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君の心は曇り、時々幸せ。  作者: シュート
第2章
8/39

果たしてお前は友達か?

 家に帰ると、未来が大きなバッグに着替えなどを詰めて荷造りしていた。

「お、おいおい? ついに兄ちゃんに愛想つかして家出しちゃうのか?」

「バカですか? 愛想なんてとっくに尽きてます。明日から修学旅行なんです」

 どんなに毒舌でも、その表情からはきっとすごく楽しみなんだろうなってのが伝わってきた。

 そんな妹が可愛くて頭をなでてやると、しっかりと腹を蹴られた。

「……うぅ。これが反抗期ってやつか」


 次の日の朝、目が覚めると時間ギリギリだった。

「そうだ。未来は朝早くに出かけてるのか!」

 俺は急いで用意すると、焼いてないパンを一枚だけくわえて慌てて飛び出した。

 パンクした自転車などとうに忘れて全力で走った。

「はぁはぁ。間に合った」

 校門の前で息を切らしていると、色々な所に無数に落ちているチラシに気が付いた。

「なんだこれ……」

 拾い上げてみると、どうやらそれは新聞部によるものらしい。

 そこには細かい内容と共に大きな字で、学園一の大カップル再び! と書かれていた。

 それは同時に俺達の作戦の成功を意味していた。

 してその情報はチラシだけでなく校舎内の掲示板など、あらゆるところに書かれていた。

 俺は藤崎と話そうと急いで教室に向かい、勢いよく扉を開けた。

「ふじさ……」

 クラス中の視線がこちらに向けられる。藤崎の姿は見えない。

 いつもよりみなの視線がキツイ。一体何が……。

 俺は自分の席に移動する。

「なんだよこれ……」

 机には消えそうもないような黒色でかかれた「最低」と「死ね」の文字。椅子にはびっしりと貼られた画びょう。机の中は汚い色の水でいっぱいだ。

 なんだ一体。何が起こっている。どうして藤崎がいない。まさか俺と同じようなことをされたんじゃ……。

 どうしようもなく立ちすくんでいると、教室のドアが開き藤崎が入ってきた。

「ふじさ――」

 言い終わるより先にクラスの全員から歓声が上がった。一体どういうことなのか俺にはさっぱり理解できなかった。

 クラスメイトは次々と叫ぶ。

「よっ! キューピッド!」

「みんなお前についてくよ!」

「よくやった藤崎!」

 俺は言葉が出なかった。

 藤崎は一瞬チラッとこちらを見たかと思うと自分の席に着き、それ以来俺の方へ振り向きもしなかった。

 俺は黙って教室を出た。近くを通りかかった先生に「体調が悪いので早退します」とだけ伝えるとすぐに学校を出た。

 幸い今は家に妹はいない。この時間に家に戻っても何も心配されることはない。

 また逃げるのか? うまくいかない現実に背を向けて。

 どうしようもなく不幸で哀れな人生に正面から向き合う事なんて出来ないよ。

「結局俺達は全て偽物の上で成り立ってる。そういうことだろ? なあ藤崎!!」

 校門の前で死に物狂いで叫んだ。スマホは近くの川に投げ捨てた。 

 その後はあまり覚えていない。気が付いたら自分の部屋にいた。

 そう言えばもうあと一週間ほどで定期テストだ。

 俺は何も考えずただひたすらに勉強をした。

 それから学校を休み続け、途中で未来が帰ってきたがインフルエンザになったと嘘をついて一歩も外へ出なかった。

 そうこうしているうちにテスト初日になった。

「さ、行くか」

 寝不足でクマが出来た目をショボショボさせながら用意を整え、家を出た。

 未来にはお得意の毒舌で心配されたが、押し切って外へ出た。

「勉強の成果を存分に発揮しよう」

 登校中頭の中にはずっと数学の公式や偉人の名前などが流れていた。気が狂いそうだった。今すぐ吐けと言われたら本当に全てを吐けてしまう気がする。

 入りづらい教室のドアをこじ開け、出席番号順の自分の席へ腰を下ろす。

 俺の変貌ぶりに全員が顔をしかめていた。


 テスト一日目、二日目共に余裕で突破した。

 そして三日目の二時間目。数学。

「……この問題は死ぬほど解いた。やはりでやがったか」

 全ての問題を解き終わり、見直しを始めたころ。

 ふと睡魔に襲われ、体勢を崩した際に用紙を床に落としてしまった。

「……すいません」

 すっと手を挙げ、先生が拾いに来るのを待つ。

 しかし、中々気づかれず、やっとのことで先生がやってきて俺の用紙を拾うと、呆れた顔で呟いた。

「しっかりやらないか……」

 ため息とともに机の上に用紙を置いていった。

 一体何のことだろうか。俺はしっかり全ての問題を解いたはず…

 と次の瞬間。俺は目を丸くして驚いた。

「……え?」

 瞬時に眠気が吹き飛ぶほどに、焦った。

 なぜなら全て解いたはずなのに解答用紙は白紙そのものだったからだ。

 寝ぼけていたのか? いやそうじゃない。だってこの用紙には名前すらも書かれていないから。

「……すり替えられた」

 それしか考えられなかった。隣の奴か? 前の奴か? はたまた斜めの前の奴? 

