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落ちる

作者: Zaki


ある夜、俺は、夢を見た。


ーーーーーーー

「ここはどこだ?」

周囲は明るく、でも、その明るさで何も見えない。

その中で立っているようにも、寝転がっているようにも感じる。つまり、重力がどっち向きにかかってるのか分からない。


「あなたに力を授けます」

突然、どこからか声がしたかと思うと、俺の目の前には、白い布をまとった女性が立っていた。その女性は美しく、でも性的な興奮は全く駆り立てられない。その女性の後ろからはまた後光のように光が射しているが、女性の顔は判別できた。どこかで見たような、どこでも見たこと無いような顔をしている。


「どういうことですか?」

俺は訳も分からず、とりあえず質問した。


「あなたは神に選ばれたラッキーな人です。あなたには一日一回、『何かを落とす』力を授けましょう。触れている必要もないし、大きさ・重さも関係ありません。概念でも構いません。何でも望んだものを、落とすことが出来ます。ただし、あなたが何かを落としたことを他の人に知られてしまうと、この能力は失われます。」


「???」


「では、よき人生を。」


ーーーーーーー

ジリリリリ!!!!


目覚ましに、強制的に目を覚まさせられた。


しかし、そうでなくても、あの夢には続きはなく、あの女性はもうそれ以上話してくれてはなかったのではないか、とも思う。




俺は、鈴木ケンジ。悠々自適な高校2年生だ。

家から電車と徒歩合計30分の公立の共学高校に通ってるだけだ。

特に部活もしていない。

受験勉強は急がなくてもまだなんとかなるだろうし、そもそも、将来何をやりたいのかなんて全くイメージが無い。

学校に行っては友達と最新ゲームの話とかに花を咲かせることで日々を過ごしている。


一体、みんなはどうやって将来を考えてるんだ?


ーーーーーーー


「ふー。」

思わず独り言が出た。いかんいかん。

今朝は家で朝食をのんびりと食べすぎたせいで、危うく電車に乗り遅れるところだった。

それにしても、今朝の夢は一体何だったんだろうか?

電車に揺られながら、ふとあの夢のことを思いだす。

夢は普通すぐに忘れてしまうのだが、この夢はインパクトが強く、いくらか頭の中に残ってた。

俺に特殊な能力が与えられた・・・?


ーーーーーーー

木曜日。

3時間目の英語、この先公は鬼畜だ。

1時間で教科書2ページも進みやがる。

しかもそれに関する予習プリントが毎回させてきやがる。

俺のパズ●ラする時間が削られるだろーが。


「鈴木、この問題の答えは?」


しまった。たまたまやってなかった問題を当てられた。


「えー。わかりませんでした。」


とりあえず、取り繕う答えで乗り切る。


「先週の内容をしっかり聞いていたら分かったはずだぞ。」


小言を言われてしまった。

いやいやいや、お前の授業が速すぎて、ノート取るので精一杯なんだってば!


・・・その瞬間、何かが体を通り抜ける感覚がした。


ふと、前を見ると、さっきまで早口だった英語のT先生が急にゆっくり喋りだした・・・。

解説もやたら丁寧だ。クラスの秀才君からしたら退屈しそうなほどだ。俺にはこれぐらいがちょうどいいのだが。


キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴る。

「あれ?今日はここまで?おかしいな・・・」

T先生が戸惑っている。でも構わない。俺はゆっくり授業をして欲しいのだ。


あ、次の4時間目にある、数学の授業はもう少しスピードアップして欲しいんだけどね。


ーーーーーーー

金曜日。

4時間目は体育だ。

今日はバドミントン。S先生最高。バドミントンで遊んでたら1時間終わるんだもんな。正直、毎週これでいいと思う。


「なぁ、鈴木。昨日のT先生だけど、授業のペースが急に落としたよな。先週までそんなことなかったのに。ウチのクラスの成績が悪かったからか?」


俺のクラスメイトであり、次の出席番号である鈴木ハヤトがバドミントンをしながら話しかけてくる。こいつは喋りながらバドミントンするぐらいに運動神経はいい。

俺は危なげながらもなんとか、シャトルを打ち返しつつも返事する。


「いや、それはないんじゃないか?俺らのクラスには、英語の成績が学年トップ20に入るのが3人もいるんだぜ。他のクラスとの進度調整じゃないのか?」


「だってT先生だぜ?今までだったら、進度調整するなら追加プリントさせてくるぐらいのことしてきただろう?」


・・・確かに。


「とりあえず、俺達には嬉しい話だけど・・・ッナ!」


ハヤトのスマッシュが決まる。

悔しいがこいつは、英語の成績も、運動神経も、歌唱力も、ルックスも、いつも俺の少し上をいくのだ。クラスの上位層からしたらドングリの背比べかもしれないが、俺たちレベルにはその順位一つが非常に重要だ。イケてる男子トップ15だけが彼女ができると仮定して、俺たちがボーダー近くにいる、と言えばわかりやすいだろう。


「鈴木、汚ねぇな。話しかけて油断させるとはナ。」


「油断した鈴木が悪いのサ。」


俺たちはお互い笑いあう。そうして1週間で一番楽しいクラスが過ぎていくのだった。


ーーーーーーー

土曜日。

俺は近所の家電量販店に来ていた。

最新のjPh●neを購入するためだ。

なんだかんだ言って、俺は物持ちが良い。今のは3年も使っている。バッテリーが弱ってるので、いい加減に買い換えたいのだが。

お店の開店30分前、定員さんが行列の前の人から順に番号札を配っている。そして、俺の6人前の人のところまで来たところで、頭を下げ始めた。その次の人にも、その次の人に対しても。なんだか嫌な予感がする・・・。


「すみません、入荷分は先にお並び頂いた方々の分で全てになってしまいます。」


深々と頭を下げられて、怒りも何も沸かない。


「あ、大丈夫っス。」


なんだか中途半端な返事になってしまったが、とりあえず状況は理解した。

さて●クドでも寄ってから家に帰ろうかと思ったら、後ろの人達が話しているのが聞こえた。


「んじゃ1つ前の機種にしとこうかな。多分安くなってるだろうし。」

「そうやね。最新の機能はないけど、十分やないの?新型出たとこやから、狙い目かも。」


なるほど、その手があったか!

