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共に戦う青春青龍  作者: 上名 夏
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24話 アウェイキング 目覚めよ白虎

「あれ以来、玄武の出動要請無いですね」


「あんな強力な装備の出番が無いのは良いことですよ、兵藤さん」


 兵藤ひょうどう マリが仕事のパソコンに向かいながら、宗玄に声をかける。特殊生物駆除課は初陣である巨大クモの騒ぎを見事に解決したことで、世間からの信頼を獲得することが出来た。しかしその後人の多い市街地にベルゼリアンが出現することも無く、玄武がその姿を公に現す機会は訪れない。


「それでもこっちに仕事はある。捜索願いが出された行方不明者と特殊生物との関連性が無いかとかな」


「まったく、ほとんど人探し課ですよね、ここ」


 パソコンは若者に任せると紙の資料を整理している老いた禿頭の男性、柏木(かしわぎ (じんも会話に入る、実際的が現れない限り、特殊生物駆除課の仕事は特殊生物との関連性がある事件の調査となる。戦闘とは全く違う地道な調査。玄武の装備の開発や整備が得意であるマリが愚痴をこぼした。


「まぁまぁ、これも人助けですから。ところで、僕が気になってた子が見つかったんですって?」


 龍二がマリをなだめると、以前から引っかかっていた一件が解決したらしい事を仁に確認する。


「あぁ、あの朝霧 虎白って子な、怪我もなく見つかったらしい。多感な時期にはよくありがちな家出だろう」


 宗玄が気になっていた行方不明者は、朝霧あさぎり 虎白こはくと言う女子高生。巨大クモの騒動があった日に一人で遊びに出かけた後に連絡が取れなくなり、両親から捜索願が出ていた。


「そうなんですかね……連絡が取れなかった時間が蜘蛛騒動の時間と一致、現場の街にもよく遊びに来ていたとなれば、十中八九何かあると思ったんですが」


「なんかあったら困るだろうが、せっかくの初陣にケチが付かなかったんだから素直に喜んどけよ」


 考え込む宗玄に対し、ぶっきらぼうに仁は言う。確かに何も無く見つかったなら喜ばしい事だが、宋玄の所には未だに何か引っかかっていた。




「なんなの、何なのよこれ――ッ」


 豊金高校の裏山で草木が生い茂る中を、背後から追ってくる何者かの追跡から逃れるために少女が懸命に走る。同年代の女性と比べても小さな体に、染めているわけでもないのに絹のような白く変化した長い髪を靡かせながら、前方の草木を手でかぎ分けて進むと、棘が刺さり血が流れる、だがその程度の事で足を止める訳には行かない。捕まれば命は無いと直感的に理解していたからだ。


「どうしてこんな目にばっか!」


 逃げる少女、朝霧 虎白に命の危機が迫るのは今回だけでは無かった。気晴らしにショッピングに行けば巨大なクモに捕まり、気づけば知らぬ路地に倒れていた。それをきっかけに身の回りにはおかしな出来事が次々と起こり始める。だが今回ばかりは逃げ切れる気がしない。打開策を走りながら考える。通っている高校の裏山だからと言って、いつまでも逃げられる保証はないのだ。奴を振り切るのも他に助けを求めるのも無理そうだ、まともな解決法が無理ならば、確実ではないが自分がやるしか――!


 体力や腕っぷしに自信があるわけではない、虎白が立ち向かおうともえる根拠は一つあった。それは最初の命の危機である、クモに捕まり知らない路地に倒れていた頃から虎白に起きていた体への異変である。


 路地で目覚めた虎白は、自らの体に驚愕する。体中に白い動物の毛がビッシリと生え、手には鋭い爪が伸びている。後ろには白と黒の縞が有る尻尾が生えて自由に動かせるし、頭にはネコ科に生えているような耳が有ってピコピコと動かせる。仮装大会の途中で倒れたりでもしたのかと思ったが、脱ぐことは出来ず、これが衣装などではなく自分の体なのだと理解させられる。気を失う前に何があったのか思い出そうとする。確か買い物の途中で周りが騒がしくなって、訳の分からない内にクモの糸に捕まった。もがいても取れない糸に苦戦している内に、銀髪の男が近づいてきて……記憶はそこで途絶える。あの男に何かされたのだろうか。


 結局その日は人に見つかってはまずいと思い身を隠している間に元の体に戻れたが髪が白くなってしまった。今あの時の姿にもう一度なれたなら、追跡してくる相手を追い払えるのでは無いか?虎白はあの時の力がみなぎる感覚を思い出す。


 やるぞと覚悟を決めて足を止めた後に振り返ると追跡者の姿がやっとわかる。奇しくも同じくネコ科の特徴を持つ顔、爪、耳。だが虎白のそれとは違って黄色い毛並みが逆立っている。


 あの姿から人間に戻れたのなら、逆に今の姿から変わることだってできるはずだ。虎白は命を狙っている相手を目の前にあえて目を瞑って集中する。変われ、変わるんだ。誰かに仕組まれたとはいえ、力を手に入れたなら今使えなくてどうする! 体に鈍痛が走る。だが……動ける! 閉じていた目を見開いてまずは目の前に居る敵に拳を闇雲に連続で叩きこむ。喧嘩もしたことのない虎白の滅茶苦茶で力の入っていない攻撃、だが変化した体のおかげで中々の威力を持っているらしく。敵はのけぞりながら後ろに跳ぶ。


