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その三十二 雫、子どもみたいなヤツに苛立つ

 ――そして、丑三つ時。


 ぐうすか仮眠を摂っていた颯太の隣で一向に寝付けなかった雫は、諦めてそのまま出かける支度をした。

 宿の玄関口で「伽羅倶利屋」と大書された手提提灯を巴に手渡されると、ぐったりと肩を落とす。


「なんだいお侍さん、情けないねぇ。男が廃るよ」


「初めから廃れてます」


 気の利いたことを云い返す気力もない。


(丑三つ時にわざわざ行けって……滅茶苦茶だよなあ)


 宿には一応他の客も泊まっているため、なるたけ音を立てないよう雫はそっと部屋を出た。

 別室で休んでいた桜は先に支度をして待っていてくれたのだが、颯太は何時まで経っても起きてくる気配がない。仕舞いに、雫が叩き起こしに行く羽目になった。


 そうして部屋でぐずぐず云っている颯太が着替えている間に、玄関口に戻った雫は、桜が手に持っている何やら不可解なものに気づいた。


「何、これ?」


「巴様が先程、身の守りにと渡してくださいました。南蛮渡来の武具を巴様が改造されたものだそうで御座います。この引き金を引くと、火縄を換えずとも何度でも撃つことが出来るというお話で――」


 巴の趣味で無意味な飾りや謎の紋章が大量に付けられてはいるが――明らかにそれは、回転式拳銃リボルバーであった。雫は青ざめた。


 確かにこの時代既に存在したものかも知れぬが、しかしこれが何なのかもよく判っていないような少女に渡すべきものではない。まして改造済みのものなど心配で仕方がない。


 すると巴はこう云った。


「いやこれはね、改造して、弾が当たると相手が眠るだけにした奴だから。そんな深刻に考えることないって」


 そうして巴は、腰に手を当てからからと笑うばかりである。そう聞かされても雫はまだ、あまりいい気はしなかった。麻酔銃であっても、いざ使うとなれば何が起こるか知れない。


 とは云え、丸腰のまま連れて行くわけにもいかないだろう。


「……まあ、それはなかなか危ないものだから……本当に窮地に陥ったときだけ、撃つようにしようね」


「はい、判りました」


 雫が云い含めると、素直に桜は頷いた。雫は胸を撫で下ろした。


 丁度その時、颯太がふて腐れたような顔で奥から出てきた。雫は尋ねる。


「筆と紙は持ってきた?」


「うん」


「墨は?」


「ある」


「厠には行った?」


「――ちょっと待っててくれ」


 雫の問いかけに言葉少なに応えると、颯太はいそいそと奥に戻っていった。


 自分で云いながらも、まるでおやの会話のようで雫は憮然たる思いにかられる。颯太のあの態度も、眠いからなのか行くのが嫌だからなのか判然としない。兎にも角にも颯太の絵の力は最後の頼りなのだから、きちんと目を覚ましておいてもらわなければ困るのである。


 少し経って颯太は、澄ました顔で帰ってきた。


 かくして三人は巴に見送られ、夜更けの江戸の町へと繰り出した。

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