両親の話
そういえば、うちの父親と母親の話。
どちらも俺が通っている魔法学校の卒業生で、国のお役所勤めをしている。
どんな仕事かは詳しくは知らないけど、どちらも激務で俺たちの面倒を見る時間的余裕なんてなかったらしい。
それで二人は、勤務先の近くに住居を借りて住むことになった。
代わりに見てくれたのが祖母だ。俺のお手製自慢の卵焼きの作り方を伝授してくれたのはもちろん、身の回りのことはほとんどやってくれた。
だから寂しいとかなかった。
寂しいと思ったのが祖母が亡くなったときだった。
二年前の秋……。
たくさんの人がお別れに来てくれて、こんなにも慕われてたんだなって思いとそんな祖母に大事にされていたんだなって思いが交錯した。
そこには両親もいたけど、当然悲しんでいたけど、葬儀が終わればまた仕事場近くの家へ戻っていった。
不仲なわけではない。
いないのは慣れているし。
ただもう少し思い出とかあったら良かった。
それに両親からしたら、俺は優しい子に育ったけど能力のない人間と思われているだろう。
本当に力を引き継いだのが姉と妹――特にリノンだと。
ぶっちゃけて言えば、リノンは高等科の一年と同等の魔力を秘めている。飛び級なんて制度があったら妹は中等科を飛ばしているだろうな。
まあ、俺は祖母から散々教えられた思いやりをというのを大事にしているから、自分が平均値だというのを恥じてはいない。
アウルが俺にやたら絡んでくるのも、両親の影響が多少なりともある。国家の責務のある役職に就いているだけに、どこか憧憬の思いがあるようだ。
そりゃ、最初は俺に気を遣っていたアウルだけど、凡才な人間だと知ると次第にその態度は横暴になっていった。
――魔力の総数によってランク付けされ、それが将来と決めると思って疑わない、厄介な考えを持っていた。
いつか言っていたアウルの、
「リウトはいずれ能力が開花すると思うよ」
って励ましも特段気にはしてないから、お節介に感じていた。
それよりもだ、友達から借りた『モフモフ転生』って本が面白くて、早く続きを読まないといけない。
主人公が宿屋で休んでるときに、獣人の女の子がモフモフのおしりをくっつけたところで寝落ちしてしまったのだ。
一応、健全な男子だ。その後の展開が気になる。
現実ではそういう経験どころか誰かと付き合ったこともない。クラスでいいなって子もいるけど、どうもいい人止まりの俺の存在。
さすがにこれは、冴えない自分を呪ってしまう。
ページをめくったところで……本を閉じた。
やっぱり今日はやめておこう。
明日は早めに起床しようと思った。最近、起きるのが遅かったのも本に夢中になっていたせいもあるからな。
魔窟に潜り込むためには、しっかり朝に食べておかないと。
***
翌日――早めに起こしてくれと頼んでおくべきだったと後悔した。
いつも通りの寝坊。
今日も朝飯を自分で作らなきゃ……いや、今日はそんな時間もねぇと、あくびとともに頭をかきむしる。
階段を下りて、洗面台に行くと桶に汲んできた冷水をバシャッと顔に叩きつける。
若干、寝癖が気になるが撫でる程度に直しておく。後は、姉と妹の「いってきまーす」の声を聞きながらパンをかじっていた。
まだ、ぼーっとする。
いかん、早く俺も行かないとな。
***
朝礼が始まると、女教師は開口一番、
「さて今日は、新しい授業を行う最初の日です。気を引き締めていきましょう。一時間目と二時間目で魔窟へと行きます。昨日も言いましたが、怪我には気をつけて、無理は禁物ですよ」
いつになくキリッとした双ぼうのうちの担任。研究科からの期待もあるだろうしな。
「そこで、皆さんにはグループを作ってもらいます」
知ってると言わんばかりに、
「もうできてますよー」
「俺らが一番、魔物を倒してやる」
などと声が上がる。
「では、四人一組、一つ三人のグループができてしまいますが、各自席の移動をお願いします」
女教師がそう言うと、各々椅子から立ち上がり四人ひとかたまりになる。
女子だけのきゃっきゃっと遊びにでも行くテンションのグループ、男子だけの同様テンションのグループ、男女混合の気合いの入ったグループ、様々な集まりができあがっている。
そして、俺たち三人のグループ。
いけるのか……?
あ、家から薬草持ってくるの忘れた。
回復頑張らないとな。
教室のざわつきが大きくなったところで、女教師は「はいはい」と手を叩く。
「鐘が鳴ったら、準備ができたところから向かって下さい。昨日のプリントは最低でも一人は持っていくように」
そう俺たちに配った紙をひらひらさせて、一時間目が始まったら、その場所へ行くよう促した。