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共に戦う青春青龍  作者: 上名 夏
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51話 リユニオン サヨナラなんて言わないで

 その日の愛の行動は、これ以上ない無鉄砲そのものだった。龍二が愛達の元から離れてから数週間。暇があればどこに行ってしまったのかと皆で探し続けるも、手がかりの一つも掴めていない日々が続いていた。その日は虎白が探すことになっていたのだが、愛は我慢できずに家を飛び出し、龍二探しに出かけていたのだった。


「はぁ……ツチノコとかUFOは探したことあるけど、人ってどう見つければ良いんだろ」


 オカルト好きの愛にとってUMA探しは日常茶飯事だが、家出した人間を探した事など一度も無い。当てもなく探しているうちにドンドンと空も暗くなっていき、底無しに見えていた愛のスタミナも切れてくる。


「ネットカフェ……漫画喫茶……いや、あれって高校生がこんな時間に入れるかな?」


 星が見えてきた空を見上げながら、暗くなったのだから寝床を探すだろうと泊まれそうな場所を考える。


「駅とか公園に寝泊りしてる人いるよね……まさか仲間入りしてたりして……!」


 突発的に出ていった龍二がそれほどの金額を持っているとも思えず、路上生活をしているのでは無いかと予想する愛。寒空の下段ボールを掛け布団の代わりにして寝ているのを想像すると、こちらまで身が縮こまるような思いだ。


「とりあえず探してみるかぁ、公園」


 悩んでいる暇が勿体無いと、まずはここから近い公園を回ってみる事にしようとする愛。こうなれば自分の納得いくまでとことん探してやろうと気合を入れ直すのであった。




「頃合かな。二人とも、居るかい?」


「は、こちらに」


 暗い路地裏の奥に、ベルゼリアンのドラキュラの姿がある。赤い瞳を光らせながら、指を鳴らして何者かを呼ぶ。一見誰も居ないように見える闇の中から、二つの人影が飛び出してきた。人影と言ってもその形は特徴的だ。顔と胸までは美しい人間の形をしているも、本来人の手のある部分が翼となり、下半身も鳥の体をしている。その姿は伝説上の生き物、ハルピュイアその物。


「青くも熟した果実が、君達に食べられるのを待っている。摘んできてくれるかな」


「私達めに青龍を……よろしいのですか」


 飛び出てきた一人のハルピュイアが驚きながら答える。ベルゼリアン達にとっても青龍達は目の敵であり、殺すことができれば地位も大きく上がる。


「ああ、奴にはちょっとイタズラしすぎてね、身も心もボロボロだ。僕が手を下すまでもない……手柄を君達姉妹に立てさせてあげようかと思ってね」


「それは……! ありがたき幸せであります、我が主」


 思っても居なかった大手柄を上げるチャンスを貰えたことに、深々と礼をするハルピュイア。しかし、二人の間で意見は一致していないようであった。


「お姉さま、話が本当である証拠もありません。少々危険な話かと……」


「何を言うのアエロ、主が私たちを騙しているとでも言うの?」


「ですが! 私はこいつを主とは認めてはいません!」


 ヒートアップしてきた二人の口論。その間に割って入りそっとたしなめるドラキュラ。


「やめろオキュペテ、アエロ、姉妹は仲良くしなければいけない……そうだろう?」


「……申し訳ありません。見苦しい所をお見せしました」


 またも大きく頭を下げるオキュペテ、それを見て渋々ながらもアエロも頭を下げる。


「それに、君たちの翼なら撤退だって容易だろう? 青龍が弱ってるって話が嘘なら逃げてしまえばいい。更に空から不意打ちも出来るとなれば、他の敵対分子が援軍に来る可能性も防げる……これほどうってつけの任務なんて他にあるかい? アエロ」


 路地の壁に脱力したようにもたれ掛かりながら、薄ら笑いで話を続けるドラキュラ。アエロはそれが気に入らないが、今言われたのは確かに事実だ。


「わかりました、その任務お受けします。ですが話が嘘ならば、あなたを同胞を陥れようとした反逆者として……無理矢理奪ったお姉さまの心。取り返しに参ります」


「おいおい、随分な言い草だ。無理矢理なんてそんなそんな」


 ドラキュラに深い愛慕と忠誠を誓うベルゼリアン、オキュペテ。しかし、その愛情はドラキュラの持つ魅了の能力によって操られているだけだと妹であるアエロは思っていた。鋭い目でドラキュラを睨みつけるアエロ。


「ふざけるなッ! お前が血を吸ってお姉さまを!」


 敵意を向けられているのに、まだ余裕を見せつけるような態度を見せられ、声を荒げるアエロ。自らが尊敬する姉の心を弄ぶ相手への敵対心は並々ではない。羽根が逆立つように威嚇するも、ドラキュラは微塵も動揺を見せない。


「ははは、確かに血は吸った。でもね、僕の魅了の能力はこんな程度じゃない。本気を出せば……君を物言わぬ人形にだってできるんだよ」


 流し目であしらう様に話していたドラキュラが、紅い目をアエロにまっすぐ向け、じっと見つめる。唇の奥から鋭い歯を覗かせながら。その瞳の奥に未だ眠る残忍さと狂気、それに引き込まれないようにすぐに目を背けて、アエロは翼を広げ、飛びながら去っていった。


