表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の心は曇り、時々幸せ。  作者: シュート
第2章
7/39

羽ばたけ!恋のキューピッド!

 俺と藤崎がつるむようになってから不思議と誰も俺にちょっかいをかけなくなった。

 そしてそれからしばらくしてだ。学校中で大ニュースだと騒がれる事件が起こった。

 俺はその辺の情報に弱いので藤崎に詳しい話を聞くと、どうやらこの高校一のカップルだった生徒会長と副会長の二人がつい先日破局したらしい。とのことだった。

「マジかよ! 俺あの二人すげーお似合いだと思ってたんだけどなぁ」

 藤崎があからさまに残念そうにしている。

 俺にはどうでもいい事のように思えたが、今は違う。

 頭の中には二つのことが浮かんでいた。

 一つはこのカップルを破局させたのが相崎の仕業なのではないかということ。

 そしてもう一つは俺達が最初に復縁させるには持ってこいの二人であったこと。

 今の俺にとっては二つ目の方が重要だ。

「これはチャンスかもしれないぞ藤崎」

「どういう事だ?」

「学園一のカップルを復縁させたとなれば……」

「……そうか! やろう! やろうよ須藤!」

 俺以上に乗り気な藤崎。

 気持ちだけでなく体まで乗り出してくる。

「ま、まあ落ち着け。それで会長たちはどうして急に別れたりしたんだろうか」

「うーんなんでだろう」

 かなり社交的な藤崎でさえもそこまでは知らないようだ。

「あの相崎ってやつかなり情報通だからなにか知ってるかもな~」

 あからさまに誘うような態度で藤崎に言うと、「分かった、聞いてくる」とすぐに相崎の元へ走って行った。

 これで素直に答えればほぼ確定だ。

 しかし藤崎は5秒もしないうちに戻ってきた。

「聞いてくれよ須藤~」

 今にも泣きそうな目で俺に寄ってくる。

「あなたに教える義理はないわって冷たい目で言われたんだよぉぉ」

 あの人怖いよぉぉと震える藤崎をなだめる。

「いや。上出来だ」

 これで相崎がほぼ黒なことが分かった。

 失恋した内容を知らなければ、教える義理はないなんてことは言わない。単純に知らないわで終わるはず。

 俺は本当の意味で相崎を敵に回す覚悟をした。

「とりあえず俺は今日会長の後をつける。藤崎は副会長の方を頼む」

「ラジャー!」

「バレないようくれぐれも気を付けるように」

 放課後俺達は各自作戦を実行した。

 生徒会の仕事のため二人が学校を出る時にはもう午後6時を回っていた。

 会長が校門を出て、歩いていくのを見失わない程度でかつバレない距離で追いかける俺。

 バスに乗り、また少し歩く。そこで会長が急に足を止めた。

「ここは……家?」

 会長は門を開けると、扉の前でインターホンを鳴らし鍵が開く音と共に中へと入って行った。

「家に帰っただけかよ!」

 俺がその場で脱力しているとバッグからバイブレーションが微かに聞こえる。

 スマホを取り出すとメールが一件届いていた。

「藤崎からか」

 メールを開くと目がチカチカするほどの顔文字が敷き詰められていた。

「うおっ! なんだこれは」

 下にスクロールしていくと、「大発見!」と綴られた文字を見つけた。

 読み進めていくとどうやら向こうには何か成果があったらしい。

「えっと何々? 副会長は帰りに同じ生徒会の女子たちと喫茶店に入った……? そんな情報はいらない!」

 危うくスマホを投げそうになったが、再びスマホが振動した。

 また藤崎からだ。題名は「これで終わりじゃないよ」だって。殴っていいかこいつ。

 新しいメールを開き、読み進めるとなんと失恋の原因がわかったらしい。

「えっと。女子会盗み聞きの結果、失恋の原因は会長の浮気!?」

 驚いて大声で叫んでしまったが、ここが当の本人である会長の家の前だと気づき、早々にその場から立ち去った。

 「わかった。ありがとう」とだけ返信すると俺は家への帰路につく。