「うわぁぁぁ!」


 虎白は一度に決めなければやられると思い追撃を仕掛けようと敵を追いかける。追われる側から追う側に変わり、一気に強気になる。相手に馬乗りになり、打撃の連続。相手の息の根が止まるまでこの拳を叩きこみ続ける。死ね、死んでくれ。体に貰った鈍痛が未だに痛む。今でこそ動けてはいるが、次の攻撃を喰らって無事な根拠は何処にもない。右の拳で殴った後に左で、そしてまた右。止まる事の無い連撃で決着をつけるつもり、だったのだが


「ぐあぁぁっ!」


 敵の牙が虎白の右腕に食い込む。打撃の隙を狙われて噛みつかれたのだ。劈くような悲鳴を上げて敵の上から振り落とされる。その一撃でまた形勢が逆転する。牙を抜かぬまま鋭い爪で虎白の体が切り刻まれる。反撃の機会など狙う余裕が無い、ただその身に降りかかる痛みに耐える事しかできない。白い白虎の毛が赤く染まる。終わりだ。暴力とは縁が無い自分としては、良い所まで行ったんだけどな、そんな事を考えると力が抜けてくる。


「ドラゴニックレック――ッ!」


 一方的になった戦いの場に、第三者の叫び声が聞こえる。放たれた火の玉は敵を穿ち、その瞬間に虎白への攻撃がピタリと止まる。敵の目から光が無くなった。虎白は体が全く動かせないが視線だけで攻撃の主を確認する。ゆっくりと、刃をこちらに向けて歩いてくる……恐らく龍。だが二足歩行で人のようにも見える。ああ、助かったと思ったが結局は化け物に殺される運命か。意識の途切れる間に虎白はそんなことを考えていた。




 その日もいつもと同じく愛達と研究所に集合していた龍二。だが敵が近くに居る事を知らせる頭痛で、愛達を置いて山の中に狩りをしに行った。この山に潜むベルゼリアンは狩りきったと思っていた龍二はまさか自分が居る事が敵にバレたかなどと考えを巡らせていると、ベルゼリアン同士が戦っている様子を目にする。一方的に攻撃を受け、残虐なまでの攻撃をする虎と、虫の息の白虎。見たことが無い同士討ちに戸惑いながらも、これもチャンスだとまだ体力の有る方に向かって一撃必殺の技を繰り出す。さて、あとは弱っている方に止めを刺そうと思っていると、白虎が少女の姿に戻るのを目にした。


「こいつも人の姿に変わるタイプか」


 怪物の姿をしているならともかく、少女に止めを刺すのはやり辛いと思っていると、少女の周りに中身が散乱した学生鞄に目が行った。


「うちの高校の生徒か……?」


 校章が付いた鞄を見て同じ豊金高校の生徒だと気づく龍二。自分は知らない生徒だが、もしかしたら愛達が知っているかもしれない。そう思い気を失った虎白を抱きかかえ研究所に戻った。




「お帰り龍二くん! ってその子誰? 怪我してるじゃん」


 虎白を抱き抱えたまま、愛達のいる研究所に帰ってきた龍二。それをここで息を潜めて待っていた愛が待ってましたとばかりに笑顔で出迎えてくる。先ほどまでやっていたオセロの続きをしようと誘いにきていたのだが、やはり話題は連れてきた少女に移っていく。


「同じ豊金の生徒だが詳しくはわからん、奴らと戦って傷ついている所を保護した」


「戦って…ってどういう事?」


 愛の後ろに付いてきた七恵は、襲われてではなく戦ってと言葉を選んだ事に疑問を投げかける。


「こいつも俺のように人の姿から変化するらしい。奴らについて何か知っているかもしれん。彼女も力を持っているのならいずれ意識を取り戻すだろう」


「たしかにその鞄は豊金のだよね……でも知らない子だなぁ。学年違うのかも」


 愛が虎白の顔を覗き込むも、その顔に覚えはない。七恵はどうかと問うかのように視線を七恵に向けるが、首を横に降られた。


「とりあえず、ベッドのある部屋に運んであげようよ。手当てもしてあげなきゃだし」


 七恵は以前自分も倒れて寝る事になった仮眠室の存在を思い出して、龍二を先導する。


「ではそこに寝かせておく。だがまだ奴がこちらの敵の可能性もある。俺が監視しておくから近づかないでくれ」


「えー、一緒に看病しちゃ駄目?」


 そう聞いてくる愛にきっぱりとダメだと言い切る龍二。いくら弱っているとはいえ、同じ部屋に居る時に暴れられては安全は保障できない。


「でも私、この子悪い子じゃないと思うよ。人を襲うのが目的で学生になってるなら、学校で暴れれば良いのにしてないし、それにベルゼリアンに襲われてた理由がわかんないじゃん。前の龍二くんみたいにひっそり戦ってる子なのかもよ?」


 「確かにその可能性もある。だが危害を加えてこない根拠があるわけでもない。すまんは今日は解散にしよう」


 愛が彼女も仲間かもしれないと諭すも、それでも龍二は危険な目には合わせられないと解散することを提案した。


「新しい友達が出来るかもって思ったのになー、まぁそういうなら仕方ないか」


 全く知らない怪物になれる人間をまた友達にしたがっていたが、龍二の言葉を聞いて残念がりながら、やむなく付いてくるのを諦めた。


 世間に広まったベルゼリアンの存在、警察の玄武、そして今は眠る白虎。龍二達の周りが予想だにしない方向に動き出し始める。新たな混迷の物語が少しずつ始まろうとしていた。

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