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共に戦う青春青龍  作者: 上名 夏
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58話 フォース 黒鉄

 明日も学校だというのに寝付けない。昼寝をしたわけでも、体調が悪いわけでも無いのになぜだか全く瞼が重くならない、そんな時たまある憂鬱な時間に、里美はスマートフォンを眺めていた。


 当然こんな深夜には友人達も寝ていてSNSで会話もできない。仕方なく日付が変わっている事を確認して、愛と七恵と一緒にやっているソーシャルゲームのログインボーナスをもらっておく。深夜にゲームをしっかりとやるつもりはないのですぐにアプリを閉じる。それでもまだ息抜きしたくなった里美は、インターネットブラウザを開いてネットニュースを見ることにする。


 ゴシップ紛いな芸能人の不倫やら熱愛報道やら、政治家の失言や疑惑。そんなニュースを中身も見ずに見流して、里美がタップしたのは、世間を未だに連日騒がせるベルゼリアン関連のニュースだ。タイトルは「新設対特殊生物部隊、さっそく大手柄」 街に現れたベルゼリアンを駆除する警察の様子が写真に残されていた。


 急増するベルゼリアンの起こす事件に、今まで警察は対特殊生物鎮圧用スーツ、『玄武』を使用することで対応してきた。しかし、多発する事件に対し玄武の限界が見えてきた。各地で起こる事件に対し玄武のスーツは一点物。いつどこで起こるかわからない事件に対し後手後手の対応を取ることになり、しかも戦闘力も青龍、朱雀、白虎に比べると力不足。


 そこで警察が繰り出した新たな手は、玄武の性能そのままでの量産を諦め、各部性能をデチューンした簡易版スーツ『黒鉄甲くろてっこう』の量産であった。警察が過剰な武力を持つことを良しとしない風潮が事件の多発で弱まったことをきっかけに結成された、通称 黒鉄くろがね部隊は集団戦法を取り、同じ黒鉄甲や玄武と連携することで圧倒的な力を発揮した。


 その性能と玄武とは違い誰でも使える事から生産は加速。原告の警察に配備され、今では大きなイベントの警備や人通りの多い街中など、日常の中に紛れ込むほどの存在になっていた。


 里美が開いた記事にも、ベルゼリアンを鎮圧し終え、帰還しようとしている黒鉄部隊と、それを率いていた玄武の姿が写人に収めされている。


「宗玄さん、頑張ってるんだな」


 写真の中の玄武を見ると、そっとスマートフォンの電源を切ってベッドの横の棚の上に置いた。最近の里美は、ネットでもテレビでも何故だか玄武のニュースに目が行ってしまう。ただ単に報道される回数が多いからではない、玄武に窮地を救われてからというもの、心のどこかでいつも宗玄の顔が浮かび、気になって仕方がないのだ。


 顔も声も知っているのに会おうと思っても会えない相手に夢中になるのは些か不思議な気持ちで、アイドルのファンはこんな気分なのかと想像してしまう。


「また会え……る訳無いよね」


 天井に向かってポツリと呟いたあと、瞳を閉じる。眠気は未だに来なくとも、目だけは瞑っておこう。



「……あの、聞いてます? 宗玄さん、宗玄さん!」


「んおっ!? は、ハイ聞いてますとも!」


 夢と現実の間に迷い込んだ宗玄の意識を、同僚である兵藤マリの声が連れ戻す。目を見開いて寝てませんよとアピールする宗玄だが、それは熟練の刑事である柏木仁に通用するわけがなく。


「いいや、その顔は聞いてねぇな。居眠りなら昼休みにしとけ」


「す、すいません……いやでも、昨日は深夜に三件出動したんですよ!? 徹夜ですよ徹夜! そりゃ眠くもなるもんですよ」


 バツの悪い顔をしながら頭を掻く宗玄。しかし昨日は連続で玄武を装着し出動をしたせいで睡眠時間も取れず、体も疲労困憊。無理をして仕事をしている状態であった。そんな宗玄に少しは同情の表情を浮かべる仁であったが、マリはそうはいかないようだった。


「……いやいや、玄武が出動したってことはオペレーター役の私も徹夜ですからね! ホント、しっかりしてくださいよ!」


「ほんとすいません……でも、黒鉄部隊なんてのも出来て、これから少しは楽できるとは思いますけどね」


 いくら厳しい仕事を覚悟をして警察に入ったとはいえ、命を懸けた戦いを毎日のように続ける重労働。少しは愚痴も言いたくなるような状況だが、希望がないわけではない。今まで玄武一人に集中していた仕事も、黒鉄部隊が出来たことで少しは分散されるだろうと思っていた。しかしその希望を打ち砕く言葉がマリの口から。


「そうはいかないって話を今してたんですよ? まったく……」


「どういう事です!? 何か事件が増える前触れでも……?」

 

「そうじゃねぇよ。玄武の出動方針が変わるって話だったろうが」


 そんな話は知らなかったと間抜けな顔を見せる宗玄。やはり話を聞いていなかったのかと、その姿に呆れながらマリが詳細を話す。


「これから駆除は黒鉄甲に任せて、玄武は現在人に味方している特殊生物の確保に注力せよ。とのことです。あの捜査対象達の力は桁違いですから、玄武が適任と判断された様で」


「あのスカイタワーで会った三人の事ですか……会った感じは悪い奴らには見えないんですけどね……」


 玄武が捕獲を命じられたのは、青龍、朱雀、白虎の三人だ。これまでは市民に害を加えないことから捜査対象としておきながらもその存在を黙認していた警察上部だったが、黒鉄甲の開発をきっかけに不確定要素を排除しようと考えたのだ。


 強力な三者を確保するには性能がグレードダウンされている黒鉄甲では力不足。その為玄武が任務に就くことになったのだが、宗玄は余り乗り気ではないようで。そんなところに仁が喝を入れる。


「悪い奴かどうかはわからんくても、馬鹿デカい重火器を持ってる奴や化け物なんて警察が放っといて良い訳がねぇだろ! 向こうが正義のヒーロー気取ってようがとっ捕まえて大人しくしてもらうしか無い」


「そう……ですよね。市民の安全の為にも、あんな得体の知れない戦力がこの国にあっちゃいけないんだ。よし、僕パトロール行ってきます!」


 両手で頬を叩き、眠気を完全に飛ばした宗玄は勢いよく部屋から出ていった。警察としての職務を全うするために、男は現場に走る。


「パトロールって……どこに行くつもりなんですかね」


「さぁな、まぁやる気がある分には良いんじゃねぇか?」


 猪突猛進、やる気に満ち溢れる一人の刑事を見送るその仲間たち。この国の平和は今日も彼らによって守られている。






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