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君の心は曇り、時々幸せ。  作者: シュート
第2章
5/39

君は幸せになってもらわないと困る

 周りの外野に注目されながら俺は校門をくぐった。

 教室に行く途中クラスのやつとすれ違った。当然嫌な顔された。「あいつ来たんだ」「最悪」そういった言葉が表情からにじみ出ていた。

 普段以上にするどい視線に、覚悟はしていたもののさすがに少しつらい。

 教室に入るとその視線がクラス全員から向けられた。ただ一人相崎琴葉を除いて。

 しかしすぐに教室はざわざわとした朝特有の雰囲気に戻った。

「ふう。ひとまず何もなさそうだな」

 俺は自分の席へと急いだ。俺の席が一番後ろで本当に良かったと思う。クラスの真ん中の方だったらと思うと鳥肌が立つ。

 机の上には忘れて来た二つのバッグが何の変化もなく置いてあった。これも相崎の配慮なのだろうか。

 今日も割と時間ギリギリの登校だったので席についてすぐに教員が入ってきた。一時間目は数学だったか。

 授業中相崎は一度も俺の方を振り返らなかった。次の時間もその次の時間も。

「退屈だな授業って」

 授業は一通り聞いていたが、どうやらついていけなくなるほど進んではいないようで安心した。

 昼休みは図書室にこもってゆったりと過ごし、久しぶりの午後の授業にもしっかりと励んだ。

「毎日このくらい平穏だったらな」

 帰ろうと廊下に出て下駄箱に向かう道すがら、何かに腕を引っ張られ空き教室へと放り込まれた。

 床に倒れた俺は状況が理解できず周りを見渡す。そしてそこには早川の姿があった。その他にも何人か。それで俺は完全に理解した。

「お前らサッカー部か?」

「うちの後輩と遊んでくれたそうじゃねーか。あ?」

 なるほどこいつら早川の先輩か。先輩にチクるなんて小せぇ奴だな。

「放課後は部活なんじゃないですか? こんなところで油売ってちゃダメでしょ」

「後輩が殴られたんだ。黙ってられるかってんだよ!」

 倒れたままだった俺の腹を思いっきり蹴りやがった。まず俺一人に対して密室で複数人が相手の時点でたちが悪い。

「俺に暴力振ったらお前らも俺と同じじゃねーか」

「黙れ」

 今度は横にいた別の奴に横腹を蹴られた。こういった暴力はちょくちょく受けることはあったから痛みには慣れているが、この感じは長く続きそうだ。

「あー。早く帰って未来の飯が食いてぇ」

 その時教室の窓の外から傾きかけた日差しに照らされて、綺麗に光る黒髪が風に揺れるのが見えた。昔からずっと見てきたんだ。間違えるはずがないあれは相崎だ。

 相崎はこの教室が騒がしいのに気付いたようで、窓からこちらをちらっと見るもそのまま通り過ぎてしまった。

「……俺は一体何を期待してるんだろうな」

「ごちゃごちゃうるせー!」

 それから三十分くらい経っただろうか。

「おい、そろそろ行かねぇとまずいぜ」

 早川を含め、部員たちは外へと出て行った。

 なぜこいつら蹴るばっかりで殴らないのだろうか。そうかサッカー部だからか。そんなことを考えていると、この約三十分間そう長くは感じなかった。

 帰ろうとフラフラ立ち上がると、色んな所が痛かったが幸い顔に傷はないし、大事には至らなそうだ。

「これ以上未来には心配かけられないもんな」

 でもきっと未来は薄々気づいているだろう。事あるごとにパンクする自転車。なくなる弁当箱、新しい鞄……。

 そうして俺は教室を出た。

 これであの時の罪は晴れたかと思うと少しだけ気が楽になった。そろそろ自転車を直そうかなってそんな気分にもなれた。

 いつも通り帰り道を歩いていたが、家の近くまで来てフラフラとしゃがみ込んでしまった。

「思ってた以上に体が限界らしい」

