
そう言ってスライムは自慢げにウインクをしてみせた。
「そのある方法ってのがテイムされるってことなのか?」
「そうさ。きみたちにんげんは しらないかもしれないけどね、
もんすたーのなかには ”ていむ” されることを
ゆめみてるやつらだって すくなくはないんだぜ」
そんなもんなのか。意外である。
「ま、理由はどうでもいいさ。君が命の恩人であることには変わりない。あらためて感謝を述べさせていただくよ。ありがとう」
「うん。それはいいんだけどさ、はだかって ださいよ?」
そう言ってスライムは白い薄布を吐き(?)出した。
「とりあえず ふくがかわくまでは これでがまんしてね」
「ああ。分かったよ。本当にありがとうな」
俺は右手をスライムの頭に乗せた。髪をわしゃわしゃするみたいに手を動かすと、スライムはくすぐったそうに目をつむった。
現在ローファンで
俺だけ【攻略本】が読める件~最弱と嘲笑われた俺は【攻略本】スキルで最強のダンジョン探索者へと成り上がる~
という作品を執筆しています。
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