「も、申し訳ありません! アエロが、無礼を……!」


 妹の無礼を何度も何度も頭を下げて謝罪するオキュペテ。いつまでも続けようとするそれをドラキュラが制止して。


「良いんだよ、やる気になってるならそれで、ね」


 笑っている筈なのに何処か不気味な顔を浮かべながら空を見上げた。雲一つない快晴、空には数々の煌めきが見える。その中で一番大きくきらめく今宵の月は、満月だ。




 時刻はもうすっかり夜。女子高校生ならそろそろ帰らなければ親が不安になる頃合いにも、愛は龍二を探し続けていた。近場の駅に公園。宿がない人間が夜に集まりそうな所は手当たり次第に探してみるも、龍二の姿はなく、今は住宅街を歩いている。残念には違いないのだが、探しても見つからないなどここ数日連続しての事なので、今日はこれくらいにしようと帰路に着こうとしたとき、持っていたスマートフォンが振動してメッセージが届いた事を知らせる。


「……虎白ちゃんだ」


 連絡の主、虎白はどちらかというと実際にあって話す方が多く、こうやってスマートフォンで連絡を取るなど珍しい事だ。とぼとぼと帰っていた足を止め、その内容を確認する。


「嘘ぉ!?」


 思わず近隣の迷惑を考えずに大声を出してしまった愛。その内容は龍二を見つけたとのことだった。驚いている内にもメッセージは続いていき、見つけた公園の名前も送られてきて、愛は興奮を抑えられずにその公園に向かって走り出した。言葉少なめに別れた龍二と、せめてもう一度話をしたい。伝えたいこともある。たとえそれで戻ってくることが無くても、それでも……! 重くなっていた足が急に軽くなり、誰よりも早く走れるような感覚になりながら愛は走る。


 狭い豊金、愛の全力疾走もあって目的の公園への道のりを短時間で走り抜けた。愛は首を左右に大きく回して辺りを探してみるも、龍二の姿は見つからない。既に違う所に行ってしまったかと思いながら、手を膝に置き息を切らすも、愛はやっともう一度会えるかもしれないと期待しながら中々会えないもどかしさで今すぐにでも走り出したい気持ちでいっぱいだった。


 公園を一回りして確認しようとする前に、改めて他にメッセージが届いていないか確認しようとする愛。ポケットからスマートフォンを取り出して確認すると一件メッセージが来ているのがわかった。また虎白から送られてきたのだと思いきや、そうではなかった。送り主は……龍二だ。




「龍二君!」


 メッセージを受け、龍二のいる場所に一直線に走ってきた愛が、龍二の胸に飛び込んで来る。余りの勢いに後ろによろめきながらも、龍二は受け止めるが、はっと何かに気づいて距離を離す。


「い、今はやめろ!」


「なんでさ!」


「何日も着替えてないせいでその……臭いんだ!」


 どこか恥ずかしそうにする龍二だが、思い悩んでいたのが嘘のようにコミカルな表情を浮かべていることに愛は安堵する。それと同時に笑いもこみあげてきた。


「……アハハ、そんなの気にしないって! あたしも走ってきたからお相子!」


「相子では無いだろう! こっちは何日分のだと思っているんだ!」


 グイグイ距離を縮める愛にたじたじの龍二。学校でのいつもの様子は、何日離れても変わりない。そんな事に嬉しさも感じながらも、それは今まで離れていた寂しさも溢れ出させてきて。


「ほんと、何日分寂しい思いさせてるのさ」


「それは……すまなかった」


 目を逸らして申し訳なさそうにする龍二。抱きついてくる愛に何も抵抗しなかった。


「怖い思いを沢山して、その度に龍二君が助けてくれて、そんな所が確かに私は好きだった」


 龍二の胸の中で、愛が今まで溜まりに溜まった思いをぶつける。龍二も微かに震えるその体が凍えないようにしっかりと抱きしめながら、その思いを受け止めた。


「でもね、それだけじゃないの。サトミン、ナナちゃん、虎白ちゃん……そして龍二君。みんなで休みに遊びに行ったり、放課後にみんなで集まってみんなそれぞれ好きなことしたり、そんな時間がもっと好き。誰一人欠けてもいけない、私の青春なの! 力なんて関係ない、龍二君が龍二君なだけで、私にはあなたが必要なんだよ! だから……だから!」


「もう私から離れないで! さよならなんて、言わないでよぉ……!」


 龍二の胸の中で泣き崩れる愛。服に付く涙の冷たさが、どれだけ愛を悲しませていたのかを感じさせる。龍二の中の愛だけではなく、愛の中の龍二の存在も今まで過ごしてきた日々の中で大きくなっていたのだと感じながら、龍二はこれ以上涙を流して欲しくはないと、さらに強く抱きしめた。柔らかな肌の感触が何故だか心を落ち着けさせる。


「愛、こんな何もかも投げ出すような俺でも、この少しの間に色んな人から心配され、励まされた。自分自身の存在理由を力だけだと思っていたが、嬉しいことにどうやらそうでは無いらしい。だから俺は決めた。たとえ力が使えなくなろうとも、俺は俺に出来る事をする。それが君の側に居ることならば……俺は決して離れない。ずっと一緒だ」


 冷たい風邪はいまだに吹き続ける。その中で二人は抱き合いながら、お互いを温めあうのであった。側にいてくれる温もりを、しっかりと確かめあう。今まで離れ離れになっていた寂しさで生まれた心の空白を埋めるように求めあいながら。


「うん。ずっと、ずっと一緒! だって私は龍二君が大好きなんだから!」


 一度離れ、お互いを心の中だけで思うしかできなかった。それを乗り越えた二人の距離は、もはや離れる前よりも密接な関係に変わっていた。互いの体がまた離れることなど考えられないほどに。だがそれでも、嫌な点が無いわけでもなく。


「ねぇ」


「なんだ」


「やっぱりちょっと臭い」


「……帰ったら風呂に入るよ」




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