「いやしかし、相崎の仕業であるならばきっと何かのこじつけなはず。それなら会長が浮気をしていないって証明さえできれば……」

 考え事をしているうちに家に着いた。自分のほうではなんの成果もなしにバス代を取られてしまい少々尺だったがこの際良しとしよう。

「ただいま~」

「部活もしてないのに遅いんですね。お腹が減って死にそうです。代わりに死んでください」

 奥から未来の声が聞こえる。きっと俺が帰るまで飯を食べずに待っててくれたのだろう。なんて優しい妹だ。つくづく泣きそうになる。

 そして未来は昨日の事について一切触れなかった。

 食事中も風呂の中でも会長が浮気していない証拠について考えていたが、ついにいい案は生み出されなかった。

 そして朝を迎えいつも通り学校へ向かう。

 校門の手前で藤崎が俺を発見する。手を大きく振りながらこちらに走ってくる。

「おぉい須藤!」

 ただでさえ目立ちたくないのに、校門はさらに人が多いんだから恥ずかしいっていうのに。

「おう。おはよう藤崎」

「いやーまさかあの会長が浮気するとはね~」

「恐らく会長は浮気なんてしてない」

 教室に入り、席に着く。俺と藤崎は元々席が近いため椅子に座ったまま話すことが出来るが、周辺にいた女子たちが嫌な顔をしてその場から立ち去った。まあこれもいつものことだ。

「第二段階としては会長の浮気の真相を知ることだ」

 そう俺が言うと、藤崎はよく見せる笑顔をまたして見せた。その笑顔は藤崎には裏表がないんだって自然とそう思わせた。

「わくわくするな!」

 そして無事四時間目までを終え、時刻は昼休みに突入した。

 俺と藤崎は図書室へと移動する。

「別に教室で食べればいいのに」

 藤崎が膨れっ面でこちらを伺う。

「何かと気まずいんだよ。それに作戦を他の奴らに聞かれたくもないしな」

 二人だけの秘密の作戦だ。と付け足すと、途端に嬉しそうな表情に変化した。何と単純で面白い生き物なんだろうか。

 そして人がいない図書室の奥の椅子に腰を下ろすと食事を始めた。

「それでだ。会長の浮気の真相についてなのだが……」

「いい考えがあるのか??」

 キラキラした表情で藤崎に見つめられるも、昨日半日考えても思いつかなかった難問だ。未だに答えは出ずにいる。

「それが何も思いつかん」

 正直に答えると、藤崎は少しがっかりした感じだったがすぐに「俺も考えるからさ!」と言って黙り込んでしまった。

 俺も再びいい作戦がないものかと考えを巡らせる。

 それにここで成果を出しておかないとまた相崎の手によって新たな犠牲者がでる。いや犠牲者が出た方がありがたいのか……? どちらにせよ今は副会長の怒りが増す前に一刻も早く会長の身の潔白を証明しなくては。

「あー何も思いつかん! 俺直接会長に聞いてくるよ~」

「それはダメだ。もし本当に浮気をしていたとしても嘘をつくに決まってる」

「じゃあどうすればー」

 と、次の瞬間。

 ガラガラと音を立てて図書室の扉が開いた。

 俺は咄嗟の反応でつい身を隠してしまいそうになった。冷静に考えれば別に隠れる必要はない。

「あれは……図書委員の人?」

 前ここに来た時に見た事ある顔だった。

 この図書室はほとんど図書委員が管理しているからいつ出入りしてもおかしくはない。

 続いてもう一人中に入ってくる。こちらについては俺は見たことのない顔だったが……

「……あれは生徒会書記の津軽さんだ!」

 どうやら藤崎のメモリーには存在していたらしい。

 そして二人は小さめな声で会話を始めた。

「おまえあれどう思う」

「あれってなんだよ」

「会長のことだよ。あんなに一途だったのに」

 図書委員の男が津軽に詰め寄る。

 そして津軽がすまし顔で答える。

「あれは100%デマだ。何しろ最近は生徒会の仕事が忙しかったし、副会長と一緒にいないときはほとんど俺が一緒にいたはずだ。その時も副会長の事ばかり話してきて嫌気がさすほどだった」