 こんな状態で家に帰ったら確実に未来に心配をかける。そう思った俺は咄嗟にメールを打っていた。

「今日は友達の家に泊まってくる、送信っと」

 返信はすぐに帰ってきた。

 いもしない友達の家にどうやって泊まるんですか。バカですか……か。

「やっぱり未来には何でもお見通しなんだな」

 ほら、今朝うちにいた人の家だよと送信した。俺にはそれが最大限の言い訳だった。

 すると女の子の家に居候ですか。そうですか。死んでくださいと返信が来た。

「なんだかんだオッケーサインってことでいいんだよな」

 俺は近くの公園までゆっくり歩き、中にあるブランコに腰を下ろした。

「今日はここで一夜を明かそうかな……」

 目を閉じると、自然と睡魔に襲われドンドン夢の世界へと吸い込まれていった。

 温かくて……楽しくて……笑顔になれるようなそんな夢を見たような気がする。このまま夢の世界に入れたのならどんなに楽だろうか。

 そして冷たく吹き荒れる風に意識を戻された。

「はっ。寝ちゃってたか」

 気が付くと日が落ちて辺りはすっかり暗くなっていた。夜は意外と冷えるものだな。

 ごめんよ小学生。俺がいてブランコで遊べなかっただろうに。

「滑り台がないんだよなここの公園。どこにいろっていうんだ」

 その時暗闇の向こうからコツコツと靴の鳴る音が聞こえる。

 目を凝らしてそちらの方をよく見るとどうやら誰かがこちらに向かって来ているらしい。

「ねえ少年」

 話しかけられた? 周りには人はいない。きっと俺のことだろう。

「なんでしょう?」

 口調からして恐らく女性の方だと思う、そんでもって俺を少年と呼ぶ辺り年上だろうか。

「家出?」

「随分と直球だな……家出とは少し違います! わけあって今日は家に帰れないんです」

「でも夜はかなり冷えるよ? 家帰れないんだったら友達にでも頼んだらいいじゃん」

「友達……ですか」

「あー分かった。これ以上は何も聞かない。ついてきな」

 きっと俺の口調で友達がいないということを察してくれたのだろう。

 にしてもどうするべきか。知らない人にはついていくなって……いやこの際どうにかなっても別に構わない。

「ま、待ってください! 一体どこに行くんですか」

 声のする方に足を運ぶと、やはり相手は女性だった。背は俺と同じくらいで女性にしては高い方だと思う。いや知らないけども。

「取りあえずついてきな」

 そういうと女性は公園を出て行った。それに続くように俺も公園を後にした。

 女性の後を黙ってついていく時間はそう長くなかった。

「ここ私の家」

 そう言って立ち止まったのはごく普通のアパートの前だった。

「あの、俺をどうする気ですか?」

 誘拐だとか犯罪めいたことも脳裏をよぎったが、自分からついていった手前どうにかできるものでもない。

「あのままじゃ風邪をひく。だから一晩だけうちを使っていい」

 彼女は不愛想な顔でそれだけ言った。

 俺が困ったような表情で俯いていると、彼女は家の鍵を取り出しながら言った。

「そんなに私が信用できない?」

 さっき会ったばかりの人の家に泊まれだなんて、どれだけ単純な人間でも完璧に信用するのは無理があるだろう。ましてや俺なんて人を信じることなど昔から苦手だ。

「でもこのまま外にいれば君は風邪をひく。他に行く当てもない。違うかい?」

 違わない。違わないけどそうじゃない。

 俺は俯いたままの顔を上げることが出来ない。

「分かった。家の中では君から最低5メートルは距離を取る。それでどうかな」

「なぜ……なぜあなたは俺に構うんですか?」

 俺は公園で話しかけられたその時から感じてた疑問を口にする。今の世の中、夜の公園に一人でいる高校生に声をかけてくる人などそうそういない。にも関わらずこの女性は俺に声をかけた。それが不思議でならなかった。