若干気まずいので、さっきの家電量販店ではなく、ショッピングモールに入ってる携帯ショップによってから帰ることにした・・・。


『本日限り!!jPh●ne第▲機種、表示価格より2万円引き!!』


まじか。これなら、1つ前の機種でもありじゃないか?って値段になってた。

俺は、迷わず、そのjPh●neに機種変更した。


「お客様、ラッキーですね!今日限り、特別にお値段を落としております!」


ーーーーーーー

日曜日。

なんとなくテレビを見ていた。

我が家では、日曜日のお昼ご飯はいつもこのお笑いの生放送を見ながら、というのが家族内の暗黙のルールだ。


お、今日は見慣れない新人が出てるな。だが、イマイチ面白くない。

なんで、このコンビが「次にアツい芸人」なんだか俺には分からない。

芸歴40年のおじいちゃん芸人の40年使い続けている芸の方がずっと面白いのに。

さっきから、ノッポのキレのないボケにデブのテンポ悪いツッコミが非常に悪いハーモニーを醸し出している。オチぐらいはしっかり決めてくれないと、昼食がマズい飯になってしまうではないか。


そう思ったとき、最後のネタが来た。今までのが嘘のような角度の鋭いボケが出て、すかさず完璧なツッコミが決まる。スタジオも大爆笑で、きれいにオチが決まった。


「よくもまー、あそこから落とせたなー。」

姉貴が感情のこもってないようなイントネーションでコメントしていた。


ーーーーーーー

夕方、俺は考えていた。


木曜日、T先生は授業のペースを「落として」いた。

昨日、jPh●neの価格が「落ちて」た。

今日、それまで滑ってた話がしっかりと「落ち」た。


これが、俺の能力なのか?

そういえば、『望んだものを落とす力』とか言ってた気がする。


まぁ飛行機とか間違えて落としてしまってないなら良かった、と一瞬考えた後、この思想自体がヤバいんじゃないか、という考えにたどり着いた。

そして、『一日一回』という条件を思い出した。

幸い、今日の分は使い切っている(はずだ)から今のはノーカウントで大丈夫だろう。


さて、ではこの能力を有益に使う方法はないかと書きなぐってみる。


①ペースを落とす

>これは使える?でも授業が間に合わずに補講されても結局困る。

②価格を落とす

>jPh●ne第▲世代はラッキーだった。なんでも安く買えたら良いのか?でも、ある店の値段が安くなるとみんながそこで買うし、経済がおかしくなるかも。

③話を落とす

>面白いが、本物の芸人は実力が伴っていないと営業に行ったときに意味がないだろうな。

④眠りに落ちる

>眠れない時に使ってみようかな。

⑤受験に落ちる

>いやいや、逆の向きやし。他人を「落と」しても自分が受かるとは限らないし・・・。

⑥順位を落とす

>⑤と同様。周囲を落として自分の順位を上げるのはおかしいし。

⑦親の雷を落とす

>なぜにわざわざ怒られる必要が?

⑧何か現実に物を落とす

>使い道が危険過ぎる。


あれ?この能力、使い道がかなり難しいぞ?


ーーーーーーー

月曜日。

結局、昨日は能力の使い道を考えていたら寝不足になってしまった。

今夜は能力なくてもぐっすり眠れそうだ。なんなら今日の古典の授業中でも余裕だぞ。


「おい、鈴木!」

お昼休み、トイレに行こうと教室を出ようとしたら、同じく鈴木であるハヤトから、声を掛けられた。


「お前、財布落としたぞ?」


「おお、ありがとう。」


そうか、わざとじゃなくても『落とす』んだな。


「あんた達、ホント仲良しよねー。」

右手から古典のA先生が話しかけていた。

この人は俺たちをいつも落として遊んでる。


「先生、違いますよ。鈴木が財布を落としたんで、拾ってあげてただけですよ。」


「あら、そうなのね。鈴木ケンジくん、財布なんて大事なもの落とさないように気を付けなさい。」


「わかりました。ってか、好きで落とさないですよ。」


俺は、改めてトイレに向かった。

財布を落とす、か・・・。

俺は用をたしながら考える。


俺が「財布を落とした」と鈴木に言われて、気付いた。

俺が将来仕事に困ったら、財布を落としては拾うって事をして生きていこうかな。


そう言えば、鈴木もA先生も言ってたな。

『俺が財布を落とした』と。

俺が何かを落としたのを誰かに知られると・・・?


あ、しまった!


最後までお読みいただきましてありがとうございました。

つまらなかったところは、どこがどうつまらないか、教えて頂けると助かります。

別の作品もどうぞよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] きれいなオチ [気になる点] さらにたくさんの「落ちる」が見たかった。 [一言] 最初「この能力でいったい何をするんだろう?」と不思議に思い、 曜日が進むごとに「なるほどなー!」と思いまし…
[良い点] 綺麗に落ちたところ。 [一言] 個人的には誰かと恋に落ちて欲しかった。(あるいは恋に落ちるに気付いて本作のオチになるか)
[良い点]  落ちが良い! [一言]  面白かった。他作も楽しみにしています。
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