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君の心は曇り、時々幸せ。  作者: シュート
第1章
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情けないよ、お兄ちゃん


 ふと目が覚めた。時計を見ると短い方の針が8を少し過ぎたころだった。

「やっば! 遅刻だ」

 俺は体を起こそうとする。しかし体が思うように動かない。無理にでも体を起こそうとするが、神経にうまく伝わらない。

「な、なんだこれ……」

 頭が痛い。同時にクラクラして視界が曇ったように悪い。

 とその時、扉がゆっくりと開く音がした。

「お兄ちゃん。まだ寝てるんですか?」

 未来だ。さっき起きましたと言わんばかりの声で俺を呼んでいる。いやおかしいなこの時間だと未来も遅刻してしまうはず……

「なあ未来お前も遅刻なんじゃないか?」

「私は学校の創立記念日で休みです」

 眠そうな目でこちらに向かってくるのがうっすらと見える。

 にしても、休みなのにわざわざ俺を起こしに来てくれたのか。やっぱり優しいな俺の妹は。

「それで、いつまでも寝てやがることにどう言い訳するんですか?」

「それがだな……体がうまく動かせないんだ。頭も痛いし」

 未来は俺のすぐ近くまで来ると、こちらから見てもすぐわかるくらい目を見開いて驚きの表情を見せた。

「ーーッ! バカですか!? どう見ても熱があります!」

 俺が気の抜けた返事を返すと、未来はじっとしててくださいと俺の額に手を当てた。瞬間、「熱っ」と手を跳ねのけた。

「病院に行きますか? 救急車呼びますか? ここで死にますか?」

「そんな大げさだなぁ。風邪なら一日寝てれば治るさ」

 思い出した。俺は昨日土砂降りの中、傘もささず歩いて帰宅し、事もあろうことか着替えるだけ着替えて、風呂も入らずにそのまま寝てしまったのだ。

 そりゃ風邪ひくよなぁと反省した上で、あんなことがあった次の日に休んでいるんだから、誰に仮病だと思われても仕方ないと思った。

「この熱さなら恐らく三十九度はあります。私も一緒に行くのでタクシーを呼んで病院に行きましょう」

 半ば強引に体を起こされた俺はそのまま未来の肩を借りて、居間まで歩いた。

 未来が電話をかけてから十分も待たずにタクシーは家の前へとやってきた。

「ほら行きますよ。全く私が休みじゃなかったら今頃どうなっていたか」

 ぶつぶつと文句を言いながらも、俺の手を引き優しくタクシーに乗らせてくれた。

「うん。ありがとう未来」

 俺は今作れる最大の笑顔を未来にして見せた。すると未来はプイと窓の方を向いてしまいそれからこちらに顔は見せなかった。

 それから十数分車に揺られて、どうやら病院に着いたみたいだ。一番近くの病院はまだ開いてないらしく、一つ奥の方に来たみたいだ。

 幸いにも平日のこの時間、人数は少なくすぐに診察してもらえた。

「ただの風邪で良かったですね。そのまま死んでくれても構わなかったですが」

「ああ。今日は薬飲んでゆっくりしとく」

 薬をもらうと病院で呼んでもらったタクシーに乗り込み、そのまますぐに家へ帰った。

 気づけば俺は自分のベッドの上にいた。ふと視線を落とすと未来がベッドに頭を預け、居眠りをしていた。

「ずっと見ててくれたんだよな。きっと」

 それにしても薬を二粒ほど飲んだだけで、これほどまで体が落ち着くなんてやっぱり現代の医学は侮れないな。

 俺は起こさないようにそっと未来を自分の部屋へと戻した。

「風邪がうつっても悪いしな」

 俺は自分の部屋へ戻ると汗で汚れた服を着替え、再び布団の中へと戻った。

「俺は何やってるんだろうな」

 クラスメイトに暴力ふるって、授業をサボって、教師たちからの信頼も失って、相崎に八つ当たりして、最愛の妹にまで心配かけちまった。

「ダメ兄貴だ。ダメダメだ」

 また目から涙がこぼれそうになったが、ここはぐっとこらえた。

 そうしているうちに朝になった。今朝はなぜか自然と目が覚めて、気分もいい。どうやら熱は下がったようだ。

「おはようございます。元気になったようですね」

 部屋の扉を五ミリほど開けて未来は言った。

「おかげさまでな」

 俺はシャワーを浴びて、身支度を済ませると朝食を食べに居間へ向かった。

「昨日はほとんど何も食べれてないからな。さすがに腹が減ったぜ」

 俺はそう言って、食卓の席に座ると目の前の料理に歓喜した。

「相変わらずうまそうだな! いただきます!」

「私が作ったのですから当たり前です。では私もいただきます」

「私もいただくわ」

 こんがりと俺の好みに合わせてしっかりと焼かれたパン。半熟の目玉焼きにはやっぱり醤油だよな! 

