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共に戦う青春青龍  作者: 上名 夏
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63話 カンパネラ 始まる変革の胎動

「でさ、やっぱり近年のUFOの目撃情報が上がった地域には法則性があるって言われてて、私も独自で調べてみると、見つかった地点を線で結ぶとどうやら何かの記号のように――」


 いつもの様に放課後、地下研究所に集まった愛達。ある時は菓子をつまみつつ皆で談笑したり、ある時は一人一人好きな事を黙々とやっていたり。自由気ままなこの時間は、ゆるく流れる平凡な日常の様で、そして皆の大切な時間になっていた。


 その中で愛は、自分の趣味であるオカルト話を熱く語っていた。愛に何かを語らせると大体オカルトの話になる、と言うのもいつもの事で、今日の話題は未確認飛行物体……つまりはUFOの事を捲し立てるかのような早口で語っている。


 そんな語りを聞いているのは、里美と龍二。付き合いの長い幼馴染と恋人と言う親密な間柄の二人だが、いつもオカルト話は話半分と言った様子で聞いていた。


「UFOねぇ……今時は画像編集とかで素人でも好きにでっち上げれる時代だと思うけど」


「だからって全部が偽物って証拠があるわけじゃないんだから! 数多のガセやフェイクの中から、ほんの少しのホンモノを探し求める……それが、現代に生きるオカルトマニアの使命なの!」


 ポテトチップスを食べながら、聞いてはいても興味は無しと言った様子の里美と正反対に、オカルトマニアとしての使命に一人で燃え上がる愛。


「そりゃ全部が偽物かなんて私にはわかんないけどさ……ねぇ、龍二的にどうなの? 愛のオカルト好きって」


 長年の付き合いの里美には慣れたものだが、オカルト話と言うのは興味の無い者が聞かされ続けて、あまり楽しい物でもないだろうと里美は思っていた。そう考えた時、ふと龍二からはそんな類の話を聞いた事が無い事を里美は思い出す。今でこそ恋人関係の二人だが、愛の趣味話をもしかすると我慢して聞いているのではないかと不安になって聞いてみたのだった。


「趣味にケチをつける権利などないさ。俺と愛の間柄でもそれは変わりない。それに、俺はUFOが本当にあってもおかしくないと思うぞ」


「ほら! UFO否定派は少数派だよサトミン! こんなに広ーい宇宙の中に、知的生命体が地球人しか居ないって方がおかしいんだから!」


「そんなもんかぁ……?」


 意外にも乗り気な龍二に気押される里美。無理して聞いていないことには安心ではあったが、龍二ならば、くだらんと一蹴しそうであったものだから意外であった。


「でも意外だねぇ龍二君。まさかオカルトがいける口だとは思いもしなかったよ」


「俺自身がベルゼリアンなどと言う非常識な存在だ。UMAや宇宙人だってそうは変わらんだろう。案外表に出てこないだけで、普通に存在してると思えてしまうんだよ」


「いやまぁ、そう言われちゃうと何も言い返せなくなっちゃうんだけどさ……」


「よーし、そんなオカルト興味津々の龍二君には、初心者向けの……うーん、UFOは置いといてベターなとこでツチノコ探しとか行ってみようか! その昔、この豊金にも目撃情報が複数あるらしくって――」


 里美を余所に、いつの間にかツチノコ探しに行こうかと盛り上がる二人。一見すると、ハイテンションな愛と寡黙な龍二はあまり相性の良くないように見えるものだが、意外にもお似合いのカップルなのだと、里美はつくづく思うのであった。




 三人が談笑をしている同じ部屋で、七恵はただ一人黙々と文庫本を読み続けていた。これは読書が趣味である七恵にとって珍しい事では無く、今日も未だ読み切れていない本を何冊か持ち込んできている。


 流石に読書をするのならば騒がしくしない方が良いかと愛が気を使ったこともあったが、七恵はむしろ一人の時よりも、皆がワイワイ笑っているのをBGMとして聴きながら読む方が楽しいのだと、騒がしい三人に負けぬ集中力で本を読み進めていた。


