それにしても金が欲しい[金木 真織①]
時は2019年。新元号・令和を迎え、アイドル界は大きく変わろうとしている。これまでの枠に当てはまらない『ニューアイドル』の誕生を、業界関係者は待ちわびているのだ。
具体的にどんなアイドルか、と問われても誰も答えることはできない。なぜなら、その問いに答えられる時点で、そのアイドルはこれまでの枠に当てはまってしまっているからだ。それでは駄目だ。それでは数多存在する既存のアイドルたちと、何ら変わらない。
男の名は『竹内 竜一』。456プロダクション所属のプロデューサーで、ニューアイドルの模索に苦労する業界人の1人だ。
2019年・春
456プロダクション 社長室
社長「竹内君、我がプロダクションの新規プロジェクトの進捗はどうだ?」
P「・・・」
社長「・・・その顔を見る限り、思うように進んでいないようだね」
P「はい、申し訳ありません。」
社長「ダイヤの原石は、1人も見つからないのか?」
P「目星をつけた人は何人かいます。こちらです(社長に紙を渡す)」
社長「んっ、『第2回オーディション ピックアップ名簿』・・・」
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[第2回 『プロジェクト・リベリオン』選考オーディション ピックアップ名簿]
No.3 安土原 ともよ:ベンチプレス最高記録・103kg
No.9 プーラ・メリィータ:ロシア人とイタリア人のハーフ
No22 畑野 桐:元ヤン・看護師資格所有
No23 伊集院 まほ美:東大卒・既婚(38歳)
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社長「・・・これだけかね」
P「今の所、これだけです」
社長「・・・」
P「どうでしょう?」
社長「ダァメだねぇ~~~~っっっ!!!(紙を破る)」
P(あ、コピー取ってないのに)
社長「・・・いいか、竹内君。令和を勝ち抜くためには、もっと強烈なアイドルを生み出さなければならない。たしかに、君がピックアップした彼女らも強烈ではある。しかし私が望むのは、やれベンチプレスとか、やれ東大卒のババアだとか、そういうことではないんだ」
社長「あぁぁぁぁぁぁっっっっっ(紙を飲み込む)」
P「・・・」
社長「・・・やはりオーディションだけでは足りない。こちらから動くしかないな、竹内君」
P「と、言いますと?」
社長「街頭で探してくるのだ。『プロジェクト・リベリオン』に相応しいダイヤの原石を・・・!!」
『プロジェクト・リベリオン』とは、業界大手の456プロダクションが手がける改革プロジェクトのこと。これまでの枠に当てはまらない、業界を激震させるようなアイドルユニットを生み出そうとしているのだ。
ユニットのメンバーは全員で3名予定。しかしプロジェクト発足から1ヶ月経っても、『これだ!』と思えるような逸材は1人もおらず、計画は難航していた。だから四郷社長は、オーディションだけに留まらず、こちらから逸材を探しに行くようプロジェクトリーダーの竹内Pに指示したのだ。
『枠に当てはまらない』。言葉は立派だが、結局のところ都合のいい押しつけだ。具体性も何もない言葉の概念を、プロジェクトの命運を、竹内Pの裁量に任せているだけなのだ。
P(1時間ほど街を歩き回っているが、『これだ!』って思うような子が1人も見つからない・・・)
P(声をかけようとすら思わない。逆を言えば、声をかけようと思うような子こそ、プロジェクトにふさわしい逸材なんだろうな・・・)
???「~♪」
P「・・・ん?」
???「ねぇどうして君を思うほど君は離れてしまうんだろう♪(ギターを弾きながら歌う)」
P「・・・」
P(路上で弾き語りとは珍しい。見たところ普通の女子高生のようだけど、ミュージシャンでも目指してるのかな?)
女子高生「ねぇどうして私は君を忘れられないんだろう、Ah~♪」
観客「しみじみ~」
P(自分で作詞作曲した曲か?なかなかいい歌だ。それに声もいい。心に響くような声だ。周囲の観客もしみじみと聴き入っている・・・)
女子高生「『さよなら』は言わないよ 『またね』って君に囁いた♪」
女子高生「・・・ありがとうございました」
観客「んほぉ~っ(スタンディングオベーション)」
P「・・・(拍手)」
P(なかなか素晴らしいパフォーマンスだった。ステージが路上だというのが勿体ないくらいだな・・・)
女子高生「初めまして、金木 真織です。時々ここで弾き語りをしています。よかったらまた聴きにきてください!」
観客「パチパチパチパチ!!(鳴り止まぬ拍手)」
観客「チャリンチャリンチャリン!!(怒濤の投げ銭)」
観客「おろおろおろおろ!!(感動の涙)」
P(多くの観客を魅了している。この子なら、もしかすると・・・)
P(いや違う。たしかにこの子はとてもいい逸材だ。しかし、『プロジェクト・リベリオン』にふさわしい逸材ではない。逸材のベクトルが違う。彼女はアイドルじゃなく、シンガーソングライターのような形で世間を魅了するべきだ・・・)
P(しかし、彼女のパフォーマンスは素晴らしいものだった。それに敬意を表し、投げ銭をさせてもらおうか・・・)
真織「ハァ、割に合わねぇな・・・」
P「っ!?」
真織「だりぃ。今日も600円しか集まらなかった・・・この3倍は欲しいよな実際」
P「・・・な」
P(なんだこの子。観客がいなくなった矢先、投げ銭の結果に満足できずに顔を曇らせている・・・!?まるで、金のためにライブをしているかのような・・・)
真織「あ、なに見てんだよオッサン。投げ銭か?あいにく今は小銭は求めてねぇんだ。投げるんなら札にしてくれ、札」
P(ま、間違いない・・・この子、金のために弾き語りをしていたんだ!)
真織「おい、なに黙ってつっ立ってんだよ。投げ銭しねぇなら帰ってくんね?」
P「・・・」
この時、竹内Pは奇妙な感覚に襲われた。投げ銭の少なさを嘆く横柄な態度に失望したわけでも、26歳なのにオッサン呼ばわりされたことに憤慨するわけでもなく、ただ・・・
P「アイドル、やりませんか?」
彼女をアイドルに勧誘したのだ。