「ただ……放っておけなかった。それだけ」

 口数の少ない人だな。彼女に対する第一印象だった。けど放っておけないという言葉には不思議と重みがあって、俺をなぜか落ち着かせる。

「あなたはきっと昔の私に似ている」

 そんな気がすると付け足す彼女の姿には、微塵も自分を重ねることが出来ないように俺は思えた。

「取りあえず中に入りなさい。すぐに暖房をつけるから」

 彼女は扉の鍵を外すと、俺を中へと促した。

 中も特に変わったところはなかった。電気も消えていて他に人がいる雰囲気はなく、一人暮らしなんだろうなっていうのが何となくわかった。

「そういえばまだ名前を聞いてなかった。私は加瀬優紀。社会人二年目」

 あなたは? と促されたので続けて俺が答える。

「あ、あー。俺は須藤栄一です。高校生です」

「そう。よろしく」

 加瀬さんに続いて中に入ると必要な家具だけ置かれた殺風景な部屋が広がった。

「適当にくつろいでくれて構わないわ。私はお茶でも入れるね」

 奥に行こうとする加瀬さんを俺は呼び止める。

「あの!」

 変わらぬ表情でこちらを振り返る加瀬さん。続きの言葉を待つように俺を見つめている。

「こんな親切にされても困ります! お礼になにもしてあげることがない」

「なぜあなたがそれを気にするの?」

「なぜって……それは」

 俺の目をじっと見つめるその目は活き活きとしていた。

 ああ。この人は強い人だ。これは何かを乗り越えた人にしかできない目だって俺は思った。

 次の瞬間、加瀬さんは俺の方に寄ってくる。家の中では最低5メートル離れるなんていう約束は、その時にはもうすでに忘れてしまっていた。しかし驚くことに心配や疑いの心までもがすっかり消えていた。

「これは私がやりたくてやったこと。感謝、およびお礼をされる筋合いはない」

 加瀬さんの気の強さ、押しの強さに負け、俺は素直に「はい」と頷いてしまった。

 俺が適当な床に腰を下ろすと、少し経った後加瀬さんが俺と対面の位置に来るように座った。二人の間にはガラスでできた綺麗な机が置いてある。そしてその上には二つの麦茶。寒さに配慮したのか氷は入っていない。

「私は高校のころ不登校児だった」

「いきなりですね」

 彼女は俺の前に座ったかと思うと、いきなり喋りだした。

「原因は過度ないじめによる精神的ストレスだ」

 俺は黙って加瀬さんの話を聞いた。過去にどういういじめを受けて来たのか、どう対処してきたのか、その時どう感じたのか。加瀬さんの気持ちも含め様々な事実をただ黙って聞いていた。

「なるほどだから俺と似ているって」

「やっぱりあなたも似たような境遇にいるのね」

 俺は気が付くと自分の現状について話していた。

 始まりの火事のことから入り、なぜ公園にいたのかまで。そしてどうしてぼっちなのか、何をされてきたのかその全てを。

 相崎のことについてはうまくごまかして話しておいた。わざわざ言うほどのことでもないだろう。

「あなたの置かれている状況は分かった」

「ただどうすることも出来ないわけで……」

「突然だけれどちょっといいかしら」

 そういうと加瀬さんは、近くの本棚から一冊の本を取り出した。

「本……ですか?」

 その本の表紙が俺に見えるように差し出すと、作者と書かれた欄を指さした。

「これって……」

「そう。加瀬優紀。私の名前よ」

 差し出された本に確かに加瀬さんの名前が載っている。表情から察するにハッタリではないのだろう。

「私は学校に行かなかった間、本を書いていたの。ただの暇つぶしじゃない。今までの自分の体験をネタにしたバッドエンドの小説」

「嫌な記憶って忘れたいものじゃないですか?」

「もちろん忘れられるのならそうしてしまいたかった。だけど私は本として、物語として残す方に決めた」

 当時不登校になるくらい追い詰められていただろうに、そうした行動に踏み切ることができる勇気は素直に尊敬できるところだと思った。

「私は君を小説のネタにしたい」

 瞬間。その衝撃の発言に、咄嗟のことであるのに俺は耳が赤くなるほど頭に血が上った。

 俺は食い気味で聞き返す。

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だ。もちろんシリアスすぎるところは面白おかしく書き換える。君は嫌がるだろうか」

