侵入
「終わったようね」
「何とか……な。表を見張ってくれ。俺は奴らの衛兵の服に着替える」
そう言うと俺は首を折って殺した衛兵の服をはぎ取って着替えた。
手が殺人の罪に震え、ボタンがうまく外れずに苛立って舌打ちをした。
「変わるわ、あなたは脱いで」
レイリアはそう言うと俺の代わりに衛兵の服を脱がせて、俺に手渡す。
少しサイズが大きいが、違和感を感じるほどではない。
俺は上着に袖を通し、レイリアが次いでズボンを渡す。
下のボロのその下には下着さえなかった。
「この国では下着はないのか?」
そんなことを俺はレイリアに訊いた。
「あるけど、昔のあなたは履かなかったらしいわね」
そう言いながらレイリアは俺の男性器を見て微笑んだ。
こいつは絶対にビッチだ。
ズボンを履き、深呼吸をして、俺はレイリアに言った。
「もう大丈夫だ。落ち着いた」
レイリアは「どういたしまして」とブーツを揃えて俺の足元に置いた。
俺はブーツを履きながら訊いた。
「で、その尖塔はどこにある?」
「ロレイヌ城塞の地図もあなたの記憶にあったはずだけど……簡単な地図を書くわ」
レイリアはそう言うと羊皮紙とペンで地図を書いていった。ここはロレイヌ城塞の東側に位置し、エセルナーダが幽閉されているであろう尖塔は北西にあるらしい。
「ここか。うまいこと行けばいいが……」
「さっきの様子なら多少の戦闘には耐えられそうね。地図が頭にあるわたしが先導する。あなたはわたしに付いてきて」
「わかった」
そう言うとレイリアは城塞外壁に沿って廊下を歩く。俺はどうしようもなく喉が渇き、唾を飲んだ。通りがかる衛兵に怪しまれぬように、堂々と胸を張ってレイリアの後に続く。問題の尖塔前までは無事にたどり着いた。
「ここね。少し待って。使い魔に中を偵察させるから」
レイリアはそう言うと、両手を合わせるようにして短い呪文を唱える。おそらく使い魔を呼んだのだろう。青い炎のようなものに包まれた妖精が両手の中に現れ、レイリアの手から離れて尖塔の頂上の窓に入った。
「いたわ。エセルナーダは無事。少し待って、中の衛兵を調べるから」
「ああ。それより喉が渇いたんだが……」
「ふふ、あなたはエディと違って人間らしいわね。前のあなたはまるてゴーレムのような男で、そんな弱音は吐かなかったわ」
「そいつはどうも」
「これでもあなたを心配してるのよ。これ」
そう言うとレイリアは水筒を差し出す。革袋の飲み口を口につけて喉を潤す。
「中の様子は?」
「一階に衛兵が四人。二階に八人。一階の衛兵はさっき放ったイフリートに始末させるわ。あなたはまっすぐ奥の階段に行って、そこでなら囲まれないから一対一よ」
「八人抜きか」
「さっきの様子なら大丈夫。実際に戦うのは数人でいいわ。サラマンダーを呼んで二階も焼くから」
「そうしてくれると助かる。俺にとってはさっきのが初めての戦闘なんだ」
「大丈夫。判断も適切だったし、あなたはパニックにならなかった。イフリートに先制攻撃させるわ。門から離れて。爆炎で門を吹き飛ばす」
「わかった」
俺は尖塔の門から横に三メートルほど離れ、剣に手を添えて待った。
レイリアは門を挟んで反対側に立ち、大きく頷いて合図を出す。
轟ーーという爆音とともに、尖塔の門が吹き飛んだ。