 俺は絶望した。残された時間はあとわずか。覚えていた解答を出来るだけ書いているとチャイムが鳴り試験が終了した。

「やめ!」

 ペンを置く音があちこちから聞こえる。

 先生が全ての生徒の用紙を回収すると、確認を終え定期テストが終了した。

「これで全てのテストは終了した。みなお疲れ様」

 クラス中の人が荷物をまとめて外へと出て行く。

 ふと藤崎と目が合う。あれ以来一度も話をしていない。

 二人の間に会話はなかった。藤崎は気まずそうな顔を見せると目線をずらし、すぐに教室を出て行った。

「おい何してるんだ須藤。教室閉めるから早く出て行ってくれ」

 先生の声に慌てて立ち上がる。既に教室には俺と先生以外の姿はなかった。

 帰り道、まだ正午になったばかりの時間だった。

 俺は近くのラーメン屋にフラフラと立ち入り、カウンター席に座った。

「ご注文はお決まりですか?」

 氷の浮かべられた水と共に現れた店員が後ろから声をかける。

「チャーシュー麺、麺硬めで」

 その時、奥のテーブル席から聞き覚えのある声がする。

「おいそろそろ行くぞ~」

「へいへい」

 気になり確認すると、そこには以前俺と一件あったサッカー部の葉山と早川だった。

「げっ。同じ店にいやがったのか」

 葉山と早川は俺に気づくと、ニヤニヤと気味の悪い表情を浮かべた。

 そして葉山と早川が座っている反対に身を乗り出したかと思うと、何やら小声で話をし始めた。俺のいる場所からは角度的に見えないが、あのテーブルにはもう一人いるのか…?

「あのー。ご注文は以上で?」

 機会を伺っていたように、店員が俺の顔をのぞき込んで呟く。

「あー! すいません! はい、以上で大丈夫です」

 そしてその時葉山たちが席を立った。汁まで無くなったどんぶりがこちらに顔を覗かせている。 

 葉山と早川が先に歩いてきて、俺の肩をポンポンと叩いた。

「頼んだぜ親友」

 早川がそう言った。そして二人が店を出た後、続いて奥から出て来たのは……

「藤崎……てめぇ」

 恐怖に怯えるような顔で出て来た藤崎は俺の前まで来ると、カウンターに一枚の紙を置いてすぐに店を出て行った。

「おい! 藤崎!」

 一枚の紙。ラーメン屋独特の読みづらい字で書かれてはいたが、それは紛れもない伝票だった。

 俺は慌てて追いかけようとするが、出口で名札に店長と書かれた強面のおじさんに止められる。

「お金はしっかり払ってもらわないとな」

 すっかり他の客から注目を浴びてしまった俺は、皆に向けて軽く頭を下げると先ほどまで座っていた所に戻った。

 そして財布の中身を確認すると深いため息がこぼれた。

「すいません。やっぱりチャーシューなしで」

 軽くなった財布をしまい、店を出ると丁度建物の隙間からこぼれた日の光が俺の顔をじりじりと照らした。眩しくて目を逸らしたが、くじけそうな俺の顔に意地悪な太陽がスポットライトを当ててきているように思えて、俺は再び太陽の方へ顔を向けた。

「そろそろバイトでも始めないとかなぁ」

 俺はゆっくりと歩き出した。

 おじさんが嫌いだと言いながらも、おじさんからの仕送りに頼っている自分に昔から嫌気がさしていたのだが、うまく踏ん切りがつかないでいた。そう考えると今はいい機会になったのかななんてそんなことを考えながら。

 俺が家に帰ると、未来はまだ帰ってきていなかった。まあそれもそのはずだ。

 制服を脱ぎ捨てると色々なものを洗い流したくてシャワーを浴びた。

「シャンプー切れてるよ……」

 仕方なく妹用のやつを使うが、フルーツの香りが強くて俺にはあまり合わなかった。俺には薄い石鹸の香り程度がお似合いだ。

 頭を洗っている最中、俺はラーメン屋での出来事を思い返す。思い出しただけで腹立たしいが、一つ引っ掛かっていたのがあの時の藤崎の表情だった。

「あいつ震えてたな」

 俺には分かった。あの時あいつが恐怖に怯えた顔をしていたのが。

 もしかしたら藤崎は、俺と仲良くしすぎたためにいじめの対象になってしまったのだろうか。

「それって俺が悪いんじゃないか……?」

 いやそうなるかもしれないと事前に伝えはした。それでも俺に構ったのはあいつの意思だ。強制じゃない。つまり自業自得だ。

 そうやって自分の気持ちに嘘をつく。俺はフルーツの濃い匂いに耐えられなくなってすかさずお湯で頭を洗い流した。

 藤崎が絡んできてからピタっと俺への攻撃が止まったこと。会長たちを復縁させてからすぐに攻撃が再開したこと。その偶然とはいいがたい事実に当然、俺は気づいていた。

 藤崎を信じていいのか? いやしかし今藤崎が向こうの味方なのも事実だ。

「あー! もー!」

 俺は考えることすらも嫌になり、カラになった俺のシャンプーを投げ飛ばした。

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