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その十四 雫、宿をどうかと思う

 ――しかし。


 それにしても、人を負ぶっていくには(いささ)か遠い距離であった。

 加えて陽射(ひざし)も酷く強く、遠方が揺らぐほどに暑い。


 さしもの雫も、はあはあ云いながら呟いた。


「まだ、ですか……?」


「着きました。こちらで御座います」


 (ようや)く桜の示したその建物へ眼を向けると、汗を拭った雫は、訝しげに眉を顰めた。


「何、これ……」


 数刻前に祖父から絵巻を見せられた時と言葉は同じであるが、意味するところはまるで違う。

 感動感激とは無縁の、文字通り理解不能なものが、其処には建っていた。


 一見すると、普通の江戸の建物に過ぎないように見える。

 がしかしすぐに、屋根に幾つも幾つも取り付けられた奇妙な金色の風車に眼が行く。


 風を受けて一つ一つがくるくるぱたぱたと盛大に回っていて、それぞれの下から出ている銅線が、屋内の何処かへと繋がっている様子だった。

 雫は首を傾げた。


(風力発で……いやいやいやそんな馬鹿な)


 屋根の天辺からは金属の棒が伸びており、更にその先には、謎の図形の描かれた旗が悠然とはためいている。

 他にもよく判らない飾りやら動物を象った置物やらが屋根のそこかしこに据え付けられていて、全体としての統一感はあまりなかった。

 どれか一つぐらい、今にも落ちてきそうである。


 他にも用途不明の滑車が壁に取り付けられていたり、『剛力無双』と彫られた大看板が掛かっていたり、法螺貝(ほらがい)が軒先にぶら下がっていたりと不可解な点は数知れない。


 颯太が近くの軒から垂れていた紐を何も考えずに引くと、横の壁に掛かっていた役者絵の表情が急に夜叉のように変わって三人は仰天した。


 また、外から見える処に竹格子の嵌められた枠があって、その中には得体の知れない絡繰細工が置いてあった。通りに向けて展示しているつもりらしい。


 その前には、誇らしげな字でこう書かれた板切れが立てかけてあった。


今月之発明品也こんげつのはつめいひんなり


「ええと、その、評判は――よいようですから」


 呆れ顔の雫から微妙に目を逸らしつつ、何故か申し訳なさそうに桜は弁解した。

 しかし一方で、頻りににこにこしている者もいた。


「うむ、気に入ったぞ、私はこういうのは大好きだ。行くぞ、雫ッ」


 一人頗るご機嫌の颯太は、そう云って迷わず宿の中へと入っていった。桜は困り顔で雫をちらちらと見ながらも、やむを得ず、その後に続く。雫は今月之発明品の前から動けずにいる。


 そしてその背中の()(ひい)(さま)は、すうすうと心地よさげに寝息を立てていた。


   *    *


「おや、ようこそいらっしゃいまし――姫様ッ」


 中に入った雫たちを愛想よく出迎えた番頭は、雫の背中の荷物に気づくなり、いきなりこう叫んだ。

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