 俺は咄嗟に本貸し出し用の用紙を手に取り、津軽が言ったことをメモし始めた。

「……おい何してんだ? 須藤」

「あの書記が言ったことをこの学校でバラまくんだ」

 ビラを作ってもいい。掲示板に貼ってもいい。なんなら生徒会室の資料の中に混ぜておいてもいい。

「それならうちの学校、新聞部っていうのがあるぜ」

「それだ!」

 こうして俺達の方針は決まった。

 藤崎はそのコミュニケーション能力を生かして、会長と親しい人に数日かけて事情を聞いた。俺はそれをまとめ上げて情報として成り立つように仕上げた。

 そして丁度一週間後。

「これでいける!」

「それじゃあ俺は今から新聞部行って頼んでくるよ!」

 そう言って藤崎は走って行った。

 さすがに今この学校一のトピックだ。新聞部が食いつかないわけないだろう。

 これで全てがうまくいくはずだった。しかし何かが引っ掛かる。どこかおかしな点がある。どうもスッキリしないのだ。

 ……そう。そうだ。この程度の聞き込みなら誰でもできる。それならなぜ新聞部はそれをしなかった? 果たしてこんなおいしいネタを放っておくほど甘々な部活なのか?

 考え込んでいると、何やら落ち込んだ様子で藤崎が帰ってきた。

「どうした何があった藤崎」

「その件についての記事は発行できないって……」

「どうしてだ!」

「浮気が発覚してからすぐに新聞部は動いたらしいんだけど、会長自らがやってきてこの件については載せないでほしいって頼んだらしい」

「なんでそんなこと……」

 そんなの自分に非があるのを認めているようなもんじゃないか……いや違う。そうじゃない。

 恐らく会長は副会長に自分から気づいてほしかったんじゃないか? お前の愛した男は浮気なんかするやつじゃないって。

「なるほど。それなら副会長の方をどうにかするしかないな」

 俺達はその日の放課後、ファミレスに寄り道した。

「藤崎、声を変換するアプリって使えるか?」

「ダウンロードすればたぶん……」

 俺は思いついた作戦を藤崎に話した。

 藤崎には驚かれたが、嫌な顔は見せなかった。そして明日までに用意してくれるという。

 今日はそれでお開きになった。

 そして次の日の昼休み、俺達はまた例のように図書室に集まっていた。

「言われた通り撮ってきたぞ、女声の台詞を」

 作戦としては、副会長と廊下ですれ違う際に、あたかも女子たちが噂をしているかのような会話をスマホで流す。

 そこで会長は浮気なんかしてないと遠回しに伝えることで副会長に気づかせる。

「今日の放課後、クラスから生徒会室に移動する間を狙おう」

 何かに夢中になるということが久しぶりだったため、午後の授業にはあまり集中できなかった。

 日の出る時間も短くなり、気温も下がってきている放課後にその作戦はスタートした。

「準備はいいか? 藤崎」

「おう」

 女子三人が窓の前の廊下で立ち話をしている。そこを副会長が通る時がねらい目だ。

 藤崎が女子三人の後ろにかろうじて潜入する。

 そして少し早歩きな副会長が前を通りかかるその時。

「今だ……!!」

 俺が合図をすると、藤崎のスマホから気色の悪い女声が流れ出した。

「私昨日さ~会長に告白したんだけど振られちゃったわけ。俺は副会長一筋だからだって。まじありえないんですけど~」

 その瞬間副会長が女子三人の方へ振り返る。女子三人共、皆「私じゃない」という素振を見せる。

 そして副会長は顔を赤くしながら曇らせた表情でその場から早歩きで立ち去った。

 そしてにやにやしながら戻ってきた藤崎。

「おうやってやったぜ!」

 ピースサインをしながら歯を見せて二カッと笑う藤崎。俺もグッドサインで返してやる。

 そしてさっきの気持ち悪い女声を思い出して二人して笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