「面白おかしくだって? 冗談じゃない。俺の苦しみを憎しみを一体なんだと思っていやがる。あなたの場合それで勝ち組になれたかもしれない。だけど俺は? 俺にはなんの利益もない。ただの罰ゲームだ!」

 俺の頭の中には無数の言葉がめぐった。誰だって自分の不幸をネタにされたら嫌だろう。

 やはりこんなところにはいられない。ここを出て行こうと荷物を持った。

「俺は出ます。お世話になりました」

 何が放っておけないだ。結局自分の仕事の糧にしたかっただけじゃないか。

 俺はただ悔しかった。きっと自分との差を見せつけられたからなのだろう。

 バッグを持って外へと向かう背中に、加瀬さんが再び声をかける。

「私はその物語をハッピーエンドにしようと思っている」

 その瞬間俺は持っていたバッグを床に叩きつけた。

「いい加減にしてくれ! ハッピーエンドだって? クラスメイトにただいじめられ続けてめでたしめでたしってか? ふざけるなよ!?」

 俺は顔を真っ赤にして叫んだ。アパートだから他の住民にも聞こえているかもしれない。だけど今はそんなことどうでもよかった。ただただ自分はバカにされているんだと思うと居ても立っても居られなかったのだ。

「結局自分の利益しか考えていないじゃないか!」

「言ったはずだよ。これは私がやりたくてやったことだってね」

 的を射た返しに思わず動揺してしまう。しかし、だからと言って俺の傷をえぐっていい理由にはならない。

「君は何か勘違いをしている」

 こんな時でも冷静な加瀬さんを見て、俺もすこし気を落ち着かせるが、真剣な表情でデタラメなことを言う加瀬さんにさらに腹が立つ。

「もう一度言う。ハッピーエンドにしたい。私の時の小説のようにバッドエンドで書きたくない」

 続けて加瀬さんは言う。

「だから君には幸せになってもらわないと困る」

 幸せに……? 俺が……? 今の今まで心から幸せだと思ったことなどあっただろうか。

「打開するんだ今の状況を」

「そんなこと言われたって無謀な話だろ」

「まずは一人味方を見つけなさい」

 そう言われてすぐに思いついたのは相崎だった。しかしその思考はすぐに振り払った。あいつとの協力関係が終わった今、あいつとやることなんてもうありゃしない。

「そして全てのことに正面から向き合いなさい。今まであなたは不幸を背負って来た。少しくらい幸福を望んだって誰も怒りゃしない。きっと神様だって許してくれるはず」

 正直、大して俺と歳も変わらないくせになにお母さんみたいなことを言っているんだと思った。なぜ説教のようなものを俺が受けているんだかわからない。そんな気持ちはあった。

