脱獄
「なに言ってるのよ。エセルナーダを助けるのが先でしょ?」
レイリアと名乗る女は俺のジョークにムッとしながら怒り気味に言った。
「エセルナーダ?」
当然、俺はエセルナーダなんて人間は知らない。
「とにかく、牢を開けて」
俺は鍵束の鍵を片っ端から牢屋の鍵に突っ込む。四本目でその牢屋の鍵は開いた。
このまま俺、単独で単独でここを脱出するのは無理だろう。俺はレイリアに訊いた。
「エセルナーダの居場所に心当たりはあるのか?」
「あの尖塔の上でしょうね。このロレイヌ城塞から出ることも考えないと」
「城塞なのか? ここは」
「エディ、冗談はやめて」
彼女は真顔で言った。俺は本当のことを言っておいた方がいいだろうと判断した。
「レイリアだったか? 君にもそのエセルナーダにも、エディと言う呼ばれ方にも覚えがない。俺は死んだんだ。その時の名前さえ覚えていない」
「本当なの?」
レイリアは怪訝そうに言った。
「本当だ」
そう言いながら俺は自分の肉体をチェックした。
筋骨隆々とした腕、鍛えあげられた腹筋と足の筋肉。いずれも見覚えのない肉体だ。
「まあいいさ。エセルナーダを助けよう。俺の記憶の件は、その時考えよう」
「確かに別人みたいね。以前のあなたはそんなおしゃべりじゃなかったもの」
「君の武器はどうする?」
「わたしはシャーマンなの。両手が自由なら攻撃手段はあなたより多い。そろそろこの手かせを外して欲しいのだけど」
「済まない」
俺は彼女に嵌められた手かせの鍵をまた鍵束から探す。カチャリ、という音と共に彼女の両手が自由になった。
「行きましょう、エディ。あなたが誰であれ、戦えることを期待しているわ」
彼女はそう言い、俺を先導した。