湖のほとりの戯れ
死ぬのに気持ちの良い、よく晴れた日のことである。
湖からまっすぐ続く一本の坂道の道中で、僕は湖の湖面をのぞき込んでいた。
湖面から反射した光がラメラメと僕の心を柔らかく絡めとった。
淡いその光は僕の心を弄びころころと坂道を転がせて行った。
気が付くとアスファルトで舗装された道路から、砂利の上に立っていた。
波が心地よく僕を誘っている。
心を浅瀬の波に漂わせ、湖のふちを歩いてみる。
ポチャポチャと音を立てて進むと、白い服を着たやせこけた女と目が合った。
痩せているが美しい女性であった。
胸元に銀色のペンダントで飾っている。
「何をしているのですか」
と女が微笑みかける。
僕は少し考えて「生きたくないのだ」と答えた。
「そう、ですか」
女は少し寂しそうな笑顔をする。
「一緒にいきませんか」
僕は女に笑って見せる。
「もう、いってしまいました」
女は笑って答える。
「そうですか、いいところに、いけましたか?」
「残念ながら、私はダメでした。まだここにいるのですから……」
「それは残念ですね」
「どうしようもないんですか?」
「どうしようもないですね」
僕は肩をすくめる。
「もう一度、もう一度だけよく考えてください。きっとどうでもいいことだと気が付きますよ」
「何も知らないでしょう」
僕は少し語気を強める。
女は私を見て笑った。
ビューッと強い風が吹き僕は目をつぶった。
「いいえ、きっと他人から見ればどうでもいいことですよ」
目を開けるとそこには誰もいなかった。
ただ銀色の錆びたペンダントが落ちているだけであった。