 そんな七恵の集中を切らしたのは、スマートフォンの着信音。どうやら虎白からチャットアプリで連絡が来たようだ。


「あ、虎白ちゃんから連絡きたよ。今日は体調悪いからここに寄らずに帰るって」


「ん、りょうかーい。お大事にって返信しといて!」


 虎白の欠席の連絡に軽く答える愛。ここに集まることは部活動でも何でもないので特に連絡の必要も無いのだが、一応は連絡を入れようと虎白が気を利かせたのだろう。


「ふーん、虎白って最初に連絡するの七恵なんだ」


「お? 何々サトミン、嫉妬かい?」


「いや、そんなんじゃないって……仲いいんだなって、それだけ。でも虎白の性格なら相性良いのかもね」


 里美が頬杖をつきながら、少々そっけなく答える。少々人当たりの強い後輩と引っ込み思案な友人が仲良くやっていることに安心していたが、どこかそれが先輩風を吹かせるようで、気恥ずかしくなっていたのだ。


「里美ちゃん、それってどういうこと?」


「虎白ってツンツンしてるようで世話焼きなんだなって最近思ってて。ほら、七恵って真面目ではあるけど控えめな感じだし、そこに虎白みたいな引っ張ってくれる人が居ると良いんだなって。」


「たしかに、この前一緒に遊んだ時も手を引いて色んな所に引っ張っていってくれて、すごく頼りになる感じだったよ」


 七恵が優しく微笑みながら、虎白と遊んだ時の思い出を楽しそうに話し出した。無邪気に笑うその姿は見る者全てをほんわかとした気持ちにさせる。


「へー、もう二人で遊ぶほど仲良かったんだ。でも虎白の気持ち分かるなー、七恵ってリードしてあげたくなるような雰囲気だし。意外と私と虎白って性格近いのかも」


「んー? サトミンって世話焼きか?」


「あんたどれだけ私に世話されてきたと思ってんの!」


「ちょ、やめ! ギブ、ギブですギブ!」


 愛に思い切りヘッドロックを決める里美。思えば長期休みの宿題にテスト前の勉強会、勉強以外にもその他の諸々……愛が困った大抵の事は里美に何とかしてもらうのが、この二人の幼馴染の間の定番であった。そのことを棚に置いた発言をするものだから、じゃれあいの範疇と言えど思わず手が出てしまった。別に放って置いてもどうもならないのだが、七恵は思わず声をかける。


「愛ちゃんが可哀そうだし、もうその辺にしてあげて? 何か手伝ってほしいことがあるなら私がやるから」


「あ、まーた七恵は愛を甘やかす……」


 結局は助ける事になろうとも、一応飴と鞭を使い分ける里美と違い、七恵は愛に甘い節目がある。優しい一面が見える面とも言えるが、愛は特に勉強面でその優しさに乗っかるばかりだ。里美が駄目ならこっちだと、得意げに愛は話し出した。


「よーし、次のテスト前はナナちゃんのとこでみっちり個人レッスンと行きますか!」


「みっちり!? 個人レッスン!? な、何を教えればいいのかな!?」


 愛が変な事をいう物だから、何を想像したのか七恵が顔を赤らめて慌てだす。愛の頭の中では、みっちりも個人レッスンも特に意味は無いのだが。


「そもそも自分の力で何とかする気はないのか愛……」


 三人娘がかしましくも楽しくはしゃぐ横で、龍二がポツリと言葉をこぼす。今日も変わらぬいつも通りのこの時間。楽しくはあるが、本来ならば虎白も居るはずなのにと皆は心の隅で寂しがりながらも、元気になったらまた来てくれれば良いとも思っていた。


 いつかまた必ずやってくる。そんな日々の事を思いながら。




「……以上が、先日投入された旧人類殺戮特化型のデータです」


 暗い地下深く、愛達がいる場所と同じような研究所でありながら、どこか陰鬱な印象を与えるような地下研究室に、蠢く怪しき黒い影。


 人の命を食らう恐ろしき怪物、ベルゼリアン。その中でも上位に君臨するドラキュラとジャックが、豪壮たる玉座に鎮座する何者かに跪き、旧人類殺戮特化型なるジャックによって遺伝子を改造され作られた新たなベルゼリアンのデータを開示していた。


