第1話 始まりの出会い
日差しが強く、肌が焼けるように感じる。八月中旬の今、異常な程の暑さが日本中で蔓延していた。俺は暑いのは嫌いじゃない。だけどこれは流石に暑すぎだ。それに、この肌に刺さるような日差しはどうしても好きになれない。
「あっついなぁ。」
思わず呟いてみるが、返ってくるのは蝉の鳴く声と子どもたちの遊び声だけだ。止めどなく流れ落ちる汗は、頰を伝って線を引く。
「何でこないんだよ……。」
こんな猛暑日に公園に呼び出しして、当の本人はなかなか姿を現さないとは一体どういう事なんだ。貧乏揺りが、公園のベンチをゆさゆさと揺するたびに、少し軋む感覚が脚に伝わる。
猛暑日の昼間から公園のベンチに座る高校生の名前は京充騎。
俺は、それなりに友達もいるからぼっちでも無いければ、学校の成績も普通。どっからどう見ても普通の男子高校生である、この少年は、平和な世界で平和に暮らしているのだ。
それが何故か、友人に公園に呼び出されたのでここに来たが、あいつに理由を聞いても逸らされるから何故呼ばれたかもわからないまま、ただひたすら待つのみなのだ。
暑いとはいえ、休日であるため、家族連れやカップルが多い。子供の笑い声や、蝉の大合唱が絶えずに続いている。それが今は少し耳障りだ。
「喉乾いたな。何か買うか…」
自販機でスポーツドリンクを買う為に、よいしょと小さく呟いて立ち上がる。
――それと同時に異変に気付いた。
「っ――!?」
声にならない驚きが、体の中で駆け巡り、その驚きが薄れる前に自分の目や耳を疑う。俺は、夢でも見てるのか。
いや、嘘だろ。だって、人が全員消える何てどう考えてもおかしいだろ。さっきまでそこに居たはずの家族やカップルは何処へ、あのうるさい程の蝉の声は何処に行った?
いきなりの水を打ったような静けさに、耳鳴りがする。自分の荒い呼吸音だけが、俺だけはここに居るという実感を持たせる。
「落ち着け……落ち着け俺。大丈夫だ、何とかなる。……はず。」
よし、一旦状況を整理して見よう。まず、俺は友人に呼び出され公園に来た。そんで、喉が渇いたんで飲み物を買おうと立ち上がったら、俺以外の人や蝉が居なくなっていた。
「何がどうなっている。ん?これは何だ?」
俺の立っている場所の周りに、光の輪の様なものが浮かびあがる。嫌な予感がしたが、抵抗も出来ずに徐々に強まる光に包まれる。
「ま、眩しい。目が……!!」
流石に目も耐えられなくなり、閉じたところで浮遊感に襲われた。
「うわあああああ!?」
落ちる感覚により、今まで立っていた足場の消失を悟る。何処までも落ちていく様で、何も考えられない。
「ぐへぇっ。」
ドンッという鈍い音と同時に、突然現れた地面に叩きつけられる。そのまま、少し跳ね返りごろごろと転がる。
「痛ったーー!!くそ痛え!」
バッと飛び起きて、体の様子を確認する。
「擦り傷と打撲ぐらいか?骨も大丈夫みたいだし。よく無事だったな。この光の輪から出て来たのか?地面との距離が近くで良かった。」
隣に光の弱くなった輪がある。どうやら俺はここから出て来たようだ。辺りを見回すと、広い草原のようだ。草が生えている事で多少の衝撃は吸収されたらしい。
周りには建物や、背の高い木が少なく、空が普段の二倍くらい大きく見えて、空は広いという事を改めて実感した。こんなに空は広いだなとか感じて胸が打たれる。こんな事、いつもは感じる事もないし、考えた事も無かったな。都会育ちだからか、それとも興味が無かったのか。今この瞬間の景色に心を打たれるという事らそういう事なんだろう。
それは置いておくとして、何故こんな事になったのか。それはアレだな……異世界召喚というやつだな。きっとそうに違いない。
最近流行りの異世界召喚物か。そして、召喚された俺はこの物語の主人公。
ふむ。
つまり、ここで俺の無双生活が始まるという事に期待を持っても良いわけだ。
《――――!》
「何だ?」
頭上で、何かの声が聞こえ、空を見上げると、巨大な竜が上空を飛んでいた。遥か遠くを舞う姿は、ここから見れば小さいが、近くで見ればかなりの大きさだろう。
「うおお。凄い……!憧れの竜!!……実際に見ると上手く言葉に出来ないな。」
そうだ、竜がいるってことはファンタジー物だ。俺の好きなジャンルだ。眠っていた厨二心が蘇ってくるようだ。竜は俺に気付いているのか、いないのかわからないがとにかく、襲ってくる様子はない。
さて、ずっとこうしているわけにもいかないので、そろそろ村人でも探すとしよう。広い草原の向こうには、どんな異世界が待っているのか。
道はわからんから感で進む。小一時間は歩いたところで、
「……ん?」
小さな小屋が見えた。
行ってみると木造の建物で、随分古い様子だ。これは、家なのか小屋なのか。とりあえず軽くノックをしてみるが返事はないので、軋む音を立てて小さな扉を開けてみる。
「誰もいないか……」
中には、机にランタン、ベッドにキッチン。生活感も出てるし、確かに人が住んでいそうだ。留守中に入ったのはまずかったかな。周辺探索する事にしよう。
家を出て少し歩いてみると、小さな川が見えそこに人影があるので近づいてみると、そこには、少女がいた。
「あの……」
声を掛けてみると、少女がこちらの存在に気付いて振り返る。ゆっくりと振り返る彼女を見て小さく息を呑む。
少女は、今まで見たことのないような美貌を持っていた。彼女の、金色の長い髪は川の光を浴びて黄金に輝き、風を感じて揺れ、華奢な体を包むドレスもふわりと広がり風になびく。驚いた様に見開く彼女の瞳は宝石をそのままはめ込んだような美しい翠玉の宝石のような澄んだエメラルドグリーンの色をしていた。