だけど口数は少ないはずの加瀬さんがこれだけ大胆にしゃべっている。きっとそれほど本気だってことなんだと思う。今の俺にはそれだけで話を聞く理由には十分だった。

「人を助けることをしなさい。偽善だって迷惑だって気持ち悪くたって構わない。どんなに罵られてもただただ人の役に立ちなさい」

「人の役に? 人望の欠片もないのにか」

「一方的で構わない。そうね、まず手始めに崩れた友人関係や恋人関係を直す手助けなんかどうかしら」

 なんて皮肉なものだろうか。大して成果はなかったが、相崎とこれまで行っていたのは恋人関係を崩すこと。けれど次はそれを修復しろという。

 もし相崎がまだあの作戦を行っているとしたら、俺と相崎は敵対することになる。そして万が一相崎を味方につけたとしたら、加瀬さんの忠告を無視することになる。

 どっちにつくとしても俺は必ず相崎か、加瀬さんのどちらかを裏切ることになるという訳だ。

「君なりに色々考えてみてほしい」

 そういうと加瀬さんはキッチンの方へと行ってしまった。

 その後は特に会話をするわけでもなく時が過ぎて行った。

 加瀬さんにいただいた料理はどこか懐かしいような温かい料理だった。

「君はベッドを使うといい」

 そういって指さすのは恐らく普段自分が使っているベッド。加瀬さんは床に布団を敷き始めている。

「そんな悪いですよ」

「君はベッドでは寝れない感じかい?」

「そういうわけではないですけど……」

「たまに妹が泊まりにくるから布団は一人分必ずうちにあるんだ。だから遠慮しないでベッドを使ってくれ。怒らせてしまったせめてものお詫びだ」

 使わせていただいたベッドはふかふかで心地よく、疲れていたこともあってすぐに眠りに落ちてしまった。

 しばらく時間が経った。熟睡していたようだ。

 目を覚まし、壁に掛けられた時計を見ると針は5時半を指していた。

 そして体から痛みが引いていることに気が付き、自分の体を確認すると包帯やら絆創膏やらでしっかりと治療が施されていた。

「随分と早起きなんだね君は」

 声のする方に視線を向けると、朝食を作っている加瀬さんが目に入った。

「おはようございます。この度はお世話になりました」

 美味しそうな匂いと共に朝ごはんが乗せられた皿を運んでくる。

 こんがりと焼けたパンの上に綺麗な目玉焼き。

「さあ少し早いけど朝食にしよう」

 加瀬さんと俺は朝食を終え、たわいもない話を続けた。昨日のことなどなかったかのように。

 そして俺は学校へ行く時間になった。気持ちは憂鬱ではあったが休むわけにもいかない。

「加瀬さん俺、そろそろ行きますね」

「ああ。また気が向いたら来るといい」

 玄関まで続く廊下に向かう際、奥の机に置いてあるパソコンにふと目がいった。そこにはでかでかとこう書かれていた「君の心は曇り、時々」

 この言葉はなんだか未完成のような気もしたが、この時の俺にはその言葉の意味を理解することは出来なかった。

「次に会うときはお互い笑顔だったらいいね」

 感謝と別れの挨拶を告げ、俺はアパートを出る。

 取りあえず最初に自宅に向かい、鍵を開けると学校から持って帰ってきたバッグを放り投げた。

 一つの鞄だけ手に持ち、そして今度こそ学校に向かう。

「しっかりしないとな」

 俺はなんとなくスマホを手に取ると、検索欄に加瀬優紀の文字を走らせていた。

 と次の瞬間俺は目を丸くして驚いた。

「えっ……!?」

 それもそのはずだ。検索して一番上に紹介されていた内容が「ベストセラー作家」だったのだから。

 さらに記事を読み込んでいくと、デビュー作にして今や1000万部を突破している作品「私の心は曇り空」という内容が出て来た。俺はこのタイトルを見てハッと気づいた。昨日見せられた本のタイトルだと。

 恐らくこれが昨日加瀬さんが言っていた、自分を題材にしたバッドエンド小説なのだろう。

「なんだかものすごい人と俺は関わってしまったんだな……」

 今になって知って、虚無感というか喪失感というか――サインでも貰っておけば良かったかなって。

 そうこうしているうちに学校に着いた。

 教室に入ると、いつものようにざわついていた。

 俺を見るみんなの視線も何もかもがいつもと変わらなかった。そして相崎もいつものように黙って座っている。

「ふぅ」

 自分の席に腰を下ろす。今日は何もされていない。

 俺は昼飯を忘れたことに気が付き頭を抱えていると、バッグの中に綺麗に包まれた弁当箱を見つけた。蓋を開けてみると中身までしっかりと詰まっていた。本当にいいお嫁さんになると思う加瀬さんは。


 そしてまた1日がはじまった。

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