 旧人類特化型とは、先日街を襲った者。本来生きるために人を喰らうベルゼリアンの常識を覆し、巨大な針を全方位にまき散らすことで人と街を破壊しつくし、宗玄達を苦しめた。


「闇雲な殺し方で全くもって美しくない、しかも最後にはあの四人に倒されたときた。意味あるのかい? こいつ」


「黙れ! 最後に倒されはしたが、一定の成果は上げることが出来た、量産し都市に同時投入すれば甚大な被害を与えることが出来るはずだ!」


 一人の人間にターゲットをさだめ、華麗に血を奪う。自分の人殺しの方法に美学を感じているドラキュラは、殺す事だけに特化したやり方に不満を感じ、嫌味をこぼす。それに対し、怒りを露にするジャック。反りの合わない二人の口論が始まろうとしていた時に、玉座に座っている者が制止をする。


「よい、B03。 君の作り出したモルモットの性能は理解している。他の研究を含め期待しているよ」


「……はっ、ありがたきお言葉」


 二人は制止をされるとすぐさまに口論を止め、再度膝をつき跪いた。到底人の命令など受ける事のないだろう二人だが、ジャックをB03とナンバーで呼ぶ玉座に座りし者が、ただ一言発するだけで感じられる静かに威圧してくるプレッシャーに思わず従ってしまう。


 王座に鎮座するベルゼリアンの頂点に立つ男のその容姿は、顔や胴体は普通の人間の様でありながら、四肢の先には青く変色し異形と化した大きな手足。血管は浮き出し呼吸と共に脈動し、その先から生える爪は触れるだけで全てが切断されそうなほどの鋭さだ。


「殺戮に特化したタイプは他にも開発を進めています。これならば計画を最終フェイズに進めることも可能かと」


「わかっている。その為にお前たちをこの場に呼んだのだ。旧人類の数を減らし、管理し、我々新たな種が生きる糧とする。その為に未だに地下に眠る同胞を全て目覚めさせる計画を始めよう」


 闇に蠢く者たちの計画が、遂に次の段階にまで進んでいく。研究により歪な進化を迎えた者、未だに眠るおびただしい数の敵……龍二達が知らない中で、世界を包む闇の変革は、既に始まっていた。


「おお、遂に! 遂に我らが悲願が叶うのですね! 王よ、同胞が散っていく中でこの時に同座出来たことに感謝いたします!」


「旧人類がこの星を闊歩できなくなる時も近い……か」


 今この地上に住まう人類を支配する悲願に近づく事を歓喜の声で祝うジャックに、状況が進む事にニヤリとほくそ笑むドラキュラ。王と呼ばれた玉座に座りし者は、禍々しい瘴気を身に纏わせながら、人類の支配を宣言する。


「そうだ、我々が新たなるこの星の支配者となる時は近い。我が力の全てを持ってこの世を破壊し、愚かなる旧人類を屈服させる」


「ならば! このジャック、この度の戦に全てを捧げる事を盟約いたします! 私の研究、その成果の全てを!」


 王を崇拝するジャックが悦喜に浸り、己の全てを賭けてこの変革に力尽くす事を誓う。自らも戦いの場に身を置きながら、研究と称し他の者の運命を捻じ曲げ続けるジャック。その成果を王に見せようと、指を鳴らし、研究の犠牲となったモルモットを呼び出す。少しすると、狭く暗い研究所の中に一人の少女が姿を現した。


「お呼びでしょうか我が主。この白虎、主様の御心のままに」


 長い白髪をたなびかせながらその場に現れた小柄な少女の正体、それは朝霧 虎白だった。白虎として龍二達と共に戦いながらも、ジャックによって人食いの衝動を抑えるための薬で手綱を握られていた少女が今、ベルゼリアンの側に付いたのだ。


 ダブルクロスが始まりを告げる。こちらに付くのが虎白の本心では無かったとしても、仲間や友人を裏切ったことに変わりはない。あの楽しかった日々は最早もう戻ることが無かった。

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