プロローグ
息が白くなるほど寒い夜。
私は歩道橋を登っていた――私のお気に入りの場所。
おなじみの緩やかな坂を登りながら辺りを見回す。
今は何もない、春の訪れを待つ花壇。
星座のように光り煌めく街灯。
満月のように辺りを輝き照らすファストフード店。
それを見守るように佇む街路樹。
私たち以外の存在は感じられない。
見上げれば飲み込まれそうなほどの暗闇と、弱弱しく光を放つ星座たち。
地上の輝きに取って代わられたかのように、月は姿を消していた。
息遣いだけが静寂を切り裂く。
私の望みを叶え、私を変えてくれる場所。それがここだ。
望みを抱いた時から、ここだと決まっていた。
塗装もはがれ、錆びて朽ち、いつかは忘れ去られる場所で私は変わる。
私はここで名を刻み、この橋も忘れ去られる運命から解き放たれる。記録は残り続け、いつか誰かの目に留まり、私の物語に気付く者が現れるのを切に願う。
さて、もう頃合いだ。花壇を囲むレンガに上り、彼に問いかける。
彼は私の問いに応えず、黙りこくっている。
彼は私の真意に気付いてくれるだろうか? 不安が脳裏をよぎる。
信じるしかない。私が創りだした彼を。
彼は私の真意に気づいたようだった。静かに私の背後へと近づく。
彼の躊躇が感じられる。一瞬の迷いが彼を押しとどめる。
私は彼を信じ続けた。