「うめぇな!」

「ほんと美味しいわね」

「は?」

 さっきから俺と未来しかいないこの部屋に第三者の声が聞こえる。

 俺は朝飯に集中していた視線を上げると、いつも未来が座っているはずの俺の正面に……

「ーーあ、相崎!?」

 俺は思わず椅子からずり落ちてしまった。ヒリヒリと痛む尻を抑えながらこの不可解な状況に戸惑う。

「何でお前が飯食ってるんだよ!」

「心外ね。私だって朝ごはんくらい食べるわ」

「そういうことじゃねぇよ!」

 なぜこの女は人の家で平然と朝飯を口にしているのだろうか。しかも一昨日あんな別れ方をしたというのに。

「あの......さ。この前は悪かったよ。ちょっと言いすぎた」

「別に気にしてないわ。それにあの手の台詞なら言われ慣れてるし」

 いや、あの時の顔は言われ慣れてるって感じじゃなかった。というかいくら言われても慣れるようなものじゃないのかもしれない。

「それでなぜ俺の家で朝飯を食べている?」

 ちょっと食い気味で相崎に質問する。そしてそれに負けない態度で相崎が応じる。

「一昨日のことは私が先生に話して早退ということにしてあげたわ。だから昨日の欠席も話が合うって訳。今日はそのお礼を言われに来たの」

 どや顔で語りながらも食べる手は一向に止めない相崎。わざわざそれをと少し呆れたが、教師に嘘を吹き込んでくれたことは素直にありがたかったので、この際しっかりと感謝しておく。

「まあそのなんだ。ありがとよ」

「ツンデレなの?」

「うるせーよ!」

 そういえば未来はと視線を相崎の隣にずらすと、踏まれたミミズを見るような冷たい目で俺を見つめていた。

 仕方なく俺も席に着き食事を再開させた。こんな状況で味なんて楽しめなかった。あんなことになった相崎と一緒にいるのも正直空気が重いし、実際学校には死ぬほど行きたくないが、これ以上授業に遅れを取るわけにもいかない。

「それで生徒会会議を邪魔する作戦は無事失敗したわけだけど栄一」

「あれはその! それどころじゃなかっただろ?」

 必死になだめる俺。ふと壁に掛けられた時計を覗くと、あんなに時間があったはずなのに、もうかなりギリギリの時刻を回っていた。

「やべぇそろそろ出ないと」

 ちなみにまだ自転車は直っていない。パンクしたままだ。

 先に用意しておいてよかった。俺は再び新しく詰めた第三の鞄を片手に玄関へ向かった。

「じゃ俺行ってくるわ」

 奥の方から「二度と帰ってこなくていいです」と小さく聞こえた。恐らく未来なりのいってらっしゃいだろう。

「待ちなさい。私も行くわ」

 靴を履いて扉を開けようとしたその時、後ろから相崎の声に止められた。

「それもそうか」

 そんなこんなでなぜか俺は相崎と一緒に学校へ向かった。思えば誰かと一緒に登校するのはいつぶりだろう。

 それにしても気まずい。何を話したらいいのかわからない。

 長い間ずーっと沈黙が続く。坂を上っても降りても、会話はない。

 すると、突然相崎が口を開いた。

「栄一」

「は、はい!?」

「なにをそんなに緊張しているの?」

「いやだってさ……」

「私とあなたの協力関係はもう終わったのでしょ? 私は今日最後に感謝されに来ただけ」

「え?」

 丁度その時、校門の前にたどり着いた。

「じゃ」

 とだけ言い残して相崎は先に行ってしまった。

 そういえば一昨日そんなことを言った気がする。もうこの協力関係も終わりにしてくれとかなんとか。

 なぜだろう。解放されたはずなのに何か引っかかる。全然清々しくない。

 俺を協力関係に引き込むのにはあんなに必死だったくせに、こずるい手まで使って俺を利用したのに。手放す時は一瞬なのかよ。

 結局俺のことを道具としか思っていなかったんだろ。

 じゃあなんで。なんでそんな苦しそうな顔をしてるんだよ。相崎。

「なんなんだよ!」

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