vsウリボー
─『ジェノの森』
荒らされた畑から少し進んだところにある鬱蒼と茂る森。サニーによると目標の猪が生息しているのは、この辺らしい。
ガサッ。
と、茂みから飛び出して来たのは……。
「ぷぎぃ!」
凶暴な猪……の子供、ウリボーだ。現れたのは1匹……うん。サニーの強さを見るには、ちょうど良い相手だろう。
「サニー、動きを見るから戦ってもらえるかい?」
「ガッテン承知っ! いっくよーー!」
サニーは晴天の宝剣を抜く……のではなく太腿に装着していたダガー二刀を構えて突撃していった。……ダガーと宝剣を切り替えながら戦うスタイルなのだろうか?
とりあえず集中して観戦してみよう。
「ぷぎぃぃー!!」
ウリボーも同じく突進……両者は猛スピードで接近し……。
ドゴォ!
激突。サニーはウリボーの全力突進をモロに食らって、茂みまで吹き飛ばされる……!
「サ、サニー!? だ、大丈夫か!?」
思いっきり頭から流血しているサニーが、茂みから現れる。
「へーき、へーき……私、頑丈だし、慣れてるし……」
「えぇ……、へ、平気には見えないけど……」
「大丈夫っ! こっからが本番っ! おりゃぁぁ!」
気合を入れながら再び突撃を開始するサニー。……まだ宝剣は使わない様だ。
「猪ちゃん! これならどーだぁぁっ!」
素早い跳躍で左右に動きながらウリボーを翻弄する。【軽戦士】の名は伊達じゃない素晴らしい動きだ。ウリボーの突進を封じつつ接近する事に成功している。
「くらえーっ! ダブルスラーッシュ!」
そして二刀のダガーによる斬撃が……!
「ぷぎっ♪」
ウリボーの見事な横ステップで回避されてしまう……心なしか猪ちゃんは、得意げなドヤ顔をしている様に見える。
「……アンド、キーーック!!」
しかし、油断したウリボーの下腹部にサニーのムチッとした脚……失敬、強靭な脚から繰り出される強烈な蹴り上げがヒット。ウリボーは宙を舞い、ひっくり返ったまま地面に落ちた。
「ど、どぉ? あっくん。私のダブルスラッシュ……アンドキックは? す、すごいでしょ……」
いや……アンドキックは絶対、咄嗟に閃いた新技でしょ……。その証拠にサニーの顔は「うわぁ……なんか勢いで蹴ったら倒せたぁ……」みたいな感じで苦笑いしてるし……。
「う、うん……。あっ! サニー! まだ猪は死んで無い! 早くトドメささないと危ないかも!」
「う、うん! オッケー! とりゃぁぁっ!」
サニーはダガーを振り上げながら猛ダッシュする。
「きゃぁあっ!」
ビターン!!
あっ……思いっきり転んだ……。
「うぇ〜ん……転んじゃったよぉ〜……」
メソメソと泣き顔になるサニー……可愛いけど……これは、マズイ展開だ……!
「プギヤァァァァァァ!!!」
ウリボーが激しく鳴き喚く……すると森の奥から地鳴りが聞こえてきた……!
「ブォォォッ!!」
巨大な大猪が木々を薙ぎ倒しながら突撃してきている……!
「サニー! 一旦逃げるぞっ!」
「わ、わかったっ! ひぇぇぇ〜!」
森を逃げ回り……僕達は、ようやく大猪の追撃を振り切った。
♦︎
どうにか逃げた先は、ジェノの森と農村区畑の境になる場所。
はぁはぁ……と肩で息をしながら、サニーに気になる事を聞いてみる。
「なぁ、サニー……もしかして晴天の宝剣は……」
「ゴメンなさい!!」
僕の疑問を言い終わる前に、サニーは頭を下げた。
「ほ、ほんとは……私、宝剣を扱えない……抜く事すら出来ないの……。それに、生まれた時から属性も無いし……」
顔を上げたサニーは涙ぐんで唇を噛み締めていた……。
エピック武器は強力な分、能力が基準に達していなければ使用すら出来ないという事か。
しかも属性が無いなんて……僕と同じじゃないか。
「サニー、聞いてくれ……僕も……」
と、話をしようかという所でサニーは僕の足元に縋り付いてきた……!
「お願い! あっくん! 弱っちい私を捨てないで〜!! 君を守る肉の壁として頑張るし、薬草集めだってするし、料理洗濯肩揉みだってするから、お願い捨てないで〜! あっくんに捨てられたら、私もう行くとこ無いの〜〜!!」
必死の懇願を始めるサニー。い、いや、まず僕の話を最後まで聞いてくれよ!
この光景を……たまたま通りかかったであろう爺さんと、その孫が見ていた。
「おじーちゃん、あれ何してるのー?」
「痴情のもつれ……じゃよ。見ちゃイカン」
「ち、違う! 違うんです!! サ、サニー!! ちょ……僕の話を聞いてくれ! 大丈夫! 君を捨てたりしないから!」
「ふぇ……ほ、ほんと?」
ようやく泣き止んだサニーに、僕は諭すように話した。
「僕もサニーと同じ。属性を持っていない……そして攻撃魔法も回復魔法も使えない。だけど僕は、誰にも負けない補助魔法を使う事が出来るんだ」
「誰にも負けない……補助魔法……」
「サニーの動きは把握した。だから僕の魔法で、君が晴天の宝剣を扱えるようにする」
その言葉を聞いたサニーは、驚いて立ち上がる。
「そ、そんな事が出来るのっ!? す、凄いけど……信じられない……だって他の魔法使いの強化補助でも宝剣を抜く事すら……」
「大丈夫。僕はそこら辺にいる並の術師じゃない。僕を信じてくれ」
僕はサニーの瞳を、真っ直ぐに見て気持ちを伝えた。
「うん……! 私、信じる。あっくんの魔法を……!」
そう言ってくれると、信じていた。
「ブォォォッ!!」
リベンジをしに行く前に、森から大猪が飛び出して来た!
「うわぁぁあっ! おじいちゃぁん!!」
「ひぇぇっ! 腰が抜けたぁ!」
マズイ! 大猪が被害を出す前に、ここで仕留めるしか無い!
僕は素早く印を結び……サニーは晴天の宝剣に手をかけていた。